第十六話
ドイツ軍強化フラグが立ちました。
――1940年三月十五日、東京――
「ソ連は冬戦争を終わらせたが、フィンランドに対する武器輸出は続けるのかね?」
料亭に集まった会合で東條が司会役の将宏に聞いた。
「続けるべきだと思います。まだ三八式野砲は改造型をも含めてまだありますからね」
東條の質問に将宏はそう答えた。冬戦争が史実通りに平和条約がソ連とフィンランドで結ばれていた。(領土を負けているはずのソ連に渡していた。日本義勇軍が引き揚げた後にその隙を突いて占領したのだ)これに対して日本はフィンランドに対して三八式野砲やその改造型、三八式歩兵銃、九六式艦上戦闘機、九七式戦闘機を格安で売却していた。
それらを積んだ輸送船はフィンランドに陸揚げして今度はドイツに向かい、ドイツから輸入する工作精密機械を受け取って日本に帰港している。
「それにドイツとイタリアが九七式中戦車の購入を求めてくるとは思わなかったな……」
東條はそう呟いた。冬戦争後、ドイツとイタリアが日本に対して九七式中戦車の購入を求めてきたのだ。
この報告に将宏は少し吃驚したが売却するべきだと思った。ドイツは兎も角、イタリアが買えば北アフリカ戦線のイタリア軍も少しは楽になると踏んだのだ。
この時の九七式中戦車購入でドイツ軍は前面装甲を七五ミリにして長砲身の四号戦車の登場が早くなるのであった。
また戦車を購入してもらう代わりにエンジン開発のためにドイツから技師を派遣してもらい指導してもらっていた。
日本はドイツと1940年の一月に日独技術交換協定が結ばれており、ドイツから技師が各工場に来たりしていた。
「……八九式中戦車乙改も四月に制式採用される予定だから戦車部隊の穴を埋めるのは丁度いいかもしれんな」
杉山がそう言った。
「それなら仕方ないですね。国内のインフラはどうですか?」
将宏は阿部内閣の商工大臣の伍堂卓雄に聞いた。
「東京〜大阪間の高速道路及び新幹線を建築しているが中々進まないな。高速道路は東京だけではなく、大阪からも作っているが時間が掛かる。今は東京〜横須賀間の高速道路を優先的に建築している」
物資の輸送を早くするために高速道路を建築しているが、中々進まないのである。
「高速道路建築に八九式中戦車の車体に鉄板を付けたブルドーザーはどうしたんですか?」
将宏は高速道路を作る前に早く開通するように中島元大臣に具申していた。
将宏の言葉を聞いた東條、杉山、伏見宮は申し訳なさそうにした。
「……済まない楠木君。実はブルドーザーは航空基地の拡張や工場、ドックの拡張で引っ張りだこにしているんだよ」
伏見宮が済まなさそうに言う。
「……それは仕方ないですね。なら乙の武装を外して鉄板を付けましょう。乙もそのうち退役しないといけませんから使える時は使いましょう」
八九式中戦車乙はフィンランドに輸出しているがは国内にはまだ多数あったのだ。
「……それしかないだろう。直ぐに取り掛かるよう要請しておこう」
後に八九式中戦車乙の車体は43年までブルドーザーが登場するまでに製造されるのであった。
「最後に海軍ですが……大和型はどうなってますか?」
「……五一サンチ砲の生産の目処は既にたっている。大和と武蔵も艦の全長も延ばしている……しかし大和型を本当に公表するのかね?」
伏見宮は将宏にそう聞いた。
「はい、ただし真実は言いません。主砲は四六サンチ砲にしてアメリカを撹乱します」
「……つまり奴等に戦艦を建造させて空母の建造を遅れさせるわけだな?」
将宏の意図に気付いた山本長官が言う。
「正解です。今のアメリカは未だに大艦巨砲主義が大多数を占めるので大和型を公表すればショックを受けるでしょう。そして大和型を上回る戦艦を建造しようと思います」
「……中々の良案だな。宮様、どうでしょうか?」
山本長官が伏見宮に訊ねた。
「……やってみる価値はあるだろう。やってみるのだ」
伏見宮は許可を出した。
「ありがとうございます」
将宏は頭を下げた。
「新型戦闘機の開発はどうなっているのかね?」
「十二試艦戦は既に金星エンジンを搭載して試験飛行をしています。早ければ今年の六月には制式採用されます」
山本長官が十二試艦戦のデータを見せた。
「金星エンジンで推力式排気管を採用して、最大速度は五七三キロを出している。武器は機首には一式十二・七ミリ固定機関砲を元にした零式十二.七ミリ機関銃二門と主翼に九九式二〇ミリ二号機銃四型を二門搭載しているか……」
データを見た伏見宮が声に出して言う。
「零式十二.七ミリ機関銃にはマ弾も装備してますね」
将宏はデータを見て頷いた。
「生産も大量生産しやすいように陸海共同で使用する事が決まった。他にも局地戦闘機も陸軍が開発中の戦闘機に決まった」
この局地戦闘機は後の一式局地戦闘機(史実の二式単戦)鍾馗である。
「あ、それとマリアナやトラック方面の陣地構築は進んでいますか?」
将宏は山本長官に聞いた。
「あぁ、既に構築は始めている。史実のマリアナみたいにしたくはないからな」
山本長官はそう言った。
マリアナ諸島やトラック諸島の島々は陣地構築に勤しんでいた。
「山本君、なるべく米軍に気付かれないように頼む。奴等が気付いたら何をするか分からんからな」
「分かっております」
伏見宮の言葉に山本長官は頷いた。
「ところで……海軍に特別入隊したヘルミンク少尉はどうなっているかね?」
『………』
杉山の言葉に伏見宮達は視線をずらして将宏を見た。
「……まぁ一応履歴通りのクラッシャーにはなっていませんが……よく軍服をはだけて彷徨いています……」
「……海軍は何をしているんだ……」
東條は溜め息を吐いた。
「ですがヘルミンク少尉の腕は一流です。先日もベテランパイロットが乗る二機の九六式艦上戦闘機を相手に勝ちましたから」
将宏はヘルミンク少尉を擁護する。
「……まぁいいだろう」
杉山はそう言った。
――横須賀航空基地――
六月十日、将宏は横須賀航空基地にいた。
「調子はどうや真希波?」
「別に異常は無いな」
着陸した零戦の操縦席からヒルデガルト・ヘルミンクから日本名に改名した真希波陽流那が出てきた。
零戦は陸軍の航空工場でも生産されて陸軍に配備されつつあった。なお、零戦の陸軍名は『隼』である。海軍は空母航空隊から配備されていき、基地航空隊は今のところ横須賀航空隊と岩国航空隊しかない。
「急降下制限だけど、七百五十キロ辺りから振動してたから七百三十キロが妥当と思うぞ」
「分かった。上にはそう具申しておく」
ちなみに真希波の日本名には某ロボットの仮設五号機パイロットとよく似た名前にしたのは将宏だと追記しておく。
「だってショートヘア以外は似てたし」
「ん? 何か言ったか?」
「いや何もないわ」
首を傾げた真希波に将宏は何でもないと首を振る。
「液冷エンジンに比べて空冷エンジンはどうや?」
「あんまり気にしてはないな。日本で液冷エンジンが作れないのも何となく頷ける」
真希波はそう言った。史実でも陸海軍は液冷エンジンを搭載した航空機を開発してきたがどれも液冷エンジンに泣かされたと言っていいかもしれないだろう。
「ま、格闘性能はBf109よりかなりずば抜けてるな。Bf109は一撃離脱戦の戦闘機だからな」
真希波はそう言って飛行眼鏡を取る。ちなみにこの飛行眼鏡には度が入っており、真希波専用の特注品の飛行眼鏡である。真希波はこの飛行眼鏡を戦闘機に乗る時には予備としてもう一個持っている。
「それにしてもこの飛行ゴーグルはいいな」
「……そうやろな(なんせ俺の自腹やからな)」
流石に海軍も一人の女性パイロットのために特注品の飛行眼鏡代を出すわけにはいかなかった。
「貴様の副官なんだから貴様が出せ」
会計の軍人に言われた将宏は泣く泣く自分のポケットマネーから特注品の飛行眼鏡代を出したのだ。
「ところで、ドイツにあれを送るのは本当か?」
真希波が聞いてきた。
「あぁ、ドイツ海軍には必要やからな」
真希波の質問に将宏はニヤリと笑った。
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