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第百七話





「機関最大!! 缶が壊れるくらいまで飛ばせ!!」


 能代の艦橋で南雲中将はそう吼えた。能代は白浪を立てて最大速度で航行している。

 能代に従うように他の艦艇も白浪を立てて航行している。


「ジャップの水雷戦隊が来ます!!」

「奴等を近づけさせるな!! ロングランスでやられるぞ!!」


 モンタナの艦橋でリー中将はそう叫ぶ。米艦隊の駆逐部隊は戦艦を守ろうと直ぐ様戦艦の周囲に固まる。

 そして米艦隊の上空には零観や零式水偵が飛行していて時折吊光弾を投下して南雲水雷戦隊にその位置を知らせていた。


「味方戦艦を守ろうとするか。なら衝突してまでその場所を退かしてやる。主砲用意!!」


 能代の前部十五.五サンチ連装砲が左右に旋回して航路に邪魔になる米駆逐艦に照準する。


「突入は単縦陣だ、能代の後に続け!!」


 南雲中将は水雷戦隊旗艦の本来の役目をしようとしていた。選ばれた精鋭の駆逐隊は能代の後方に付き、米艦隊の左側面から横一文字に突入しようとした。


「南雲司令官!! 川内と那珂が左右に展開していきます!!」


 軽巡川内と那珂は最大速度で能代の左右五百メートルに展開していた。


「……囮になる気か」


 二隻の意図に気付いた南雲はそう呟いた。




「ハッハッハ、最期の夜戦だ。思いっきり暴れてやれ!!」


 川内艦長は川内の艦橋で高笑いをしながらそう叫んでいる。


「神通に遅れるな!! 探照灯照射だ!!」


 川内と那珂は自ら囮となるため探照灯を照射した。それは先程の神通と同じ運命を辿るのは承知の上である。


「敵艦隊との距離は!!」

「凡そ一万五千!!」

「もっと近づく――」


 川内艦長はそう言おうとしたが、川内艦橋に米艦隊が放った二十.三サンチ砲弾が命中して艦橋にいた全員を肉片に変えた。

 操艦不能になった川内はそのまま米艦隊に直進したが、米艦隊から砲火が集中して轟沈した。


「川内轟沈!!」

「之字航行に移行して探照灯照射だ!! 能代以下水雷戦隊を敵から反らす!!」


 那珂艦長はそう判断して探照灯を照射しながら水雷戦隊の被害を避けようとする。米艦隊は那珂の意図に気付かずそのまま那珂に砲火を集中させた。


「敵にもう一度穴を開ける。魚雷発射用意!!」


 那珂は魚雷を放っていなかったので直ぐに撃てる状態だった。那珂の九二式六一サンチ四連装魚雷発射管の片方が米艦隊に照準する。


「用意完了!!」

「魚雷撃ェッ!!」


 四本の酸素魚雷が米艦隊に発射される。


「直ぐに回頭!! 残りの魚雷も発射する」


 那珂は反転して再度魚雷を発射しようとしたが、那珂のカタパルトに二十.三サンチ砲弾が着弾した。勿論カタパルトは海面に吹き飛ばされた。

 更に十二.七サンチ砲弾が四番目の煙突に命中して火災が発生した。


「応急隊急げ!!」


 応急隊が火災現場に赴き、消火ホースを使用しての消火活動を開始する。

 しかし、火災の勢いは増しており応急隊の手の施しがつかない状況になっていた。


「火災延焼!! 消火不可能の状況です!!」

「………」


 伝令からの報告に艦長は無言だった。そして那珂は反転して再度魚雷を放とうとした。


「大型艦を狙え!!」

「用ぉ意……撃ェッ!!」


 六一サンチ酸素魚雷四本が次々と発射され米艦隊に向かう。


「よし、反転して敵艦隊に斬り込む――」


 そこへ損傷していたオハイオの四十.六サンチ砲弾二発が那珂に命中した。砲弾は一番砲と二番目の煙突付近に命中。一番砲と二番砲は勿論、艦橋をも吹き飛ばして那珂の致命傷を負わしたのである。

 炎上する那珂に砲弾が集中し、那珂は誘爆しながら波間に消えていったのであった。此処に川内型三隻は囮となりその役目を見事に果たしたのである。


「南雲司令、那珂……轟沈です」

「……川内型の撃沈を無駄にしてはならん!! 魚雷装填急げ!!」


 能代は先程、米艦隊の輪形陣に穴を開けるために魚雷を発射しておりその装填に追われていた。


「まだ時間が少し掛かります!!」

「く!!」


 伝令からの報告に南雲が舌打ちした時、見張り員が叫んだ。


「駆逐艦夕立、綾波、時雨、雪風が突撃します!!」


 この時、夕立には駆逐隊司令として吉川潔大佐が乗艦していた。吉川は突撃前、能代の魚雷発射命令をあえて無視していた。

 命令無視に艦長は首を傾げていたが、この場面で納得していた。


「隊司令はこれを判っておられたので?」

「いや……勘だな」

「勘……ですか?」

「あぁ。魚雷は一度発射すれば再装填するのに時間が掛かる。戦場から離脱していれば数分で可能だが、南雲司令官はそのまま突撃命令を出した。それを川内と那珂が時間稼ぎをして装填時間を補ったのだ」


 吉川司令の予想は一応ながら当たってはいたが、当の二隻は既に波間に消えていたので真相は判らずじまいだ。

 それは兎も角、四隻は綾波を先頭に単縦陣で突撃した。先頭を綾波にしたのは綾波が吹雪型であり最大速度が三八ノットと他の三隻より速いからだ。


「あの四隻を沈めろ!!」


 米艦隊は突撃する四隻に砲撃を集中しようとしたが、同じく突撃しようとする重巡高雄、愛宕が砲撃して四隻から目を反らそうとする。更に比叡と霧島が戦艦から巡洋艦、駆逐艦に照準して砲撃を始めた。

 このため四隻に砲撃するどころではなくなり、四隻は同士討ちを覚悟の上で米艦隊輪形陣に突入した。


「輪形陣突入!! 前方に敵戦艦!!」

「砲戦、魚雷戦用意!! 取舵二十!!」


 綾波の六一サンチ三連装魚雷発射管が右舷に旋回して戦艦に照準する。


「全魚雷用意良し!!」

「全魚雷撃ェッ!!」


 九三式酸素魚雷が一、二番、三番魚雷発射管から発射され、九本の酸素魚雷は戦艦――オハイオに突き進んだ。


「ジャップの魚雷が来るぞ!!」

「回避急げ!!」


 オハイオは回避しようとするとが、艦橋をやられて艦長も戦死しているため具体的な指示を出す事が出来ず、左舷に五本が命中した。この命中はオハイオの致命傷となった。


「命中!! 命中!!」

「後方にいる夕立達もやったようです」


 後方にいた夕立以下三隻も敵戦艦二隻に魚雷を命中させていた。


「前方から駆逐艦接近!!」

「砲戦しつつ退避するぞ!!」


 四隻は損傷しながらも退避に何とか成功した。リー中将は何とか立て直そうとするが、そこへ能代以下水雷戦隊が輪形陣に突入した。


「魚雷撃ェッ!!」


 再度発射された魚雷は百五十本余りになり、この攻撃で戦艦ケンタッキー、イリノイ、オハイオは撃沈。巡洋艦三、駆逐艦六隻が戦艦の楯となり撃沈したのである。








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