9、もうすぐ試験
時間は流れていった。気がつけば、もう、すでに中間テスト一週間前になっていた。
僕はテストという言葉にひどい思い出があった為に、すこしうんざりしていた。だいたい、授業も正直あまり聞いてなかったりするし、勉強自体にいろんな文句をつけてやりたい時期なのだ。
例えば、数学なんてものは高校までくると、すでに日常生活の中でいつ使うというのだ?といえるほど、訳の分からない数式があらわれるのだから。
国語においても、そこまで深く読む必要があるのか?といった感じで、本なんて読めればそれでいいと思っている。英語においては、僕は日本をでるか、と思わせるくらいキライだ。じいちゃんから言えば、英語は日本語から学ぼうとするから難しいという。僕もそれに賛成だ。
化学はあんな危険なものばかり使うのは学校ぐらいなもんだ、日常の上でそんな物を使う事はないし、使ってもなんにもならない。一番危険な科目だ。
そんな中で、唯一現代社会だけはあっても許せるものだった。先生が言ったんだ、授業初めのときに。僕だけじゃなく、ほとんどが感動したかもしれない。
『アホでいる事は、学ばない事だ。アホでいる事は、同時に世間にとっては丁度いい存在だ。考えない人間がいる事で、いろんなことが楽になるからな。でも、君たちは学んで、考えて、しっかりと政治を見つめなければならない。だから、これがあるんだ』
なるほどな。それはそうだ、何も考えない人間ほど都合のいい奴はいない。なんでもそうということだろう。
そう思うと、今回のテストも意味があるといえるものだ。
「考え過ぎてる、水戸っち実は頭かたいんじゃない? 普通そこまで考えないけど」
あいかわらず、授業中にはすやすや眠る裕にいわれた。考え過ぎてるだろうか?そうでもないと思うけど。
「てか、水戸っち勉強すんの? オレ、テスト勉したことねぇ」
言ったのはカズトだ。そんなに胸はっていうことじゃないけど。
「オレもオレも! よく考えたら、高校受かったのも奇跡」
「それは言えてる」
ケンちゃんの発言に賛成するのはいいが、少しは学習しろよ。って言ってやりたい。そしてそこから始まった、懐かしい話に僕はついていくことが出来ず、無意識に窓の外を見ていた。
桜並木はすでにただの木が並んでいるという状態になっていた。これから緑が色づくのかと思うと、まだまだ桜は生きているんだと笑ってしまう。そして、渡り廊下の方を見る。
今はいつもなら裕子が通る時間だ。味方のいない彼女の背中を今日も見る事が出来るのか、僕はじっと待った。やっぱり彼女は通った。いつもと変わらない、少しだけ丸い背中。
「水戸っち! 何見てんだ?」
僕は慌てて、薫を見た。四人とも僕を見てる。そこにあるのは、勘ちがいだ。僕が裕子を好きで見ていると思っている。わかって、薫も僕に声をかけたんだ。
だんだん赤くなる頬を隠しながら、僕はべつにと返事をした。
あの四人はいいとしても、僕にとってテストは非常に重要なものだ。
僕の父がいい大学をでて、大企業で働いているため僕は出来るだけ、頭のいい子を演じなければならない。僕自身、それが別段いやなわけじゃないので、できるだけ両親の望むようにしている。地元の高校にはいったのもそこに意味がある。
まぁ、とにかく勉強は必要だ。だが、家では誘惑するものが多すぎて僕はとても勉強に集中できない。だから、学校でするのがいいのだが、人が残り過ぎている。僕はあの四人以外とは関わることが苦手だ。だから、学校ではなくファーストフード店ですることにした。
そこには学校のやつが今の時期にいるとは考えられない。とはいえ、僕と同じ事を考えてる奴はいるかもしれないが、学校の近くのファーストフード店では丁度いい隅っこの席があるのだ。目立たなくて、人がどれだけとおってもあまり気にかけられにくい席。
僕はそこに座って、注文した飲み物を机の上におくと、試験に出て来る教科の教材を鞄から出した。
「水戸くん?」
僕ははっとして顔を上げた。そうそう人目につかない場所だったんだけど、そこにいた人物には僕の姿が見えていたらしい。立っていたのは、小学校のときからの友人である、井上美香だった。
どうやら友人とここに来ていたみたいだ。
「久ぶり。水戸くん勉強してるの?ここで?」
机の上に置かれた教材を見て、彼女はそう言ったのだろう。
「うん、テストちかいんだ。井上は友達と?」
「そうだよ、あ、でももう帰るんだ」
ぼくがふーんと言うと、彼女は友人の方に視線を向けて少しだけ困った顔をした。
「えっと、水戸くん携帯もってる? あ、そういえば電磁波がこわいんだっけ?」
僕は中学のときに電磁波の恐ろしさを熱く語った日々を思い出した。
「よく覚えてるね。携帯がどうかしたの? 残念ながら僕は持ってないけど」
やっぱり、井上はそう言った。よくみると、彼女は少しだけ化粧をしていた。でもあまり似合わない感じ。
「ちょっと、また会えたらいいな。って思っただけ」
「どうして?」
僕はあまり井上と仲良くなかったし、ただ小学校から一緒というだけで女子の中では話をする方なだけだった。そういった意味で僕は言ったのだけど、彼女はまた困った顔をした。
「ちょ、ちょっと、相談したい事があるの。水戸くんなら聞いてくれるかと思って」
彼女がまた友人の方を見た。彼女にしてはずいぶん派手な子とつき合っているなぁと思って、気づいた。そういうことか。
「いいよ。僕の家の電話番号知ってる? それか、僕はしばらくここで勉強するから、ここに来てよ」
「わかった。ありがとう、じゃぁ、またね」
手を振りあって別れると、僕は彼女の背中を少しだけ見て、勉強をはじめた。
彼女の背中は、裕子と少しだけにていた。
あらすじと違ったりする所がありますが、これからもっと、恋愛要素を含めていくつもりです。
これからも、どうぞ読んでやってください。




