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第十八話







――1941年三月上旬、キール軍港――


「……これが売却された小型空母か……」


 キール軍港に日本の小型空母が入港したのを知ったレーダー長官は急ぎキール軍港にやってきた。三隻の小型空母はフィンランドに九六式艦上戦闘機二二型を売却後にキール軍港に来たのだ。


「乗組員の練度はどうなっているのかね?」


 レーダー長官は部下に聞いた。


「日本海軍の乗組員からキール軍港に来るまで教われる分は教われました。が、まだ不馴れな部分があるので六月までの契約となりました」


 言わば傭兵だった。


「そこは上手くやっておこう。なにせ日本海軍は我々の先輩だからな」


 レーダー長官はそう言った。


「航空機も見たいが構わないかね?」


「はい。それでは案内します」





「此方が日本海軍の九六式艦上戦闘機と九七式艦攻です」


 レーダー長官と部下は小型空母の格納庫にいた。


「戦闘機は固定脚か……」


「ですが速度も五百二十キロを出しているのでスピットファイヤーやハリケーンといい勝負になると思います」


「それはいいな。それと雷撃機か。空軍は急降下爆撃機しかないから対艦戦はやりやすいな」


 後に九七式艦攻は機体がライセンス生産となりエンジンはドイツのダイムラーエンジンを搭載してドイツ海軍航空隊を支える事になる。


「取りあえずはなるべく早くに慣熟訓練を済ましてくれ」


「分かりました」


 レーダー長官の言葉に部下は頷いた。






 ドイツ海軍が小型ながら空母を保有した事にイギリスは危機感を覚えた。


 イギリスは日本に対して空母提供を破棄するように迫るが、駐英大使の吉田茂は「日独伊三国同盟の一環として提供したものであり、前々からドイツから空母提供を打診されていたので提供したまでに過ぎない」と声明を発表した。


 ドイツもこれを認める動きをしていた。


 この一連の事にアメリカ、イギリス、オランダ、更には中国までもが日本に対して史実より早いABCD包囲網を宣言した。






「……史実より早めに石油等が絶たれました」


「だがそれは予想していた事だ。それに燃料も備蓄をしているし、日華事変も起きていないから今のところは燃料が不足していない」


 集まった会合で呟いた将宏の言葉に伏見宮はそう答えた。


「満州の油田も掘削が続けられているが中々当たりが来ない」


 東條が悔しそうに言いながら酒を飲んだ。


「一応ドイツから人造石油の方法を聞いているが実用化にはまだ遠いだろう」


 同じく杉山も酒を飲みながらそう言った。


「まぁ唯一の救いは中国だろう」


 伏見宮はそう答えた。中国は確かにABCD包囲網に宣言をしていたが、今の日本と中国は戦争になっておらず中国の首脳陣も蒋介石の国民党である。


 日本は中国共産党を叩く支援として武器を格安で売却したりして国民党は日本に頭が上がらない状況だった。


 更に中国と満州の国境には陸軍が八九式中戦車乙を配備したりして「もし裏切ったらどうなるか分かってるよな?」と睨みを効かせていたのだ。


「運命の1208までもうすぐです。外交努力はしますがアメリカが戦いたい事は明確ですから出来るだけ軍備は揃える必要があります」


「海軍は石油を運ぶためのタンカーはと物資を運ぶ輸送船は出来るだけ建造はしているが乗組員の慣熟訓練が間に合ってない。パイロットは鷲に鍛えられたヒヨコが揃いつつある」


 伏見宮は報告書を見て言う。


「更に真珠湾攻撃用の浅沈魚雷も生産している。出撃までには揃うはずだ」


 山本長官が言った。


「……なぁ山本、俺は此処にいていいのか?」


 山本の隣にいた堀中将が呟いた。堀中将は既に予備役から現役に復帰して今は第三艦隊司令長官をしていた。


「大丈夫だ。何も問題はない」


 山本は苦笑しながら盟友に言う。


「そうですよ堀中将。それに堀中将には重要な役職に就任してもらう必要がありますから」


 将宏は堀中将にニヤリと笑って言った。


「それと食糧の備蓄はどうなってますか?」


「取りあえずは前年度から備蓄を始めているが……配給制になるかもしれん」


 農林大臣の石黒忠篤が悔しそうに言う。


「……配給制は避けたかったですが仕方ないでしょうね。満州での生産が上がればいいんですが……」


「ご都合のような世界ではないからな」


 伏見宮が言った。


「南方で正式な交渉をしてから買い取る手もあるがな」


 石黒が呟いた。


「それは始まってからでしょう。今の状況では無理でしょうね」


 将宏はそう呟いて溜め息を吐いた。



 そして五月中旬、満州にて遂に油田を堀当てるのに成功し更には欧州でビスマルクは小型空母の護衛により沈まず、無事生還する事に成功したのである。


「……ドイツ海軍は上手く小型空母を使ってくれたみたいやな……」


 ドイツ海軍はビスマルク隊と空母部隊の二つに分けてライン演習作戦を決行した。


 空母部隊はフランス寄りを航行して陸上からの援護を元に(わざわざレーダー長官がゲーリングに頭を下げてイギリスの南部航空基地を壊滅させるなどした)危険なドーバー海峡を突破してビスマルクの上空に九六式艦上戦闘機を派遣してビスマルクを守った。


 更に索敵機を十分に放って敵イギリス艦隊の状況をUボート等に送信して獲物を狩らせた。


 これによりビスマルクは中破、小型空母一隻が沈没する被害を出したが通商破壊は半分程度が成功するのであった。


 ドイツ海軍は海戦後、ビスマルクと小型空母をブレストに入港させて大西洋の睨みを効かせた。


 そしてレーダー長官は輸送船を改装した小型空母の建造に着手した。これにはヒトラーも空母建造を認めてゲーリングも渋々とパイロットを貸し出すのはまだ先の事である。


「……ビスマルクがあればイギリスも下手に太平洋に手だしは出来んやろな……」


 将宏はそう呟いた。


――七月上旬、柱島泊地――


 柱島泊地は聯合艦隊の大部分が集結する泊地であるが、今は空母を主力にした艦隊しかいなかった。


「左舷から雷撃機九機接近ッ!!」


 改装が終わった空母赤城の艦橋で見張り員が叫ぶ。


「面舵二十ッ!!」


 防空指揮所にいた長谷川艦長が操艦手に告げる。


 赤城は面舵をして投下された訓練用魚雷を必死にかわそうとする。しかし二本の訓練用魚雷が赤城の艦底をくぐった。


「魚雷二本命中ッ!!」


 見張り員が叫ぶ。


「……練習航空隊もやるな」


「そのようですな」


 上昇していく九六式艦上攻撃機を見ながら第一航空艦隊司令長官の小沢治三郎中将と参謀長の古村啓蔵少将がそう呟いた。


 本来なら史実のマリアナ沖海戦でコンビになる二人だが、この世界では第一航空艦隊設立時からであった。


 第一航空艦隊は練習航空隊の訓練を手伝いながら自艦隊の操艦の腕を鍛えていた。各空母の搭載機は無かった。搭載機は鹿児島の錦江湾で訓練訓練また訓練をしていた。


 全てあの場所を攻撃するためであった。


「敵機急降下ーーーッ!!」


 見張り員が叫んだ。


 赤城上空から九六式艦上爆撃機が急降下爆撃をしようとしていた。









御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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