第十七話
やはりドイツは海軍も強化させませんと。
第一次大戦まで強力な艦隊がいましたし。
――1940年九月二五日東京――
「……北部仏印の進駐を開始した」
会合で東條が言う。
「仏印は東南アジアの戦略上、重要な場所だ。仏印は是非とも抑えたい」
「ですが南部仏印まで進駐するとアメリカとの関係が悪くなります」
意気込む東條に将宏はそう言って抑える。
「……開戦後に占領するしかないだろう。仏印のゴムは確保せねばならんからな。特に大和型に使用している」
日本は世界に大和の公表をしていた。表向きは史実と同じ三連装四六サンチ砲三基を搭載する予定にしている。この日本の公表にアメリカ、イギリス、ドイツの海軍関係者はショックを受けた。
アメリカは四十サンチ砲のアイオワ型の建造を承認して更に四六サンチ砲搭載予定のモンタナ型の建造計画に入った。イギリスは四六サンチ連装砲四基搭載した高速戦艦の計画をするが、後の対独戦にて白紙に戻る事になる。
ドイツはビスマルク型を建造したが、この公表によりH型戦艦の計画を早めた。またドイツは日本に接触をして四十一サンチ砲の技術を学んだ。
これはイギリスがロドネー等の四十一サンチ砲搭載戦艦がいるのでビスマルク型を改装して四十一サンチ砲を搭載しようも目論んでいたのだ。
また日本はドイツからMP40の輸入とライセンス生産を取得して主に戦車兵や下士官に配備される事になる。このMP40は日本では零式短機関銃と呼ばれるのであった。
「大和型は不沈艦として米軍に睨みを効かせねばならん」
大和型は両舷の防御に某小説で有名なゴムを注入した層を設けていた。本当ならスポンジの層も設けるのだが、予算の関係で無理になりゴムの層と代わりにコルク等の層を作るしかなかったがそれでも不沈性はある。
「確かにそうですね」
将宏は頷いた。
「陸軍は機械化のためにアメリカから中古のトラックを大量に購入しているが最近、アメリカがトラックの輸出を縮めてきた」
「……恐らく軍拡に気付いて少しずつ減らしているのでしょう」
将宏はそう判断した。
「国内での生産をも急がせているが……数は足りんな。戦車も作らねばならんからな」
杉山は溜め息を吐いた。
「アメリカ並の工業力があればいいんですが……無いものねだりをしても仕方ないですね」
「取りあえずブローニングの十二.七ミリ機関銃の生産は落とさないつもりだ」
東條はそう言った。
「後は……パイロットの育成ですね。陸海とも進んでいますか?」
「赤トンボの生産や白菊、零式練戦の数を増やしているが徐々にパイロットも増えている」
パイロットの大量育成のために、部隊等からベテランパイロットを大量に練習隊に移動させている。
また一日の飛行時間も約三時間程度にまで増やしている。
「消耗戦になる確率は高いですからね。ソロモン航空戦は何としても避けたいですし」
将宏はそう言った。
「それと例のあれはどうなっているのかね?」
杉山は山本長官に聞いた。
「改装工事を急がせています。よくて年内までには竣工します」
「出来るだけ早めに頼む。造船所から工員を集めさせる」
伏見宮はそう言った。
――1940年十月、ドイツ海軍総司令部――
「な、何ですとッ!?」
ドイツ海軍総司令部の一室で、ドイツ海軍長官のレーダー元帥が思わず叫んだ。
「そ……その話は本当ですか?」
レーダーは目の前にいるドイツ駐在武官の日本海軍中佐に訊ねた。
「はい、我が日本海軍は日独伊三国同盟の一環として小型空母三隻をドイツに提供します」
海軍中佐の駐在武官はそう答えた。
「……しかしだ、今の日本海軍は空母は一隻でも必要ではないのかね?」
レーダーは内心で喜びつつも駐在武官に聞いた。
「いえ、提供する小型空母は輸送船から改装した空母なので然したる問題はありません」
この小型空母改装は将樹が逆行後に密かに改装していたのだ。将宏がドイツ海軍に小型空母を提供するのはビスマルクを救うためでもあった。
「此方が小型空母のデータです」
駐在武官がレーダーに紙を渡した。小型空母の搭載機は三十機、連装高角砲四基、三連装対空機銃十基、最大速度は二八ノットである。
「問題点は空母が輸送船からの改装です。なので防御力は弱いです」
「それは仕方ないだろう……が、私個人としては嬉しい限りだ」
レーダーはニヤリと笑った。
「その小型空母の受け渡しは何時になるのかね?」
「本国からの報告では工員を大量に集中させているようで、十二月に竣工予定です。そしてそのままドイツに向かうとの事です。突貫工事らしいのでもしかしたら若干の浸水があるかもしれませんが……」
「いやそれは我々のところでしよう。だが問題は搭載機だ。我々には搭載する航空機は無い」
レーダーは悔しそうに言った。
「艦載機は此方のを格安で売却します。戦闘機は旧式の固定脚ですがまだまだ活躍出来る九六式艦上戦闘機三三型です」
この九六式艦上戦闘機三三型はフィンランドに売却するために作られたと言っていい。エンジンは史実の零戦二一型が搭載していた栄エンジンであり、武装は機首と主翼に十二.七ミリ機関銃四門である。速度は推力式排気管を採用して五百二十キロを出し、航続距離は千六百キロだった。
既にフィンランドには一個中隊規模の九六式艦上戦闘機三三型が売却されている。
「小型空母はフィンランドに戦闘機を売却してからドイツに向かいます」
「分かった。だが我が乗組員も出来るだけ早くに空母の運用になれさせねばならん。インド洋に空母用の乗組員をUボート等で派遣する」
レーダーは俄然やる気を出していた。
「分かりました。本国にそう伝えておきます」
駐在武官はそう伝えて大使館に帰った。
「……問題はパイロットだ。全て空軍の管轄だからな。前にもグラーフ・ツェッペリン用のパイロット貸し出しも断られたからな。あのゲーリングには頭を下げたくないしな……」
レーダーはそう呟き、温くなったコーヒーを飲む。
「……待てよ。直接総統に直訴してみるか。総統に空母の必要性を伝えれば海軍独自のパイロットを確保出来るかもしれないな」
そう考えたレーダーはコーヒーを飲み干して、そのまま総統官邸へと向かったのであった。
――ベルリン、総統官邸――
「ハイル・ヒトラーッ!!」
応接室で数分待たされたレーダーは、許可が降りて総統室に入った。
「レーダー、いきなり訪ねてきて何かあったのかね?」
ちょび髭のドイツ第三帝国総統のアドルフ・ヒトラーはレーダーに訊ねた。
「実はお願いがあって参りました」
「ほぅ、願いか」
ヒトラーは少し興味があるように言う。
「実は空軍のパイロットを一部海軍に回すか、海軍独自のパイロット育成の許可が欲しいのです」
「ほぅ……海軍にパイロットか。だが海軍には空母は無いはずだが?」
「実は日本から小型空母三隻を売却すると打診がありました」
「……何?」
ヒトラーがジロリと睨む。その眼光にレーダーは身体をビクッとさせるが直ぐに持ち直した。
「先程、日本海軍の駐在武官が海軍総司令部に来まして、輸送船を改装した小型空母三隻とその艦載機の売却を言ってきました」
「……ふむ」
ヒトラーは運ばれたコーヒーを飲む。
「確かに空母は必要だ。しかし何故余に言ってきた?」
「空軍のゲーリングがパイロットを貸そうとしないからです。そのために総統にお願いに参ったわけであります」
「……成る程。余を利用してパイロットを確保したいと?」
「罰は受ける覚悟であります」
レーダーはヒトラーに頭を下げる。
『………………』
二人は暫くは何も発しなかった。やがて、ヒトラーの方から口を開いた。
「良いだろう。ゲーリングには余から言っておこう」
「総統の御決断に感謝します」
「ただし三ヶ月間の給与は減給だ」
ヒトラーなりの処罰だった。
「は、分かりました」
レーダーはヒトラーに頭を下げた。
そしてゲーリングはヒトラーからの要請を受けて仕方なくパイロットの提供を承諾したのであった。こうしてドイツ海軍の小型空母受け渡しの準備は着々と進んでいた。
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