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23、花火大会

 ナミのコトを話すとすれば、とにかく僕とウマが合うコト。まるで女版の裕だ。姿形は女の子のものでも、僕から見ると、彼女は中身は男っぽい所がある。僕が女の子と接するコトが少ないせいもあるだろうが、裕子とは違ったし、僕が付きあいやすい所からそうだといえるのだ。

 それでもって、裕のコトがスキだと僕に言ってからすぐ、彼女はアタックを繰り返している。というのも、まずは友達になるコトだと言って、すぐに裕と打ち解けていた。それからも、何度も裕の所に来ている。

 学校も終わって、僕らは夏休みを迎えた。ナミはしつこいほど裕にまとわりついている。僕はナミと一緒に裕の家に行くコトが多い。裕は快く迎えてくれるし、家の人も親切だ。僕にとっては裕子に会うための口実のひとつになっていた。

 思ったより、裕の家は広々していて、僕は圧倒されていた。たぶん金持ちなんだろうな、と思いながら僕は緊張気味に家に入る。家の中に置物や、絵が飾られているなんて、僕には初めて見るような光景だ。僕の家では、考えられない。あっても、せいぜいパズルだろう。

「げぇ、ナミもいるのかよ。ま、いいや。はいれよ」

 裕のあからさまな顔が冗談かどうか、掴みにくいと頃だがナミは気にしてはいないようだった。迎えてくれたのは、他にも裕子がいたし、裕の部屋の中には薫がいた。

「水戸っち、おひさ。元気してる?」

「うん、薫こそ・・・プールの監視いんやってるんだっけ? 結構焼けたね」

 まだまだ。と薫は首を振った。

「これからどんどん焼くつもり、真っ黒になったオレを楽しみにしてな」

 僕は笑いながら返事をした。裕と裕子がお菓子とお茶を用意すると、ナミはすぐに裕のそばに寄った。裕は少し身をよじったが、さほど嫌な顔はしない。そして、僕はちゃっかり裕子を隣によんだ。

 そうなると、自然に僕は裕子に話しかけていた。

「徹はいないの?」

 裕が戻って来てから、僕は徹に会った事もないのに、話題を掘り出すためにそんなコトを聞いていた。

「いないよ。夏期講習行ってるの。いい大学いきたいんだってね、いっつもいないのよ」

 そうなんだ。僕はだされた冷えたお茶に手をのばした。僕がそれを飲み終わると、薫が立ち上がった。裕との話が終わり、帰るところのようだ。飲み終えたコップをお盆の上に乗せて、僕は見送ろうとしたが薫がそれを止めた。

「じゃ、次は海に行く日まで。水戸っち、またライブ見に来てよ」

 そう言って、手を振りながら部屋を出て行った。窓からもう一度、裕と一緒に手を振ると、薫も笑って振り返した。

「これから練習あるんだと」

 裕が窓を閉めながら言った。僕はふーん、とだけ返事をして、元の場所に座った。と、ふと裕の机の上に置かれたチラシに目がいった。さっととり、僕が見るとナミも覗き込んで来た。

「花火大会」

 僕とナミの声が重なった。それに反応した裕が変な笑いを浮かべた。そこには何かを企んでいると書かれている。

「行かねぇ? オレ等で」

「それって、ここにいるメンバーでってコト?」

 裕は頷き、僕の肩をたたいた。そしてぼそっと耳打ちする。

「オレにとっても、水戸っちにとってもいい方法だろ?」

 そりゃ、僕にとっては裕子がいればそりゃラッキーだけど、なんだかなぁ。裕にとってはよくないんじゃないか、と考えてしまうし。でも、これはナミにとってもいいコトだし。

 僕が悩んでいるうちに、裕子とナミは簡単に答えていた。

「行く行く! いつだっけ? あさってじゃん! ねぇ、水戸っちも行くでしょ?」

 ナミが手をぎゅっと握った。その力の入れ方が、僕にどう返事をさせたいのか伝わってくる。僕はため息を吐き出し、裕を見ながら申し訳なさそうに、行くよ、と答えた。


 

 心のどこかで、雨になればいいのに。なんてコトを考えていた。でも、見事な快晴で花火日和といえるほどの空だった。それも夜になっても何一つ変わらず、花火大会は開かれるコトとなった。

 屋台が並ぶ街中を、ぞろぞろと浴衣を着た女の子やカップルがあるいて行く。僕はそんな人が通る中、ぽつんと待ち合わせの場所にいた。こんなにいっぱいの人が街の中にいるなんて不思議で見ていてあきないと思いながら、突っ立っていた。時々、クラスの子たちを見るコトもあったし、中学のときの同級生も見る。目が合っても話をするおとはないのだが、妙に恥ずかしくなり顔が熱くなる。

 向こうとともかく、僕は一人きりで馬鹿みたいだ。

「水戸っちー!」

 ナミの声だ。その方向に目をむけるとピンクの浴衣姿のナミが見えた。女の子って変わるんだなぁっと僕はしみじみ思った。ナミは別人とまではいかないが、浴衣姿がまぶしく見えるほど、女の子らしかった。おぼつかない足取りだったが、小走りに僕の方に向かってくると頃を見ると頬が緩む。

「おまたっせ。って、裕と裕子はまだ来てないの?」

「うん、僕が一番乗り。もう来てもいい頃だけど」

「だね。あ、あれじゃない?」

 ナミが指差す方を見ると、僕と目を合わせて片手を挙げる裕と隣にいる裕子の姿が見えたけど、裕子も浴衣姿で僕はあまり直視できなかった。水色だ。裕子によく似合う色で、髪の毛をまとめている所が女らしさをかもし出している。いつもはしないメイクもしているみたいで、いつもより顔がくっきり見える。

 それでも、横に並んでいるとよくにてる。同じコトを思っていたのかナミが笑い出した。

「おっそーい」

「わりぃ、裕子が浴衣着るっていうから時間とった」

「ちょっと、人のせいにしないでよ。裕こそ、財布忘れたとか言って、なかなか家出られなかったんだから」

 いがみ合う二人をおさめながら、僕らは歩きはじめた。裕が花火の良く見える場所を知ってると言っていたのでそこまで歩く。もちろん、屋台にある食べ物も目的のひとつだ。

「水戸っち、水戸っち、焼き鳥食おうぜ」

 裕に半ば引きずられるように僕は焼き鳥を買った。それを食べ歩くと、裕子とナミがかき氷を買う。ナミは無理矢理に裕に一口食べさせていた。自然と僕と裕子がそれを笑い合う。

「ね、あの二人いい感じよね。このままばっくれる?」

 冗談まじりに裕子がいうのに、僕は敏感に反応してしまった。そんなこと簡単に口にされると困る。僕は僕の中ではその言葉はいい方に持っていこうとしてしまうんだから。

「ははっ、いいね。思いきってこのまま、今のうちにどっかいっちゃう?」

 今度は僕が聞いた。試してみたかった、裕子がどんな反応を返すのか。

 僕もただの冗談のつもりだった。裕子が僕に簡単に言ってしまう、どうでもいい存在としてみてるコトが無償に腹立たしくなったから。でも、僕の予想は裏切られた。裏切られたという言葉は必ずしも適切ではなかったかもしれない、彼女は前を歩く二人から隠れるように、足取りをゆっくりにしてそれから僕の手を引っ張った。

「水戸っちが悪いのよ」

 裕子の言葉の意味を考える暇なんてなかった。僕は彼女が握っている、肌の触れあう場所に集中していた。真っ赤に火照る頬はもう前を歩いていた裕とナミのコト等無視していた。ただ、目の前にいる彼女だけを見ていた。



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