第二十二話
――回想――
「俺が聯合艦隊司令長官の任を引き受けたんだ。河内少佐にもしてもらうからな」
いきなり聯合艦隊旗艦敷島に呼ばれた将宏は目が笑っていない堀長官にそう言われた。
「謀ったなシ○アッ!!」
「誰が○ャアだ」
将宏のネタに堀長官がツッコミを入れる。
「第一航空艦隊の特務参謀だ。それと少佐に昇進させておく。小沢を出来るだけ補佐をしろ」
「……了解です」
将宏は堀長官に敬礼をした。
――回想終了――
「(彗星が完成したら一機ただで貰おうかな。何使うかは上の言葉がヒント……なのか?)」
『いや知らんがなby作者』
少々電波が乱れた。
「今の段階でこちらのアドバンテージは空母の数と君の史実だ。よろしく頼むよ」
「分かりました」
二人は敬礼しあってそこで別れた。
「……そういや前田大尉は大丈夫やろか……」
将宏はそう呟いて艦尾に向かった。
「オェ〜〜〜」
「……まだ吐いてるし……ってヒルダ、前田大尉の介護しとけ言うたやんか」
海に向かって胃の中身を出している前田大尉に溜め息を吐きながらもヒルダに文句を言う。
「さっきから胃液しか吐いてないから大丈夫だ」
ヒルダは興味なさそうに言ってメガネをくいっと上に上げる。
「オェ〜〜〜」
「……大丈夫やろか……」
将宏は深い溜め息を吐いた。
――十一月下旬首相官邸――
山本以下内閣の大臣達は首相官邸に集まっていた。
「……これがアメリカの回答なのかッ!!」
紙を持ちながら東條が怒りに震えていた。
「……白州さん、アメリカはこれを飲まない限り交渉には応じないと?」
山本は表面上は落ち着いた様子だったが、内心はかなりの動揺をしていた。
「(これは酷すぎる……)」
アメリカは今後の日米交渉はハル国務長官から渡されたハル・ノートを飲まない限り交渉には応じないとハル国務長官は駐米大使野村吉三郎に言っている。
内容はほぼ史実と同じだが、史実のハル・ノートは三項目に中国からの撤退(ウィキ参照)と書かれていたが、この世界でのハルノートには台湾、満州国からの撤退も書かれており、二項目には仏印の他にも千島列島、南樺太からの撤退も書かれていた。
また日本陸海軍の大幅な軍縮に戦艦大和、長門、陸奥は解体若しくはアメリカとイギリスに売却するなど書かれていた。
「……国際世論も当てには出来ないだろう。恐らく英米が工作しているはずだ」
吉田茂がそう言った。
「……皆さん」
その時、山本が口を開いた。
「此処は覚悟を決めるしかないようです。もはや今の日本は四面楚歌と言っていい状態だ」
山本がそう言ったのを、東條達が頷いた。
「……では1208に?」
「はい、残念ながら大日本帝国は十二月八日に米英蘭に対して宣戦を布告します」
山本の言葉が部屋内に響いた。戦争への道が決定した今、その準備を急がせていた。
「吉田さん、東京〜横須賀間の高速道路建設はどうなっていますか?」
「予定通りなら来年の三月には竣工するだろう」
吉田茂は二本目の葉巻に火を付けながらそう言う。
「分かりました。人員が送れるところがあるなら送りますので早めに御願いします」
「分かりました」
吉田は頷いた。
「陸軍として聞きたいのだが、輸送船の建造や戦車揚陸艦の建造は進んでいるのかね?」
陸軍代表として東條が山本に聞いた。
「輸送船や戦車揚陸艦はブロック工法や電気溶接等で建造中です。年末には更に十二隻の輸送船が竣工しますが、戦車揚陸艦はまだ掛かります。なにせ初めての試みなので」
戦車揚陸艦は史実の第一〇三号型輸送艦を元に計画、建造中であり、戦車のみの揚陸艦として中戦車十二両を搭載する。
この戦車揚陸艦は陸軍も予算を出しており、計画では五四隻が建造予定である。
「分かりました、よろしく頼みます。我々は陸でしか戦えませんからな」
東條はそう言った。
「内地の対空電探の設置はどうなっていますか?」
山本は反対に東條に聞いた。
「一応は伊豆大島、舘山、和歌山、鹿児島等に設置予定ではあるが、海軍さんの方が優先しているので何とも……」
「それは大変すみません。早めに終わらせますので」
痛いところを突かれた山本が東條に謝る。その光景に白州達は苦笑する。
「ところで辻や服部達はどうしていますか?」
「あぁ、元気に作戦を練っとる。よほど陛下に叱責と励ましを貰っているからな」
将樹は史実を変えるために史実で罵声を浴びせれた将官や佐官の飴と鞭を陛下にさせていた。代表的な例が牟田口に辻、服部である。
三人とも既に史実を知る人物で史実を教えてもらったのは何と陛下からだったりする。
陛下も将宏からの要請に答えて一役買っていたのだ。
この作戦は見事に当たり、三人は頭を変えて将宏に教えを乞いに行ったりもする。
ただし栗田、てめぇは駄目だ。
〜〜電波が乱れました〜〜
なお、栗田少将は伏見宮から「海護には貴様のような猛者がいないから来い」と第七戦隊司令官から第二護衛隊司令官に転任しており、輸送に熟知して後に「輸送の神様」と言われたりもする。
「準備は整えている。後は陛下の承認だけか……」
山本はそう呟いた。
――空母赤城――
「日付変更線を越えると時計を五時間進めるんだ。そして今日を昨日にするわけだ」
「馬鹿言っちゃいけねぇよ。今日が昨日に戻るわけないじゃないか」
赤城の調理室で二人の炊事兵が話していた。
「あのな、お前は昔からそうだけどな、何で十三時ちょっと前に夕飯の支度をしているんだ?」
「……そうだよな。十三時ちょっと前なら昼飯は済んでいるもんな」
「そうだ。だから日付変更線で便宜上、今日を昨日にして時間の修正をしているんだ」
「……よく分からないけど、だったら百八十度線のところで敵と遭遇したら攻撃は当たらないな」
「どうして?」
「どうしてって……昨日の敵に今日の弾は当たるわけないだろ?」
「……はぁ……あちッ!!」
同僚炊事兵の言葉に説明をしていた炊事兵は溜め息を吐いて味噌汁を飲んだが、味噌汁の熱さに叫んだ。
「もうすぐハワイか……」
将宏は前方の海を見ながら呟いた。
「ところで少佐。私は此処にいてよかったのか? 一応女だし外国人だが……」
ヒルダが言う。
「ヒルダは今は大日本帝国海軍軍人やから問題ないわ。それにヒルダを襲えば陛下から直接刑罰を下されると小沢長官が言ってるしな」
「ならいいんだがな」
「それに……ヒルダに知ってもらいたいんや」
「何をだ?」
「……完全に怒らせた俺達日本軍の戦いをな」
将宏はヒルダにそう言った。




