第十三話
いや流用ですみません。
――九月一日、モスクワ――
「それではこれで停戦です」
「……うむ」
日本の停戦交渉代表の東郷はソ連代表のモロトフと握手をした。
それは史実より少しばかり早い停戦だった。
結局、国境線は満州国が主張するハルハ河に置くことになった。
一連の事件によりモンゴル軍は戦力の大半が失われ、極東ソ連軍も戦車部隊等の半数が壊滅的状態となった。
勿論これはスターリンの耳に入り、ジューコフ等がシベリアへ送られる事は決定事項だった。
ソ連軍は仮想敵国をドイツと日本に据え置き、更なる軍拡が図られる事になる。
「……ヤポンスキーの戦車はかなりの強力な戦車か……。ならば此方も重戦車を開発する必要があるな」
モスクワのクレムリンでスターリンはそのように呟き、陸軍に対して重戦車の開発をするように要請した。
これによりT-35重戦車の生産が史実より多く生産される事態になったが将宏はそれに気付いていなかった。
「ノモンハン事件で重戦車の重大さは陸軍内でも続出している。九七式中戦車も更に増産されるだろう。それに八九式も更なる改造型が計画中だ」
会合で杉山がそう報告をした。
「それはよかったです。史実みたいにペラペラな装甲でやられていく戦車隊を見たくないですからね」
将宏は杉山の報告を聞いてホッとしたように言う。
「河内君は大丈夫かね? 聞けばノモンハンでえらく精神が削られたと聞いたが……」
伏見宮が将宏にそう聞いてきた。
「まぁ確かにそうですが、前田少尉の妹さんに気合いを入れてもらったので何とか大丈夫です」
将宏はノモンハン事件後、幾度なく自らが落とした戦闘機の夢を見ていた。しかもパイロットは顔面血だらけで将宏の方を見ていた。
流石に未来人であった将宏には耐久力が無く、毎晩それを見るのが辛かったのである。
それに上手く対処したのが霞だった。
兄である前田少尉から聞いた霞は前田少尉に将宏を呼ぶように命令して(ほぼ脅し)将宏が家を訊ねると問答無用で右ストレートを放った。ちなみに将宏はその右ストレートを受けて「世界を……狙える……」とネタを思わず呟いたりしていた。
「帝国軍人がそれでどうするッ!! 貴様らの役目は日本を……国民を守るためではないのかッ!!」
と怒鳴り、将宏を元気付かせたのである。
「あの一発は痛かった……(脳内にロ○キーのBGMが流れそうやな)」
将宏はそう言う。
「まぁ河内君と前田少尉の妹の恋愛は置いといてだ」
「……振ってきたのは宮様ですよね? てか恋愛じゃないですから。何を言っているんですか」
将宏はジト目で伏見宮を見る。
「まぁまぁいいじゃないか河内君」
山本聯合艦隊司令長官が言う。ちなみに山本五は史実通りに聯合艦隊司令長官に就任した。
「九七式中戦車は文句有りませんが、八九式中戦車乙はアメリカとの戦争になると装甲不足になると思います」
将宏は気を取り直して発言をする。
「ふむ……なら急いで装甲を強化した八九式中戦車を作ろう。計画中のも早めに進めれば開戦前までには配備出来るだろう」
東條が説明をする。
「ドイツからのアハトアハトを輸入してライセンス生産がいいかと思います。少なくとも太平洋戦線でのシャーマンを余裕で撃破出来ると思います。まぁ今の九七式中戦車でも大丈夫と思いますが、ソ連の満州侵攻がありますし」
「分かった、交渉はしておく」
「海軍だがボフォース四十ミリ機銃のライセンス生産の許可が降りた。最初は輸入からだが、開戦前までに戦艦と空母、重巡には搭載するよう努力するつもりだ」
伏見宮が言う。
「ボフォース四十ミリ機銃があればアメリカのドーントレスやヘルダイバーなんか目じゃないですよ」
将宏は嬉しそうに言う。
「此処からが日本のターンだな」
伏見宮がニヤリと笑う。
「それはさておき、……ドイツがポーランドに侵攻しました」
将宏の言葉に東條達の目が変わる。
「……第二次大戦か。何としてもアメリカに負けないようにせねばな」
「はい。ところでドイツに戦闘機を送ったのですか?」
「あぁ、固定脚が気に食わないらしいが格闘性能と航続距離は向こうから絶賛されている」
日本はドイツから大量の工作精密機械の輸入に感謝の気持ちとして荒田に九七式戦闘機と九六式艦上戦闘機をドイツに送っていた。
ドイツ人パイロットは固定脚が気に食わなかったが格闘性能と航続距離(特に)はドイツ技師から絶賛を送られた。
空軍の主力戦闘機はBf109であるが航続距離は少ないのである。
航続距離の長さに目を付けた技師達は後のBf109E型以降では航続距離が大幅に改善されるのであった。
「Bf109はC型を三機購入してテストパイロット一名が送られてくる予定だ」
杉山が言う。
「流石に液冷エンジンは使わないがな」
伏見宮が言う。
恐らくは彗星の事を言っているのだろう。
「まぁドイツの戦闘機ですから何か役に立つのはあるでしょう」
将宏はそう言った。
――十二月、横須賀航空基地――
「あれがBf109C型ですね」
将宏が上空を見上げる。
上空には九六式艦上戦闘機とBf109C型が空戦をしていた。
「格闘性能は明らかに九六式艦上戦闘機が上だな」
山本長官が言う。
「ですが一撃離脱だとBf109C型が有利です」
二機はいい勝負をしていた。
やがて二機は空戦を終わらせて着陸をする。
『ああぁッ!?』
九六式艦上戦闘機は着陸したが、Bf109C型は脚のバランスが崩れて右脚を折り不時着となった。
「大丈夫かッ!?」
将宏は我先にと不時着したBf109C型に駆け寄る。
「おいッ!!」
「……つぅ、やはりBf109の脚は弱いな……」
「ん?(何か女性のような声がしたような……)」
そして操縦席から何と飛行服を着た女性が出てきた。
「……嘘やろ……」
将宏は唖然とした。
「不時着は痛かったがまぁ仕方ないだろう」
女性は赤いフレームのメガネをかけて瞳は緑色、茶色の髪をしたショートヘアだった。
「ん? 助けに来たのか? ありがとう」
「………(神さんよ。あんたは一体何がしたいんや? 女性パイロットなんかおるのって……)」
将宏はそう思った。
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