第二十八話
「零式水戦隊が迎撃を開始しますッ!!」
見張り員が叫ぶ。井上中将は双眼鏡で空戦を見た。
フロートを付けた零式水戦隊が接近してくる二機のワイルドキャットを攻撃する。
しかし、ワイルドキャットはそれを避けて全速で包囲網を潜り抜けて第四艦隊に向かう。零式水戦が追うにもフロートを付けているので速度差はかなり違う。
「撃ち方始めェッ!!」
「撃ェッ!!」
第四艦隊は一斉に対空砲弾の三式弾を発射した。第四艦隊は旗艦八雲を筆頭に第六戦隊の青葉型が四隻、軽巡夕張と第六水雷戦隊で構成している。
一機のワイルドキャットは三式弾の雨にやられてエンジンから火を噴いた。
しかしそのワイルドキャットは落ちずに第四艦隊に向かう。
「高角砲、対空機銃撃ち方始めェッ!!」
八雲以下の艦艇から対空砲が射撃を始めた。これには流石に炎を噴いていたワイルドキャットも耐えられず、海面に墜落した。だが残った一機は八雲に四五キロ爆弾二発を投下して離脱した。
「回避ィィィッ!!」
操艦手が慌てて舵を回す。一発は至近弾となり水柱が吹き上がったがもう一発は八雲の左舷高角砲に命中して高角砲を破壊した。
「消火急げェッ!!」
「……他艦への被害は?」
「ありません。攻撃は八雲に集中したようです」
「ふむ、電探に反応はないか?」
『ありません』
井上中将の言葉に電探員はそう言った。
「……一応の危機は去ったようだな……」
井上中将はホッと溜め息を吐いた。なお、投下して離脱していたワイルドキャットは逃げようとしたが零式水戦に阻まれて撃墜された。
それから第四艦隊はウェーク島からの航空攻撃は無かった。そして第四艦隊は所定の位置に着くと主砲をウェーク島に向けた。
「支援砲撃始めェッ!!」
「撃ェッ!!」
八雲以下重巡五隻、軽巡夕張の計六隻が一斉に艦砲射撃を開始した。弾種は勿論三式弾であり、海岸線付近の陣地を撃破したり滑走路を破壊する。
巡洋艦がウェーク島へ艦砲射撃をする中、輸送船団がゆっくりとウェーク島に近づく。
そして大発等が降ろされて、兵士を載せた大発が海岸に近づく。
この時になって巡洋艦からの支援砲撃は中止となった。
流石に同士討ちをするような事はしない。
最初にウェーク島に上陸したのは海軍が陸軍から購入した八九式中戦車乙改隊だった。
「撃て撃てッ!! ジャップの死体を海岸に埋めろッ!!」
艦砲射撃から生き残っていた陣地が一斉に反撃を開始する。
しかし厚い装甲を持つ八九式中戦車乙改を貫通する事はなく、逆に八九式中戦車乙改の五七ミリ戦車砲のお返しが来て防御陣地は次々と破壊されていく。
八九式中戦車乙改隊が海岸を蹂躙している時に海軍陸戦隊が上陸してきた。
「八九式を援護しろッ!!」
下士官が兵達に指示を出して新型機関短銃である一式機関短銃を撃ちまくる。この一式機関短銃は史実の百式機関短銃をほぼ踏襲していた。(ただし陸軍名では百式機関短銃である)
違うのは弾丸が八ミリではなく、MP40等の9mmパラベラム弾である事だ。弾倉も三十発入りで装着は現代の小銃のように下向きである。
一式機関短銃(百式機関短銃)は主に下士官や中隊長や大隊長等の尉官や佐官、戦車兵に配備されつつある。ちなみに銃剣付きである。
上陸した陸戦隊は二個大隊程であったが、八九式中戦車乙改隊を先頭にして進撃を開始した。
ウェーク島の米軍守備隊は果敢にも反撃をしてきたが、上空を六十キロ爆弾を搭載した零式水戦隊が爆撃をして米軍守備隊を混乱させる。その混乱の隙に陸戦隊が雪崩れ込んで、七.七ミリや九ミリの弾丸が米兵の身体を貫いていった。
それでも米軍守備隊はめげずに応戦をしてくるが、空海を日本側に取られてはどうしようもなく降伏は時間の問題だった。
そしてウェーク島守備隊が降伏したのは上陸を始めてから八時間後だった。
そして時は再び十二月八日に戻る。
――日本、東京――
「……寒くなってきたな……」
霞は家の前の道路を箒で掃除していた。
「霞ちゃんッ!!」
「角田のおばちゃん……どうしたのですか?」
近所に住む角田のおばちゃんが霞に駆け寄ってきた。
「日本がアメリカと戦争だってッ!! ラジオで言ってるわよッ!!」
「なッ!?」
霞は慌てて家に戻ってラジオを付けた。
『臨時ニュースを伝えます。本日未明、我が帝国陸海軍は西太平洋上におき、敵米英軍と戦闘状態に入り……』
ラジオはそう伝えていた。
「……遂に始まったのか……」
霞は何とも言えなかった。
「生きて帰ってきてほしいものだ……」
霞はそう呟いて一枚の写真を見た。
写真は霞、将宏、前田、ヒルダの四人が集まって撮ったものだ。
――首相官邸――
「……という事により、自存自衛を全うするために断固として立ち上がるのをやむ無きに至ったのであります」
山本は集まった記者達に演説をしていた。
「よって、日本の団結のためにむやみな戦果報道はしないと約束します。大戦果の誤報道があれば損をするのは記者諸君だからね」
この山本の言葉に記者達は苦笑する。
「なので各新聞社も国民を煽るような事はやめていただきたい。陛下は長期戦は望んでいない。出来るだけ短期に終わらせたいと思う」
「アメリカは和平に応じるでしょうか?」
一人の記者が山本に訊ねた。
「それは分からない。が、少しでも和平にする努力は惜しまない」
山本はそう言った。
――十二月十八日、旗艦敷島――
「……シンガポールは完全に破壊したようだな」
「はい。更に角田機動部隊はペナン島等周辺の航空基地を全て叩いています。またブルネイ等にも上陸を開始したようです」
宇垣参謀長が報告する。
「うむ。是非とも油田施設は無傷で手に入れたいものだな」
堀長官は東南アジアの地図を見ながらそう呟いた。シンガポールは開戦日に角田機動部隊が奇襲攻撃をしてイギリス東洋艦隊を叩いていたので然したる心配はなかったがインドネシア方面にはまだオランダ艦隊等もいたので多少の警戒は必要であった。
「内地に帰還予定の第一航空艦隊と第一艦隊は何処にいるかね?」
「大体ウェークの北方でしょう」
堀長官の問いに宇垣参謀長はそう答えた。
「第一航空艦隊と第一艦隊の出撃は年明けになりそうだな」
「はい。その間に陸軍がシンガポールを占領出来たら御の字ですが……」
「まず無理だろうな」
「無理でしょうね」
二人はそう呟いたのだった。
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