第百話
アメリカ、イギリス、ソ連の宣戦布告から三日後、将宏達はいつもの料亭に集まっていた。
「……何とか三国からの攻撃は一応ながらは防衛としたか」
「いえ、アメリカの本土攻撃は防いだだけです。イギリスはクランからマレー半島に、ソ連は満州及び千島列島、南樺太に侵攻しています」
東條の言葉に将宏はそう言った。
「偵察によれば、マレー半島のイギリス軍は約五個歩兵師団、三個戦車連隊が上陸して昭南に向かっています」
「それに関してだが……昭南には三個師団と一個旅団、二個戦車連隊が駐屯しているから防衛は出来るだろう。イギリスの戦車は情報では新型中戦車のセンチュリオンだそうだ」
「足止めは?」
「無論している。昭南にいる戦車は全て三式中戦車に更新しているからな。イギリスが整備していた道路をちゃんと我々が整備し直したから三式も運用出来るのが良かった」
この他にもフィリピンのルソン島に駐屯している第二戦車師団も半数近くが三式中戦車に更新されていた。
「ところで……満州の方はどうですか?」
将宏が杉山にそう尋ねた。対する杉山はニヤリと笑った。
「満州戦線は上手く我が軍が防衛している」
杉山の言葉は嘘ではなかった。ソ連はアメリカとイギリスに少し遅れる形で日本に宣戦布告をして満州及び千島、南樺太に侵攻を開始した。
しかし、日本は前々からソ連の侵攻に備えていた。ソ連の航空部隊は地上で多数の戦車を撃破したと報告したが、それらは旧式の九二式重装甲車や九四式軽装甲車等を戦車に見せて並べていたのだ。
航空部隊の報告を信じた陸軍は再編した機甲師団を先頭に侵攻を始めたが、彼等に立ち向かったのは四式戦車である。
四式戦車は満州と内地に配備されていたが満州には二個戦車師団が配備されており、ソ連の機甲師団に百五ミリ戦車砲が火を噴いたのである。
「ヤポンスキーの戦車は重戦車並だぞッ!! 誰だヤポンスキーの戦車は紙装甲だと言った奴はッ!!」
「正面に来るぞッ!!」
機甲師団の戦車兵達はそう愚痴っていた。その間にも味方のT-34/85が装甲を貫かれて撃破されていた。
更に関東軍は双発襲撃機銀龍を投入していた。銀龍は傑作機飛龍を襲撃機に改造していたのだ。機首に五七ミリ速射砲を搭載しており、爆弾倉には二十ミリ機銃二門を装備して両翼には噴進弾八基も搭載出来た。
この襲撃機により多くの戦車を撃破しておりソ連軍はこの襲撃機を大いに恐れた。
「ですが油断は禁物です。中国も国境線で怪しい動きを見せていますから」
「うむ、ソ連は徹底的に防衛をするしかあるまい……が、南樺太は違う」
杉山はそう言って全員に報告書を見せた。
「南樺太は北樺太から侵攻されていますが、迎撃には成功してソ連軍を敗走させています」
「それで?」
「この際、北樺太に侵攻して樺太のソ連軍を駆逐すべきです」
「樺太の全土占領か……」
一種の賭けだった。北樺太を占領すれば三方向から満州と千島列島の二方向しかソ連は来ない。だがそれはソ連も同じであり、北樺太を諦めて二方向に戦力を集中する恐れもあった。
「……自分はやるべきだと思います」
「何か策はあるのかね河内君?」
将宏は北樺太を指差した。
「北樺太に航空部隊を進出させて満州に侵攻するソ連軍の補給基地を攻撃させます。ソ連も補給をやられれば侵攻も停止せざるを得ません」
「むぅ……」
東條は腕を組んで唸った。北樺太を占領してシベリアの補給基地を叩くのも一手だった。
「……一種の賭けだがやってみよう。約三個師団を内地から抽出して南樺太に送ろう」
東條はそう決断をした。この決定で関東と九州の部隊から三個師団が南樺太へ派遣された。
「それと……南方だが……」
「本間中将は上手くやっています」
杉山の言葉に将宏はそう言った。マレー半島のクランに上陸したイギリス軍はシンガポールを目指していた。
シンガポールには日本陸軍三個師団が駐屯しており、司令官は本間中将であった。
クランに上陸の報を聞いた本間中将は直ぐにマレー半島に配備していた部隊を全てシンガポールに下げた。そしてその時間稼ぎとして三式中戦車をが投入した。
「ジャップの新型戦車だッ!!」
一両のセンチュリオンが装甲を貫かれて停止した。他のセンチュリオンはそれを見るだけで進撃していく。
「撃ち返せェッ!!」
センチュリオンの一七ポンド砲が火を噴き、三式中戦車の装甲を貫いた。
「くそッ!! 四式戦車なら耐えられるのにッ!!」
三式中戦車の車長はそう叫び、無線マイクにスイッチを入れる。
「三式砲戦車隊、支援砲撃を頼むッ!!」
『了解した。只今より支援砲撃を展開する』
後方にいる三式砲戦車隊が支援砲撃を始めた。支援砲撃にセンチュリオンの部隊は行動を緩めざるを得なかった。その空白の時間を利用してマレー半島の部隊はシンガポールに撤退していった。
一方、海では第三機動艦隊がサマービルのイギリス東洋艦隊を攻撃して主力のオーディシャス級空母のオーディシャスを撃沈しており機動部隊はセイロン島に引き返していた。
「本間には何としても勝ってもらわねばならんな」
「そうですね。そして問題は……」
「……ウラジオストクか」
ウラジオストクには以前、アメリカの爆撃隊が駐屯していたが停戦により引き上げていた。
今のところ、偵察飛行では爆撃隊を確認していないがもし爆撃隊が展開すれば日本は前回同様になる。しかもその爆撃隊が全てあのB-29になれば……。
「偵察で爆撃隊を確認すればウラジオストクを占領しましょう」
「うむ、先手を打ちたいがフィリピンの事もあるからな」
東條達はそう頷いた。
「ハルゼーが戦死して本土攻撃は失敗しただとッ!? ジャップにジェット戦闘機もあるだとッ!!」
ホワイトハウスでトルーマンはそう叫んでいた。
「はい。日本本土爆撃は完全に失敗です」
「グググ……」
スチムソンの報告にトルーマンは拳を握り締めた。
「……こうなればウラジオストクにB-29に送り込めッ!!」
「それはやめて下さいプレジデントッ!! B-29の性能がソ連に漏れてしまいますッ!!」
「黙れッ!! 漏れるなら漏れろッ!! それ以上の性能を持つ爆撃機を開発しているだろッ!!」
「ですが危険過ぎますッ!! それにジャップもそれを予測してウラジオストクを攻略するかもしれません。何せソ連とは戦争状態ですからな」
「グググ……」
スチムソンにそう言われてはトルーマンも黙るしかなかった。
「では戦略はどうするかね?」
「マリアナから行きますと前回同様の被害が増えると思われます。そこでフィリピン全島を完全攻略をしてからB-29をフィリピンに配備して本土攻撃を行うのが得策です」
「……やむを得んか。海軍は陸軍の支援を強化せよ」
「判りました」
こうしてアメリカはフィリピン攻略を優先する事にした。
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