第百六話
お久しぶりです。実家に帰っているので投稿です
「何? ジャップの戦艦が離れただと?」
「少しずつ遠退いています」
レーダー員からの報告にリー中将は首を傾げた。
「何故離れる必要がある?」
「もしかするとジャップは夜戦をするために態勢を整えるのかもしれません」
バーク参謀長はそう具申した。
「そうか、奴等にはロングランスがあるし夜戦もあるな」
リー中将はガダルカナルで日本側に苦しめられた事を思い出した。
「ならば此方も態勢を整えよう。ケンタッキーはどうだ?」
「中破ですが、まだまだやれるようです」
米艦隊の士気はまだまだ旺盛である。そして日本側はと……。
「陸奥はやはり無理か?」
「弾薬庫に注水していますので時間が掛かります」
「……やむを得んな。陸奥には朝潮と荒潮を付けて後方に退避。準備出来次第参戦させよう」
宇垣中将はそう決断して陸奥に朝潮、荒潮は一旦戦場を離脱したのである。
そして宇垣艦隊は陣形を立て直して2000に再度米艦隊と同航戦に移行した。
「主砲発射用意!! 零観に吊光弾を落とさせろ」
「判りました!!」
米艦隊上空には全部で二十機あまりの零観や零式水偵が飛行していた。一機の零観が吊光弾を投下して辺りを昼間のように明るくさせた。
「見事な背景照明だ。急いで諸元入力をしろ」
大和の主砲が微調整をして映し出された米艦隊を捕捉する。
「撃ェッ!!」
大和の主砲が火を噴いた。後続の武蔵と長門も主砲を発射した。
「ヤマトが撃ったぞ!! 此方も撃て!!」
米艦隊も負けじと撃ち返した。先に着弾したのは米艦隊であり、二番艦のオハイオに武蔵の五一サンチ砲弾二発と長門の四六サンチ砲弾三発が命中した。しかも四六サンチ砲弾の一発は艦橋に命中しており、艦長以下艦橋にいた全員が戦死した。
これによりオハイオは個別での射撃しか取れなくなった。勿論、これを宇垣中将が見逃すはずはなかった。
「目標を敵二番艦に集中せよ!!」
主砲が炎上しているオハイオに砲撃が集中してオハイオは大破、航行不能になった。
更に此処で漸く金剛型と伊勢型、三河(捕獲したプリンスオブウェールズ)、常陸の射程距離に入ったので八隻は砲撃を開始した。
三河は主砲を四一サンチ連装砲に換装して対水中防御も出来る限りの事をしていた。それ以外は全て三五.六サンチ連装砲である。
常陸は三八サンチ連装砲を搭載していたが日本に三八サンチ砲弾は存在しないので三五.六サンチ砲と交換していたのだ。
「米艦隊との距離は?」
「凡そ三万二千です」
「……近づこう。二万五千までだ」
「大和や長門が貫かれる恐れはありませんが、金剛型や伊勢型は……」
「旧式だから仕方あるまい。それと敵の足並みを崩す」
「では南雲司令官に?」
「うむ、護衛隊を除いた水雷戦隊は南雲中将の指示の元……突撃せよ」
それは簡単な命令であった。水雷戦隊旗艦能代で命令を受け取った南雲中将はニヤリと笑う。
「宇垣から突撃命令が来たぞ参謀長」
「それでは……」
「うむ、2100に突撃する。速度は三十ノットを維持だ」
南雲が時計を見る。時計の針は2057を指していた。
「砲雷撃戦用意!!」
「砲雷撃戦用意!!」
能代の十五.五サンチ連装砲三基が右舷に旋回して同じく突撃しようとする米軽巡に照準する。魚雷発射管も右舷に旋回して同様に照準していた。
「……時間です司令官」
「良し、水雷戦隊突――」
「右舷に神通が並走しています!!」
「何……?」
南雲が視線を右舷に向けると後方にいたはずの神通が白波を立てて最大速度で航行していた。
「何をしているんだ神通は!? まだ突撃命令を出してないぞ!!」
「ま、まさか……」
そう怒る田中参謀長だったが、南雲中将は何かに気付いた。
「艦長、南雲司令官達はカンカンですぞ」
「構う事はない」
副長の言葉に艦長はそう言った。実際、艦橋……いや神通にいた乗員全員が艦長の対応に疑問を抱いていた。
「……副長、探照灯の照射だ」
『―――!?』
艦長の命令に艦橋にいた全員が息を飲んだ。探照灯の照射――つまり神通が囮になるという事だった。
「最後の艦隊決戦だ。能代を沈めさせてはならん。沈めるのは能代ではなく神通だ」
艦長は始めからそうする気だった。
「……探照灯照射だ!!」
副長は意を決してそう叫んだ。艦橋にいた全員も覚悟を決めた。神通から探照灯が照射され突撃する米軽巡が映し出された。
「神通が探照灯を照射!?」
宇垣の言葉に将宏は右舷を見た。確かに闇夜の中に光が現れていた。
「……囮になる気なのか!?」
将宏がそう言った瞬間、米艦隊が砲撃を神通に集中させた。
神通は之字航行で必死に操艦をしているが、何時までも持つ事は無理の筈だ。
そうしている間にも米駆逐艦の十二.七サンチ砲弾が神通に命中した。神通も必死に撃ち返している。
「南雲司令官!!」
「……魚雷用意!!」
「魚雷用意!!」
神通の覚悟を悟った南雲は矢継ぎ早に命令を出す。
「用意完了!!」
「魚雷撃ェッ!!」
能代以下の水雷戦隊が必殺の九三式酸素魚雷を発射した。そして発射した直後、神通に米重巡の二十.三サンチ砲弾が多数命中した。
神通は炎上しながらも探照灯を照射し、八ノットの速度ながらも自艦の十四サンチ砲と酸素魚雷を撃つ。
米駆逐部隊は炎上しながらも突撃する神通に恐怖していた。
その恐怖を無くしたのはイリノイの砲撃だった。イリノイの四十.六サンチ砲弾が艦橋と魚雷発射管に命中して爆発。
神通は艦体を真っ二つに折られて轟沈したのである。神通の生存者は僅かに五名であった。
轟沈した神通を見て安堵の息を吐いた米駆逐部隊であったが、彼女は轟沈する前に発射した酸素魚雷二本が軽巡オークランドに命中した。
一本は火薬庫に命中しておりオークランドは爆発しながら轟沈したのである。
オークランドの轟沈に米駆逐部隊は足並みが乱れた。そこへ必殺の九三式酸素魚雷が襲い掛かったのである。
「駆逐部隊の被害が拡大しています!!」
この攻撃で米駆逐部隊は駆逐艦八隻、軽巡三隻を撃沈された。艦艇喪失で米艦隊に穴が開いたのを南雲中将は見逃さなかった。
「戦艦部隊の護衛隊以外は米艦隊に突撃する!! 全艦我に続け!!」
能代は艦首を米艦隊に向けた。
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