闘技場(4)
衝撃
腕から伝わり、背中を通り、足に堕ちる
肩と膝が、ミシミシと嫌な音をたてているのを幻聴く
腕の感覚はなくなり、足も地を砕く
次の薙ぎ払いを、防げたのは神の奇跡か
とっさに身体の横に構えたオースにまた棍棒があたり、僕は蹴り飛ばされた小石のように吹き飛んだ。
視界をまわる蒼と茶色
蒼の中には白が、茶色の中には灰色が混ざっている
一瞬が、とても長く感じた
そして、迫ってくる茶色
背中から、転がり落ちて、息がつまる
ようやく止まる世界
でも、頭はくらくらとしていて、戦える状況じゃない
それでも生き残る為には、戦うのが一番だ
走り寄ってくるトロル
それに向かって、オースを向ける
全身が燃えるように熱い
たぶん、傷ができてるからだろう
それなのに、不思議と気分が高揚してくる
こんなのは、知らない
僕は、そんな考え方をしない
でも、この昂ぶりに、身をまかせてみるのも、いいかと、思った
―――――そして、眼が開かれる
―――身体が軽い
迫ってくるトロルが振り下ろす棍棒に乗り、さらに跳躍する
―――身体が熱い
目の前にある顔面にオースを横薙ぎに振るう
―――目に映るすべてが遅い
顔の上半分がオースに切られて高く飛ぶ、吹き荒れる鮮血。不思議と、その滴の全ての形、大きさを目でとらえることができた
―――心臓は肋骨を破壊するかのように打ち、身体に魔力を注ぎ込む
今だに血をふき出す肉体に足をかけ、次の獲物に向かって跳んでいく
―――不思議と、何をすればいいのかがわかっていた
オースに魔力を過剰なまでに注ぎ込みながら、振るう
過剰な魔力は刄となり、飛んでいく
漆黒の波動は、空気を大きく巻き込みながら、進んでいく
その感覚が、手に取るようにわかる
目標までの間にいた、トロルも巻き添えにして切り裂いていく
目標はやはり、と言うべきか、簡単にその刄を切り裂いた
「おいおい、味方を巻き込むなんざ、なってないんじゃないの?」
そう言いながら、こちらを振り向いてつげる金色
両目を金色に爛爛と輝かせながら、こちらを向いている
答えず、次の攻撃の準備をする
そして、彼もバスタードソードに過剰に魔力を注ぎ込み、
同時に、踏み込み振り下ろす
響きわたる鋼の衝突音
しかし、それ以上に、
ふきあれる黒と金が、とても、綺麗だった
戦いに巻き添えになっていくトロルを、視線の隅で確認しながら、何度も剣戟を鳴り響かせる
衝突のたびに、まき散らされる魔力
ただの人間のは、ありえない量が闘技場を満たしていっている
観客席を守るための障壁にも圧力がかかっていき、不協和音を鳴らしていく
だんだんと、速度が上がる
黒が土煙を上げる
金が払う
動きは円のようでいて、実際はお互いに惹かれあう磁石か・・・
風は脈動して、地は怯える
空間が歓喜の歌声を叫んでいる
黒と金の粒子が、鱗粉のように舞っている
肉体から、筋が切れていく音が聞こえる
腕の感覚は、とっくにない
それでも、とまらない
右上から左下に、叩きつける
受け止められたら右を抜けるように移動しつつ切り付ける
振るわれる武器を、ぎりぎりで受け流す
金の斬撃を身体をくるりと回してよける
返しにこちらも黒を飛ばす
そんなのは通じるはずもなく、上から7の剣戟が降ってくる
永遠のような時間
僕は、眠りにつく前のような、ぼんやりとした意識で、それを知覚する
身体を焼き尽くすような熱はそのまま黒い魔力となって外に出ていく
敵の攻撃に、身体が勝手に対処していく
オースに全てをゆだねた時以上の全能感
今なら、なんでもできる気がする
僕の身体は天に向かって左手を上げた
消えていく太陽
そんな状態を幻視する
一点に集まる力
僕の上には、黒い光源
僕の前には金の塔
何も言わなくても、お互いが何をするかを理解していた
左手を振り下ろす
太陽が、塔に向かっていく
塔も、太陽に向かって倒れていく
その光景は、どんな物だったんだろうか?
お互いが、お互いの全てをかけただろう技
でも、その結末は結局、訪れなかった
薄緑の小さな光
黒と金の輝きの前に、存在すら忘れられていた、アモルの転移が、ぶつかる前に発動していた。




