第十一話
流用。
五月十一日、第一次ノモンハン事件が勃発した。
史実で東支隊と山県支隊は負けるが、五月十五日に小松原師団長は戦車第三連隊から九七式中戦車二両と八九式中戦車乙五両を支援要請をして支援に加わっていた。
そしてソ連軍のBA-6装甲車十六両を残らず全て撃破したのである。
しかし小松原師団長はソ連軍の増援を警戒して撤退を決断して日本側を撤退した。これによりハルハ川東岸は再びソ連・モンゴル領となったのである。
一旦は戦闘は終了したが、部隊の壊滅に驚いたソ連軍はジューコフをノモンハン方面の司令官にして大規模な増援を送らせた。
これに対して関東軍は安岡中将の第一戦車師団(二個戦車連隊)と新たに第二戦車師団(二個戦車)を創設してノモンハン方面に送った。
なお、第二戦車師団長は牟田口少将であった。
戦車師団の運用のために牟田口が選ばれたのだ。
これにより、自身の史実を知った牟田口は戦車兵等から直接戦車の運用を学び、日本の戦車戦闘の第一人者とまで言われるようになった。
戦車は九七式中戦車等があるが、大半は八九式中戦車乙であった。
八九式中戦車乙は前回でも述べたが短砲身だった五七ミリ戦車砲を長砲身の五十口径五七ミリ戦車砲に交換しており装甲も五十ミリに厚くなってエンジンもディーゼルエンジンに交換、百八十馬力も出て速度は三八キロと向上させていた。
また、乙型は車体が少し大きめになり改装もしやすくしていたため後に乙型改が登場する。
そして陸軍航空隊も続々と派遣され海軍航空隊も第一次陣が派遣されたのであった。
陸海の航空隊はハイラルに集結していた。
陸軍は九七式戦闘機や九七式重爆撃機、九七式軽爆撃機等がおり、海軍からは九六式艦上戦闘機、九六式陸攻、九七式艦攻等がいた。
「航空隊は制空権を確保するのもありますが最大の攻撃目標は敵の補給路です」
中尉に昇格した将宏が飛行服に身を包みながら説明する。
この四年間、将宏はただ伏見宮達に艦船等の兵器を教える一方で戦闘機の飛行訓練もしていた。
「今の日本の状況を考えると、一人でもパイロットは多い方がいい(それに撃墜王になれるチャンスが……そして歴史に名を刻めるかも……)」それが将宏の理由だった。多分内心のが本音だろう。
まぁ伏見宮達も無理はするなと釘を刺しているので無茶はしないはずである……多分。
「補給路への爆撃かね?」
陸軍側の儀峨中将が将宏に聞いた。
「敵の戦車を叩くのは分かるが……」
「補給路を叩けばソ連軍の士気は低下しますし史実のガ島になります」
「……成る程な」
海軍側から淵田少佐が頷いた。
「補給が無いと敵を叩くための弾薬もありませんから」
「それが最善だな」
儀峨中将はそう判断をした。
「直ぐに九七式司偵で補給路等を偵察する」
こうして航空隊の方針は決定した。陸軍の九七式司偵二十機が離陸してソ連軍の補給路や飛行場を偵察していく。
そして帰還した九七式司偵の情報を元に攻撃目標を絞った。
「初撃は補給路と飛行場を叩き、二回目は戦車を叩く」
儀峨中将はそう言った。
最新鋭の九七式中戦車はちょっとやそっとで壊れるような事はなかった。
儀峨中将はそう判断したのだ。
『帽振れェッ!!』
滑走路に並べられた陸海の航空機が次々とプロペラを回し始めた。
そして陸海の戦闘機から発進していく。
「訓練通り……訓練通りにやればええんや……」
将宏はそう自分に暗示してブレーキを離す。将宏の九六式艦上戦闘機はゆっくりと飛行場を離陸した。
『初陣にしては上出来だぞ』
「ありがとうございます」
将宏の二番機を務める飛曹長が言う。
攻撃隊が全機上空に上がると攻撃隊は補給基地と飛行場へ向かった。
ちなみに陸軍は補給基地と補給路を、海軍は飛行場を爆撃する予定である。
海軍の誘導には九七式司偵がやり、攻撃隊の前方を飛行していた。
「……そろそろ敵機が現れていい頃やけど……」
将宏は周囲に視線をやって警戒するが敵機は見えない。
『前方から敵機ッ!!』
その時、攻撃隊の前方を飛行していた九七式司偵の偵察員が叫んだ。
「……いた……」
将宏は目を凝らして見ると、太陽光に反射したI-16とI-15がいた。
『制空隊は燃料タンク落とせ。敵戦闘機を爆撃隊に近寄らせるなッ!!』
無線レシーバーから制空隊隊長の南郷茂章少佐の声が聞こえる。
「よっしゃ行くでェッ!!」
将宏は燃料タンクを落としてソ連戦闘機群に向かった。
「うひゃあッ!!」
将宏の右横に機銃弾が現れる。
将宏が後ろを振り返ると複葉機のI-15がいた。
「簡単に落とされてたまるかってぇのッ!! てか死んでたまるかァッ!!」
将宏はフラップを開いて左急旋回をする。
「く……」
将宏はGに耐えてI-15の後方に回り込む。
「もらったッ!!」
将宏は七.七ミリ機銃の発射レバーを握った。
「……はれ?」
しかし発射レバーを握っても機銃弾は出なかった。
「こ、故障か?」
将宏はもう一回発射レバーを握るが機銃弾は出ない。
「何でや……って機銃弾を装填してへんかったッ!!」
それは将宏の凡ミスだった。将宏は慌てて機銃弾を装填するがその間にI-15は逃げて将宏機の後方へ回り込もうとする。
「させるかァッ!!」
将宏も負けずに左旋回をしてI-15からの追撃を逃れて再び将樹機が後方へ回り込む。
「今度こそッ!!」
タタタタタタタッ!!
九六式艦上戦闘機の機首から七.七ミリ機銃弾が軽快な音を奏でてI-15のエンジンを貫いた。
「やった……」
I-15は火を噴きながら草原に落ちていく。
「………………」
将宏は何も言わずにその場を離れた。
『一機撃墜おめでとうございます』
「あ、ありがとうございます……」
列機の飛曹長が褒めるのを将宏はつい頭を下げた。
『ならあそこのもやっちゃいましょう』
列機のパイロットが指差す先には、白煙を噴いて戦場を離脱しようとしているI-16がいた。
『あれは自分らと同高度みたいですので奴等の後方下方から撃って下さい』
「分かった」
将宏は気持ちを切り換えて、一旦高度を下げてから二機のI-16に向かう。
「落ち着け……落ち着け……」
将宏はそう呟いて七.七ミリ機銃の発射レバーを握った。
将宏が最初に狙ったのは二番機の方だった。
下方からの攻撃にI-16は対処出来ずエンジンを貫かれた。エンジンを貫かれたI-16は白煙から黒煙の煙りに変わり墜落していく。
「もう一機……」
将宏はゆっくりと近づくが、列機のいない事に気付いたI-16は将宏の九六式艦上戦闘機を見て慌てて逃げた。
「気付かれたかッ!!」
しかしエンジンをやられていたI-16は思うように速度は出なかった。
「……これが戦争やねん……」
将宏はそう呟いて発射レバーを握った。
止めを刺されたI-16が草原に落ちていく。
「……ふぅ」
後方を確認して安全と判断した将宏はゆっくりと息を吐いた。
『中尉、飛行場爆撃は成功したようです』
列機の飛曹長が言う。
「……なら帰るか」
海軍攻撃隊は飛行場爆撃に成功したのであった。
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