第百一話
ほったらかしてほんとにすみませんm(__)m
「アメリカがレイテから出てきたな」
「は、南のミンダナオ島に上陸しているようです。戦力を分割しなくて良かったと思います」
フィリピンのバギオの司令部でフィリピン方面司令官の山下大将と作戦参謀の堀栄三中佐はそう話していた。
「此方は約三十万に戦車約二百五十両。向こうは約三十万に戦車約五百両か……」
「食糧や弾薬の輸送は順調です。それに自給自足として畑を作っていた事もあり、輸送が途絶えた場合でも約一年は持ちこたえられると思います」
「食糧はな。問題は弾薬だな」
「全力で防衛すれば約二ヶ月。節約しながらだと約半年持つかと」
「我等がやる事は持久戦だからな。本来なら戦車第二師団なんぞ引き抜かれて満州に派遣されるが、このフィリピンは日本の天王山だから引き抜く事はない」
「それにロタ砲も大量にありますから」
この時、フィリピン方面軍には陸軍の対戦車兵器としてロタ砲が大量に配備されていた。それは陸軍対戦車兵器としては最新鋭の兵器である。
「マレー半島のイギリス軍を駆逐出来れば支援を受けやすい。当分は死守だな」
「そうですね」
二人はそう話していたが、内地ではとある混乱を生じていた。
「何? 河内君が特高に捕まっただと?」
「は、はい。自分は直ぐに釈放されましたが河内は身元不明だと……」
東條は急に訪れた前田少佐と話していた。
「一体何が原因だ?」
東條は頭を捻りつつ、将宏が拘留している留置所へ向かった。
「だから俺は海軍軍人だと……」
「海軍軍人なら何でお前の戸籍が無いのだッ!! 貴様……露助のスパイだな?」
「何であんな国のスパイなんだよッ!!」
将宏は留置所の檻に入れられて尋問されていた。将宏が捕まったのは何の事もない。
ソ連が日本に宣戦布告をしたのでソ連のスパイが内地に紛れ込んでいるかもしれないと特高の上層部はそう判断して取り締まりを強化したのだ。
それは軍人でも対象に含まれていた。実際に無関係な軍人や民間人が逮捕され誤認逮捕が相次ぐ事があった。
「こうなったら身体に聞くしかないな」
「何で畳針なんか持ってんだよッ!! それで脹ら脛刺すなよッ!!」
将宏はやられたくないから激しく抵抗しようとする。尋問の担当官は針を振り上げた。
「何をやっとるかッ!!」
「と、東條閣下ッ!?」
そこへ東條と前田少佐が現れた。危機一髪である。
「其奴は露助のスパイではない。直ぐに釈放するのだ」
「で、ですが閣下。こいつの戸籍はないのですぞッ!!」
「ヴァァァカ者ぐァァァッ!! 釈放しろと言ったら釈放するのだッ!! 其奴は国家機密級の特殊任務を陛下から帯びているのだッ!! 貴様らごときが逆らえば陛下主導の軍法会議が待っているぞッ!!」
「ぐ、軍法会議ッ!? それにへ、陛下ッ!?」
特高の人間は軍法会議と陛下の単語を聞いて慌てて将宏を檻から出して釈放するのであった。
「すみません東條閣下」
「いや、気にするな河内君。どうして特高に捕まったのだ?」
「いやぁ、たまたま向こうから歩いてきた特高に視線を反らしたら……」
『そのせいでよく警官から視線を反らすと職質をかけられましたby作者』
「ふむ、それは仕方ないな」
東條は苦笑しつつそう言った。そして会合により特高の取り締まりを少し緩める事が決定した。(主に拷問や職質等)
「フィリピンからの報告ではアメリカ軍はルソン島南部のソルソゴンとミンドロ島に上陸したようです」
「フィリピンは開戦前に撤退作業中でルソン島以外は全て撤退していますので然したる被害はありません。しかし……」
「フィリピンを取られたら海上輸送は全滅する。ルソン島の増援はどうかね?」
「新たに二個師団を派遣する。今は台湾で待機しているがな」
「ロタ砲の輸送も潜水艦を通して輸送しています」
会合ではフィリピン戦線の話となっていたが、満州方面の話もある。
「ソ連の侵攻速度が遅い。補給路を叩いたのが聞いてきたな」
満州に展開する陸海の航空隊はソ連の補給路を徹底的に叩いて叩いて叩きまくっていた。
そのおかげでソ連の前線に届く物資等は二十%を切っていて進撃速度は著しく低下していたのだ。
「満州方面は防衛が目的だ。逆に反撃して攻めこむのは暴挙に等しい」
「うむ、ところで河内君。陸軍内で陸軍用の本とかやってくれないかね? 海軍は海軍で新しいのを出したらしいが」
ちなみに海軍は艦艇を擬人化にしたのが流行っていた。
「ん〜じゃあ戦車に女の子を乗せますか?」
「ほぅ、それは良さそうだな」
案外乗り気な陸軍関係者であった。それはさておき会合から翌日、フィリピン戦線では日米軍が戦闘状態に突入した。
「くそッ!! ジャップは手強いぞッ!!」
「奴等新型の戦車を出してきてやがるッ!!」
ソルソゴンからマニラへ目指していたアメリカ軍はナガで精鋭の第一師団と戦闘していた。
「米軍を此処で食い止めてやれェッ!!」
「四式戦車が来るぞッ!!」
後方から四式戦車を中隊長車とした戦車一個中隊が現れてM4に砲撃をしてこれを撃破した。
「くそッ!! 航空隊の支援は無いのかッ!!」
「航空隊はレイテ島でジャップの空襲を受けているようでありますッ!!」
ルソン島の陸海航空隊はレイテ島の米航空隊と制空権争いをしていた。陸軍は富永中将の第四航空軍が主体で海軍は福留中将の第二航空艦隊であった。
なお、富永中将は史実と異なり航空戦の勉強をしていて航空隊のパイロット達から信頼を得ていた。
『ジャップの戦闘機は手強いぞッ!!』
『後ろにつかれたッ!! 誰か助け――』
『ビリーがやられたッ!!』
制空権の争いは今のところは日本側が押していた。そしてマレー半島では……。
「パーシバル司令官、物資は尽きました。最早これ以上、進む事も戻る事も出来ません」
「……降伏しかないのか」
イギリス軍東洋地域司令官のパーシバル中将はクルアンの司令部でそう報告を聞いた。
「嫌だッ!! 私は二度もジャップに降伏したくはないッ!!」
「ではどうするのですかッ!! カクタの機動艦隊が輸送船団を襲い輸送路が途絶え、我々に食糧と弾丸は無いのですッ!!」
「………」
部下の悲痛な叫びにパーシバルは口をつぐんだ。パーシバル本人も判っていた事だ。角田中将の第三機動艦隊は地上攻撃をしつつイギリスの輸送船団を攻撃して補給を途絶えさせた。
「司令官、兵士達の命はなにものにも代えがたいかと……」
「……判った、責任は私が取る。直ちに軍使を派遣してくれ」
こうして、マレー半島に上陸したイギリス軍は日本軍に降伏するのであった。
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