第二十五話
二話先で歴史の修正力が働こうとなります。
――ホワイトハウス――
「何ッ!? ジャップが真珠湾を奇襲攻撃中だとッ!!」
部下からの報告を受けたルーズベルトが驚いた。
「奴等の狙いはフィリピンではないのか……」
「恐らく太平洋艦隊を叩くのが目的でしょう」
部下はそう言った。
「だが真珠湾の深度は浅いはずだ」
「ですが、ジャップの魚雷は走ったそうです。恐らくジャップは何らかの方法で浅瀬でも雷撃が出来る魚雷を開発したのではないですか?」
「……何て事だ……」
ルーズベルトは思わず顔をしかめた。
「……だがこれで大義名分は整った。流石に騙し討ちは公表出来ないがな」
日本政府は開戦十分前に全世界に向けて米英蘭等に対して宣戦を布告していたのだ。
「ですがリメンバー・パールハーバーにはなります」
「……それもそうだな」
ルーズベルトはニヤリと笑う。
しかしその笑みは、次から次へと来る損害の報告にルーズベルトは青ざめるのであった。
真珠湾は燃えていた。
「……アメリカの太平洋艦隊の巣窟が燃えてるなんぞ誰が想像出来たか……」
第三次攻撃隊総隊長の関少佐は九九式艦爆の操縦桿を握りながら眼下の真珠湾を見ていた。既に関少佐は投弾し終えて戦況を見るために高度四千を飛行している。
真珠湾にいる艦船は燃え、その身は海水に浸からせている。幾つもの艦船が転覆していた。
第三次攻撃隊は真珠湾の修理施設等を中心にして攻撃をしていた。関少佐自身も先程の急降下爆撃でドックのクレーンを破壊している。
「赤城に打電しろ。真珠湾の目ぼしい物は全て破壊したとな」
「分かりました」
後部座席に座る機銃手兼通信手がキーを叩いて打電する。
「後は……敵空母だな」
関少佐は眼下にいない艦艇を思い、そう呟いたのだった。
――第一航空艦隊旗艦赤城――
「第三次攻撃隊の関少佐機から入電です。真珠湾の軍港施設は粗方破壊したようです」
通信参謀が通信兵から渡された通信紙を読み上げる。
「……どう思うかね河内君?」
小沢長官は将宏に聞いた。
「粗方破壊はしたと思いますが、相手はアメリカです。作戦通りに第一艦隊による艦砲射撃はやらせましょう。それにアメリカに大和の威力を知らしめるいい機会です」
将宏はそう言った。
「ふむ……なら作戦通りにするか。航空参謀、攻撃隊の収容はどうか?」
「既に第一次攻撃隊の航空機は全機収容完了しています。第二次攻撃隊も損傷機から着艦させる予定です」
内藤航空参謀はそう言う。
「……彩雲はまだ何も言って来ないか?」
「残念ながらまだありません」
「……まだか」
小沢長官はそう呟いた。
各空母には新型艦上偵察機の彩雲が二機ずつ収容されていた。全部で十六機の彩雲は全てウェーク島方面へ索敵に出していた。
その理由は勿論、敵空母――エンタープライズを捕獲するためである。
「第一次攻撃隊は損傷機を除いて艦船攻撃用に兵装転換中です」
「……仕方ない。エンタープライズが見つかるまで辛抱強く我慢しよう」
「徳川家康ですね」
「そのようだな」
将宏の言葉に小沢長官達は苦笑した。
「金剛達はどうする? 先にウェーク島方面に向けて分離した方が良くないか?」
小沢長官は将樹に聞いた。
「分離しましょう。分離して彩雲が見つけたらその海域に差し向けたらいいんですから」
「決まりだな」
小沢長官は頷いて戦艦部隊の分離を発光信号で知らせた。分離するのは金剛型四隻に軽巡阿賀野、駆逐艦八隻である。
金剛型を四隻も分離するのは良くないのではないかと批判があったが、オアフ島の航空戦力は壊滅しているし空母は二隻しかいないから戦艦の対空射撃が無くても十分に防げると判断したのだ。
戦艦部隊司令官の三川軍一中将は金剛型を中心にした輪形陣を整えてウェーク島方面へ向かったのであった。
一方、ウェーク島はマーシャル諸島に駐留する千歳空の九六式陸攻二七機による奇襲攻撃を受けていた。
「消火急げェッ!!」
この奇襲攻撃は成功して滑走路は破壊され、駐機していたワイルドキャットは二機を残して破壊されたのである。
第四艦隊司令長官の井上中将は、旗艦を八雲にして零式軽戦車十二両と海軍陸戦隊を乗せた輸送船団を護衛しながらウェーク島へ航行していた。
また、第四艦隊には輸送船団を守るために零式水戦を搭載した二隻の特設水上機母艦がいた。特設水上機母艦は零式水戦を九機ずつの十八機を搭載している。
井上中将は史実の事を教訓にして六機ずつ上げて警戒していたのである。第四艦隊は万全の体制で航行していた。
そして遂にあれは発見された。
「航跡発見ッ!!」
偵察員が発見した場所を指差す。
「急いで艦隊に打電するんだッ!! 早くしないと敵戦闘機が来るぞッ!!」
操縦士の言葉に通信手が慌ててキーを叩いた。
「速度を活かしてあいつらの艦艇を全て知らせろッ!!」
彩雲は迫り来るワイルドキャットに最大速度で逃げる。
『敵空母発見』
その電文は直ぐに第一航空艦隊に届くのであった。
――空母エンタープライズ――
「ジャップの偵察機を取り逃がしただとッ!!」
エンタープライズの艦橋でブルの異名を持つハルゼー中将が叫んだ。
「戦闘機隊は何をしていたんだッ!!」
「それがジャップの偵察機はかなりの高速を出していたらしく、戦闘機を改造した偵察機ではないかと思います」
参謀がそう言った。
速度の速い偵察機など艦橋にいる誰もが信じていなかった。
「だがこれでジャップに我々の位置がバレた。十分な対空警戒をするんだ」
「サーッ!!」
ハルゼー中将の言葉に参謀は敬礼をした。
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