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第百五話





 0830、宇垣艦隊は停泊していたサイパン島から出撃した。トラック泊地より粗末な港ではあるが島の日本兵や島民達は両手をあげて歓迎してくれた。

 宇垣艦隊が出撃する時も駆けつけて、宇垣艦隊が水平線の彼方に消えるまで手を振るのであった。


「敵艦隊との会合は何時になるかね?」

「このままですと……予定通り1830になります」

「ようし」


 茂木航海長の言葉に宇垣中将はニヤリと笑う。


「夜戦……ですね」

「そうだ」


 将宏の言葉に宇垣中将は力強く頷いた。宇垣は夜戦もするために敵艦隊との会合を遅らせたのだ。


「此方も多少の喪失は出るだろう。だが敵を撃ちのめすならそのくらいの覚悟は必要だ」


 宇垣もそのくらいは承知していた。日本側の最新戦艦は大和と武蔵しかいないのだ。最悪の場合は長門と陸奥の喪失も視野に入れている。二隻を失うのは辛いが勝てれば良いと宇垣はそう思っていた。


「今のうちに戦闘食を用意しようか」


 宇垣の言葉に将宏は口を開いた。


「なら赤飯ですかね?」

「ハハハ、それは良いな」


 苦笑する宇垣であった。そして時は過ぎた1630、偵察に発艦した零式水偵が米艦隊を発見した。


「長官、来ました!!」

「うむ」


 通信兵から宇垣は紙を受け取る。


「前方約百二十キロに敵艦隊か……」

「予定通りでしょう」

「……だと良いがな」


 茂木航海長の言葉に将宏は小さく呟いた。戦場では何が起こるかは判らないのだ。

 しかもそれは史実が証明している事である。そして此方が米艦隊を発見したように艦隊上空に米艦隊から発艦した水上機が飛来した。

 一方、米艦隊はどうなっていたか?




「ジャップの偵察機だな。此方も発見したか?」

「もうすぐでしょう」


 参謀の言葉に答えるかのように米水上機が宇垣艦隊を発見した。


「……いよいよ……だな。全艦に発光信号だ。我々の目的はただ一つ、ヤマトを沈める事だ!!」


 リー中将の激励は乗員の士気向上に繋がった。乗員達は色めき立ちながら戦闘準備に移行した。

 1830、日米の艦隊は距離五五キロで視認した。勿論米艦隊はレーダーで、宇垣艦隊は見張り員の目である。


「距離四万二千で第一戦隊が砲撃する。零観は上げただろうな?」

「勿論上げてあります」


 既に大和と武蔵から零式観測機が発艦して砲撃が始まれば着弾観測に入る予定だ。ちなみに第一戦隊は大和、武蔵、長門、陸奥の四隻である。

 そして日米艦隊の距離が四万二千五百になった。既に宇垣艦隊の戦艦は単縦陣で大和を先頭にしている。


「敵艦隊との同航戦に入ります」

「右砲戦用意!!」

「右砲戦用意!!」


 大和の五一サンチ砲搭が右に旋回して米艦隊の先頭艦――モンタナ――に照準する。それは他の第一戦隊もだ。


「照準良し!!」


 射撃指揮所にいる砲術長が艦橋に報告した。


「撃ちぃ方始めェッ!!」


 主砲発射警報ブザーが鳴り渡る。右に向いた主砲六門のうち一基の一門ずつが交替で試射をする。

 大和の砲撃が始まったのである。後方にいる武蔵も射撃を始めた。大和が放った五一サンチ砲弾はモンタナを飛び越えて水柱をあげた。


「やはり近いな」

「ですが此方にはレーダー射撃があります」

「うむ、射程距離にはまだ届かない……か」


 その間にも武蔵や長門、陸奥が放った砲弾もモンタナの周囲に着弾していく。


「もう二、三射撃といったからところか……」

「米艦隊の射程距離に入りました」


 水柱をあげるモンタナを見ている宇垣に松田参謀長がそう告げた。


「射程距離に入りました!!」

「宜しい。目標はヤマトだ、奴のケツの穴にメイドインUSAの砲弾をぶちこんでやれ!!」

「ファイヤー!!」


 モンタナ以下の戦艦群が一斉に砲撃を開始した。目標は大和であり砲弾は大和の周囲に着弾した。


「おほぅ!? 流石はレーダー射撃の米軍だぜ!!」


 噴き上げた水柱群を将宏はそう言っている。


「第六射目、撃ェッ!!」


 大和が放った五一サンチ砲弾は放物線を描いて遂にモンタナに命中した。命中した箇所はモンタナの左舷対空火器群であった。


「被害状況を知らせ!!」

『左舷対空火器群被弾!!』

『二番四十ミリ機関砲が機銃員もろとも吹き飛んでいます!!』

『メディーーークッ!!』


 モンタナは混乱していたが、主砲は混乱せずに砲撃。大和に二発の命中弾を叩き込んだ。


『右舷三番高角砲被弾!!』

『衛生兵ェッ!!』

『後部副砲被弾!!』

「一斉射撃に移行する。総員退避!!」


 宇垣はそう言って一斉射撃に移行させた。主砲は先程命中させた照準位置に固定した。


「撃ェッ!!」


 大和の九門の五一サンチ砲が紅蓮の炎をあげた。その瞬間に大和の艦体が左に傾斜する。


「ヤマトが一斉射撃に出たぞ!! 総員何かに掴まれ!!」


 一斉射撃を確認したリー中将はそう叫ぶ。程なく九発の九一式徹甲弾が飛来してモンタナに二発が着弾した。二発とも後部四番主砲に命中した。


『四番砲搭射撃不可能!!』

「やるなヤマト……うぉ!?」


 その瞬間、左舷に二本の水柱が噴き上がった。


「何!? ジャップのロングランスか!?」

「い、いえ。まだジャップの水雷戦隊は突撃していません!!」


 外れた九一式徹甲弾が水中推進でモンタナの左舷に命中したのだ。この命中でモンタナの速度は二三ノットにまで低下した。


「徹甲弾が水中推進したようだな。今が好機だ、先頭艦に砲撃を集中せよ!!」


 第一戦隊の四隻は混乱しているモンタナに砲撃を集中した。モンタナには更に二発の砲弾が命中したが、そこへ乱入艦が来た。


「モンタナを守れ!! 機関最大だ!!」


 アイオワ型のケンタッキーが隊列を離れてモンタナを守るべく宇垣艦隊の前に現れたのだ。


「撃ェッ!!」


 ケンタッキーが砲撃する。その砲弾は陸奥の第三砲搭に命中した。


「弾薬庫に火災が拡がるかもしれません!!」

「弾薬庫に注水急げ!!」


 艦長は不測の事態に備えて弾薬庫に注水させた。これにより陸奥は一時的に戦闘能力を失い、宇垣中将の指示のもと離脱した。


「あの戦艦を片付けろ!!」


 主砲をケンタッキーに照準して斉射。ケンタッキーの二番砲搭に命中して砲搭を吹き飛ばした。


「宇垣長官、日が沈みました」

「よし、一時進路を離れろ」


 宇垣中将はニヤリと笑う。


「夜戦の始まりだ」






御意見や御感想などお待ちしていますm(__)m

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