第百三話
「何!? インディアナポリスがジャップのサブマリンに沈められただと!?」
「イエス」
「おのれジャップめ!! 原爆の情報が洩れていたのか……」
キング作戦部長からの報告にトルーマンは悔しさのあまり拳を机に叩きつけた。
「それで、原爆の製造は?」
「製造を進めていますが、新たに完成するのは半年後の二発です」
「くそ、ジャップどもめ!!」
トルーマンはそう罵る。
「プレジデント。やはり原爆の投下は控えるべきではないでしょうか? リスクが高すぎると思います」
マーシャルはそう反論した。
「マーシャル、君の気持ちは判る。だが、私は合衆国国民の命を預かっている身だ」
「ですが戦後、無差別に民間人を死なせたと批判を受ける可能性はあります」
「……君は私を非難するのかね?」
「あくまで可能性ですプレジデント」
「く……」
反抗しようとするマーシャルとキングにトルーマンは睨み付ける。
「……それでは君達にも何か案はあるのかね? ハルゼーは戦死し、スプルーアンスの第五艦隊も『あの攻撃』のせいで使えないのだぞ?」
「確かに空母は使えません。ですがまだ戦艦はあります」
「……艦隊決戦をするというのか?」
「イエスプレジデント。パワー&パワーです」
「……あえて時代に逆らうか……良かろう。やってみたまえ、ただし、負けた場合は今の椅子を降りてもらう」
「イエスプレジデント(……もはやこのプレジデントでは駄目だな。やはり……)」
キングはそう思いながら視線をマーシャルに向ける。視線に気付いたマーシャルも首を静かに頷いた。
それから数日後、オアフ島の太平洋艦隊司令部の元に一通の電文が届いた。
「……艦隊決戦……か。どう思うかねリー中将?」
「私としては是非ともやりたいですな。アイオワ級は元よりモンタナ級も三隻が就役しております。戦艦を使う手はこれしかありません」
久しぶりの戦艦の使い道にリー中将は燃えていた。なにより、リー中将はガ島戦役の時に戦艦ワシントンとサウスダコタを沈められており復讐を誓っていた。
「では早速ディヨー少将と話しておきます」
リー中将はニヤリと笑い、司令部を後にした。
「……まぁ、勝っても負けても我々はホワイトハウスに乗り込んでいる」
ニミッツ大将はボソリと意味深な言葉を呟いたのであった。
「……これが艦隊決戦用の第一艦隊か……」
「はい、これが第一艦隊です」
柱島泊地に停泊しているGF旗艦敷島の長官室で豊田大将と将宏は会談をしていた。
それはこれから起こりうるかもしれない艦隊決戦用に備えた第一艦隊の編成表を豊田に見せていた。
「戦艦は全て。重巡は高雄型の第四戦隊と妙高型の第五戦隊、軽巡は能代に矢矧。駆逐艦は……同型は無視だな」
豊田は苦笑した。編成表に書かれていた駆逐艦は所属もバラバラである。
ぶっちゃけると駆逐艦は島風、綾波、夕立、雪風、時雨、吹雪、陽炎、不知火、暁、響、雷、電(第六駆逐隊)、高波、涼風の編成であった。思いっきり史実の活躍を元に編成が組まれているのは当然だった。
勿論、史実を知らない艦長や乗員は首を傾げたが艦隊決戦用に選ばれたのは光栄だと洩らしていた。
なお、第一艦隊司令長官には宇垣中将が就任。水雷戦隊司令官には南雲中将が就任して参謀長には田中頼三中将が就任している。駆逐隊司令には吉川潔大佐、副司令には工藤俊作中佐が就任していた。
「この先、艦隊決戦が行われる事は低いかもしれませんが士気を高める意味合いもありますので」
「それもそうだな」
豊田はそう言った。その頃、第一艦隊の第一戦隊は土佐沖での訓練をするため豊後水道を航行していた。
そこへ、第一戦隊の反航する形で一艇の船が航行してきた。それは陸軍が開発した陸軍独自の潜水艇である三式潜航輸送艇――通称まるゆ――だった。
陸海は合同で輸送船を護衛したりしているが、陸軍は万が一を考えてまるゆを四二隻建造する計画をしていた。そのうちの一艇が第一戦隊とたまたまばったり会ったのである。
まるゆは手空きの乗組員を整列させると艇長らしき人物が軍刀を引き抜いた。
「かしらぁー、右!!」
艇長は陸軍式の敬礼で登舷礼を送ってきたのだ。それを見ていた第一艦隊司令長官宇垣中将は苦笑した。
「陸軍に負けるな!! 第一戦隊で登舷礼をせよ!!」
かくして第一戦隊(大和、武蔵、長門、陸奥)は百人単位の乗員が整列してラッパ吹奏付きの登舷礼をまるゆに送るのであった。
なお、まるゆの乗員は大和の航行波をモロに被って濡れ鼠になるのは些細な事だった。
「フィリピンの機動艦隊は引き上げたのか……」
「やはり第二航空艦隊の攻撃が効いたのか?」
「ですが第二航空艦隊の戦果は軽空母二、巡洋艦一、駆逐艦二を撃沈です。大破は正規空母三、軽空母二ですよ。損害を気にして引き上げるようなはずじゃないですよ」
GF司令部では再び招集された将宏と豊田長官達が会議を行っていた。
「……もしくはアメリカ本国で何かあったのではないでごわすか?」
神参謀が腕を組みながらそう答えた。将宏も有り得るかもしれないと思ったが実際はそうではなかった。
フィリピン航空戦時、第二航空艦隊がスプルーアンスの第五艦隊を攻撃していたが実は第二航空艦隊所属の彗星数機が軽空母に体当たり攻撃をしていた。
これは急降下爆撃時に被弾炎上、そのまま軽空母に体当たりしたのだがアメリカ側には初めから体当たりするように見られたので「ジャップは自殺志願者なのか!?」と恐れられた。
また、誘導弾も使用していた事もしていたが母機が被弾炎上するとそのまま体当たりしようとしたので体当たり恐怖が加速してしまい、結果的に第五艦隊の約三割の乗員がノイローゼや心的外傷、PTSDに掛かってしまったのだ。
士気も低下した第五艦隊だがスプルーアンスは何とか建て直そうと努力した。
しかし、本人も過労で倒れてしまい第五艦隊は引き上げる事になったのだ。
戦後、アメリカは日本に「体当たりを強要したのか?」とまで言っている。
「……まぁ向こうが引き上げたのならそれで良いでしょう。フィリピンに補給物資を輸送しなければなりませんからね」
「うむ。陸軍も増援で二個連隊を輸送したいと言っているからな」
GF司令部はそう会議をしていた。そして数日後、ハワイ沖にて偵察をしていた伊二〇〇がとある艦隊を視認した。
「……艦隊だ。大艦隊だ!! 空母無しで戦艦を主力にした艦隊だ!!」
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m