第百二話
「満州方面は防戦のみ……か」
「けど、あの人らは凄いよな」
前田家で将宏と前田少佐はそう話していた。ソ連と開戦以来、戦争状態に突入していた満州国であったがソ連の侵攻を国境線で食い止めていた。
満州軍の主力は勿論陸軍で兵力は約五十万で装備は大体日本から提供された三八式歩兵銃や九九式短小銃等である。他の兵力は満州に駐屯している関東軍約百万であり、最新鋭の四式戦車等が活躍していた。
将宏達が話していたのはドイツ義勇軍独立戦隊だった。
ロンメル総統のドイツは今回の戦争に比較的に介入する気は無かったが同盟国のよしみとして軍人を派遣していた。ヒムラーはあまり乗り気では無かったが、同盟国を見捨てるのかと国防軍側が反発したため派遣する事になったのだ。
まず空は撃墜王で有名なハルトマンやバルクホルン、ガーランド、マルセイユ等が陸軍の四式戦闘機疾風に乗り込み多数のソ連機を撃墜していた。
陸ではミハイル・ヴィットマンやベーケ中佐等が四式戦車に乗ってソ連戦車を撃破していた。
そして襲撃機部隊にはシュトゥーカ大佐ことハンス・ウルリッヒ・ルーデル大佐とガーデルマン中尉が所属していてルーデル機特注の流星改が今日もソ連戦車を攻撃、撃破していた。
「流石はイワンどもだな。叩いても叩いても戦車が出てくるぞ」
「取りあえず大佐、後方から敵戦闘機です!!」
「任せたぞガーデルマン!!」
「無茶言わないで下さい!!」
「私はイワンの戦車を叩くのが仕事だ!! お、イワンめ、また新しい戦車を作りおったな」
「……こうなればやけくそだーーーッ!!」
ガーデルマンの絶叫が戦場に響き渡るのであった。なお、ルーデルはこの日にJS-2戦車八両撃破、イリューシンIl-2二機を撃墜した。Il-2の撃墜は流星改に搭載された三七ミリ砲だとの報告である。
「満州に攻めこむのは難しい……か」
「ジューコフからの報告では死傷者の数は約二十万を越える。それでもドイツとの戦争に比べたらマシだが……」
「ドイツとの戦争に負けたのにヤポンスキーにもまた負けるのはいかんな」
ソ連の首都であるオムスクでベリヤとフルシチョフが会談をしていた。
「フルシチョフ、いっそのこと戦闘は一時中断するしかあるまい」
「それは私も思う。だがアメリカはどう動くかだ」
「ジューコフが前線視察中に負傷して同志達の士気が低下したと言えばいい。そもそも今回の戦争は我々にあまりメリットは無い」
「確かに。アメリカは満州を譲渡すると言っているが、今のままだと兵力は削れていく一方だ」
二人は戦闘をゆっくりと停止する事に決めた。そもそも大祖国戦争でドイツに破れたソ連は兵力や兵器の増産に追われていて(そのうち半分近くの兵力はウラル山脈方面に釘つけ)ソ連側にしてみれば時間が足りなかった。
「ウラジオストクを占領されたのは痛いが仕方あるまい」
「戦線を維持すればアメリカも黙るだろう」
ソ連は徐々にアメリカから離れていくのは必然だった。
「……この損害は痛いな」
イギリスの首都ロンドンでチャーチルは葉巻を加えながら報告書を見ていた。
「モントゴメリーを失うのは辛いな。それに海軍もだ。形ながらも再建した東洋艦隊はカクタに壊滅状態だ」
「如何なさいますか?」
「……暫くは様子見だな。支援するように見せかける。今は時間が欲しい」
執事の言葉にチャーチルはそう言うのであった。既にソ連やイギリスは戦後の事を見据えていた。
その一方、アメリカはというと……。
「奴等の頭に原爆を落として戦況を打破するしかないな」
「ですがプレジデント。それをするにはB-29が届く距離までの何処からかを占領しなければ……それに例え落としたとしても奴等も密かに保有しているのかもしれません。報復する可能性は十分にあります」
「ジャップが原爆を持っているだと? 有り得ん!!」
トルーマンは否定するが、スチムソンは首を横に振る。
「プレジデント、ドイツの事をお忘れですか? ジャップといざこざは有りましたが、奴等がジャップに提供している可能性は否定出来ません」
「ぐ……」
スチムソンの言葉にトルーマンは口をつぐんだ。
「……だがそれも可能性の話だ。此方は既に四発も保有している」
「ですが……」
「原爆は念のためにハワイに送れ」
「プレジデント!!」
「念のためだ。君達の意見も聞き入れての事だ」
「……判りました」
スチムソンはトルーマンの言葉に渋々ながら頷き、ロスアラモスで完成していた原子爆弾四発はハワイへ送られる事になった。
その四発の原爆を運ぶ役目を承ったのは重巡インディアナポリスだった。
艦長にもあまり詳しい説明は無く四発の原爆はサンフランシスコを出港して一路ハワイへ向かった。
だが、インディアナポリスは後一日でハワイに到着するはずだったがそれは叶わなかった。
「……アイダホ型戦艦だ。魚雷戦用意!!」
アメリカ西海岸の通商破壊作戦を展開しようとしていた伊五八潜がジグザグ運動をするインディアナポリスを捕捉したのだ。
「距離千五百、三度の角度で扇状に三秒間隔で発射ァ!!」
伊五八潜は六本の酸素魚雷を発射して再度魚雷を装填した。周囲に哨戒機や駆逐艦は存在しなかった事から再攻撃も視野に入れていた。
そして潜望鏡を覗いていた艦長の橋本以行中佐はアイダホ型戦艦に二本の水柱を視認した。
「魚雷命中!!」
橋本艦長の叫びに乗組員達は笑顔だった。橋本はそれを見つつ潜望鏡に視線を向けるとアイダホ型戦艦は急速に傾斜していた。
「沈没速度が早いな」
「旧式だからじゃないですか?」
「だろうか……」
そして命中から十二分後に転覆、沈没した。
「海上に多数の漂流者が浮いています。救助しますか?」
「………」
潜望鏡を覗いていた副長の言葉に橋本は黙る。しかし直ぐに口を開いた。
「浮上する。浮き輪を提供してやろう」
「武士の情け……ですか?」
「武士道だ」
そして伊五八潜は浮上して漂流しているインディアナポリスの乗組員に浮き輪等浮遊物を提供して潜行していった。
「艦長、乗組員の話では重巡のようです」
「重巡か。まぁ駆逐艦じゃないから良しとしよう」
橋本艦長達はそう話していた。しかし、トルーマン達はインディアナポリスの撃沈に衝撃だったのだ。
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