25、謝らないで
夏休みが終わっても、僕の心は熱くて冷めないままだった。あの告白は僕にとって、最初で最後の勇気だった気がした。とても今はあんなこと出来るような勇気はない。僕は弱い奴だから、そんなこと簡単にできた自分が恐ろしくも感じる。思い出すたびに、僕は真っ赤になってしまう。
あの日の僕はどうかしていた。あれから、裕の家に遊びに行くコトをしなくなった。裕子にどうやって顔をあわせたらいいのか分からなかったから、僕は家を出ようとしなかった。裕子の方も、僕に会おうとしてくれていなかった。僕は裕子に呼び出された場合いにだけ、裕の家にいこうとしてたけど、裕子からの連絡なんてなかった。それが悲しくなったときもあったけど、今は平気だ。
僕が家に行かない間に裕は僕の家に来る日が多くなった。裕に引っ張られて、出かける方が多かったけど僕の家にいる時は長い話を延々としているコトが多い。花火大会の後も裕は家にきて、ナミと一緒に僕の話を聞いていた。
「え、マジで! 告白したの?」
ナミのありえない、とでも言いたいような声が僕の眉根の皺を増やした。
「うん。返事、聞きに行けないから待ってるつもり」
「そう、そうなの」
ナミは僕がどうやって告白したのか、詳しく聞きたがったのでしかたなく話しだしたが、僕は裕の様子が気になってしょうがなかった。僕は裕に対して罪悪感というものを抱いていた。僕のしたコトは、間違っていないんだけど、裕の気持ちを知っているのに簡単に気持ちを踏みにじるコトをしている気がした。
裕の顔は無表情に近かった。なんにも僕に知らせようとしないで我慢している感じ。なのに、裕は泣いているように見えた。僕勘ちがいでなかったら、裕を傷つけたんだろう。
その日以外の裕は僕に対して今までと変わらなかった。普通の友人同士だ。僕もそれを見て何の気づかいもしなかった。それで良かったんだと思う。
それが起こったのは、夏休み終わってから三日経った頃だった。裕子が僕の所に来たのは。
裕子は僕を屋上に呼び出した。屋上には鍵がかかっているけど、裕子には簡単に開けられる。裕子しか使えない場所ということは、誰も来ないってことで、僕らの話は誰にも聞かれない。
「ごめんね、クラスの人にいっぱい見られちゃったね」
裕子は金網に手を入れて、掴めるはずのないものを掴んだ。僕はただ彼女を見ている。見ているコトしかできない。
「水戸っちの・・・あの、気持ち・・・について、なんだけど」
裕子はためらいがちに言葉を選びながら、慎重に僕を見ないで言っていく。
「あ、ありがとう。すっごく、すっごく・・・嬉しかった。あんな告白はじめてだったから、びっくりしちゃったけど、嬉しかった」
言い終えてから、裕子はやっと僕を見て少し笑った。頬が桃色に染まっているのを見ると、僕の頬はリンゴのように真っ赤になった気がした。
だが、すぐに裕子の表情は硬くなり、顔はゆっくりとうつむいていく。僕は次の言葉が、僕のとどめを刺すコトになると、予感していた。外れるコトのない、絶対の予感。
「でも、駄目なの。あたしには・・・」
「わかってる!」
僕は思わず彼女の言葉を遮った。
「わかってる、知ってる。裕子が、僕を好きじゃないコトも。裕子に好きな人がいるコトも」
「そ、そう・・・。ごめんなさい」
ごめんなさい、その言葉が僕の胸を締め付ける。失恋っていうんだよね。でも、僕はあっさりとしたこの気持ちに首を傾げそうになる。最初から分かりきっていたからだろうか、花火のように上手く散ってはくれないけど、それほど失恋をしたという感じがもてないのは。
「あやまらないでよ、僕は裕子に困った顔をさせようとして、気持ちを伝えたんじゃないんだから」
裕子は苦く笑った。僕も笑った。




