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7、末っ子

 バイクの上に乗っていた彼が立ち上がって僕らを見た。爽やかな印象を受ける彼が誰なのか、もう僕には分かっている。あとは確認できればいい、裕の口から。

「な、なんでお前、こんなとこに?」

 予想通りというべきか、裕の声は見事に裏返っていた。目の前の彼は僕を見ると少しだけ目を細めた。

「相変わらずだな、裕。オレだってここに来てもいいだろ?」

「オレはそういう事を言いたいんじゃない。お前の本性ぐらい分かってるし」

 本性? 僕は自然と首を傾げた。それをどう解釈したのか目の前の彼が僕に声をかけた。いくつだと思っているのか、なんだか妙な優しさが含まれたいい方だった。

「裕の友達? 珍しいタイプのやつだな。なんて名前?」

 僕が名前を言うのを遮って裕は僕の肩をつかんだ。そして、そのまま僕を後ろにやった。邪魔するなと言ってるのか、関わるなと言ってるのか、とりあえず僕はこの場にいない方がいいということはよく伝わった。

「オレの質問に答えろ。どうしてオレのバイクに乗っている」

 目の前の人はバイクから降りた。

「裕が来ると思ったから。このバイクを知ってたから。に決まってるだろ」

 今までの優しそうな表情が消えて、今の裕と同じような冷たい表情をした。そのせいで僕は少しだけ背筋に悪寒がはしった気がした。

「オレの事は放っとけ! 徹がいるから家を出てるんじゃないって言ってんじゃん」

 叫びのようだった。心の奥底から声を振り絞って伝えている感じ。僕はこの人が徹だったんだと、改めて確信した。そして、裕の背中からその成り行きを見守った。

「ならどうしてもどってこない? オレの事が原因じゃないなら帰ってこいよ。だいたい、どこで生活してるんだ?」

「だから放っとけ! お前ら本当に迷惑なんだよ! そこどけよ、お前の顔なんかみたくねぇよ!」

 裕が僕の手をつかんで徹と呼ばれた男子のとこまでいくと、二人して火花の散るような睨みあいが始まった。つかまれた手を振りほどく事もできずに、今度はあせりが僕の背筋を通り抜けた気がした。

 睨みあいは数分つづいたように思われた。

「裕も裕子も、オレを気にし過ぎてる。特にお前は・・・こっちが心配になる」

 裕の顔が一瞬ひるんだ。緩んだというより、動揺している感じ。それでも何も言わない裕にあきれたのか、溜め息を吐き出して徹はバイクの前からどいた。裕はいそぐようにバイクに乗った。何かに焦っているようにも見える。

「水戸っちこれ」

 僕にヘルメットを渡し、僕は来たときと同じ位置に腰をおろした。そしてヘルメットをかぶる前にもう一度だけ徹を見た。笑っていた。でも、それは笑顔とは違うものだった。裕もまた、笑ってはいなかったけど彼と同じ意味を持つ感情をいだいているように思われた。

「徹」

 徹は裕の方に顔を向けた。裕はヘルメットを脱いで、じっと徹を見ている。

「もう、来んな。お前にはお前の世界があるんだし、オレとは関わるな。じゃぁな」

 裕はすぐにエンジンをかけてバイクを動かした。僕は最後まで彼の寂しさを隠した表情が忘れられなかった。そして裕の声がどこか叫んでいるように聞こえたのも、確かなことだった気がした。

 裕に何があったのか知らない。知りたいと思っていたけど、裕子の事を口にして失敗してから、押さえていた。でも、僕はきになっていた。これは興味だけじゃなく、裕の事、裕子の事、徹の事、関わった事から僕と仲良くしてくれた二人が友達になってるのなら、本当の意味での友達なら、僕は今度こ相談相手になりたいとおもったんだ。

 ただ、それだけのこと。

 ちっぽけな僕の欲だった、知りたいと思うことは。 





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