22、新たな恋
裕と仲なおりしたことは、学校に行くとすぐに知れ渡っていた。裕は久しぶりに学校にきていた。単位の方が心配になったが、ケンちゃんによるとまだまだ大丈夫だということで、僕は安心した。そうとはいえ、昨夜のコトが僕の頭の中でよぎると何もかもまっさらになる。
告白は告白でも、普通じゃない様に思える。これって差別になるかもしれないけど、男から男って僕は今まで聞いたことないし、僕には好きな人がいるし。頭抱えるよ、ほんと。
それも僕一人だけが頭を抱えていて、裕は昨夜のコトを気にもしてない様だった。
「おっはよっす!」
いつもの明るい笑顔であいさつするのを見て、どうにもこうにも困ってしまったが、僕も普通にするべきだと思って、あいさつを返した。
「水戸っち、あとで話聞いてよ。へっへー、いろいろ終わったからさ」
終わった? その表現は正いのか。とにかく、裕を見てれば一目で分かるんだけど、うまくいったみたいだ。そう思うと、自然と顔がほころんでいく。少しでも僕がしたコトが正しかったっていわれてる気になって、ついつい。誰かに気がつかれない様に咳をしたり、口を引き締めて堪えた。
授業が終わると、裕はすぐに僕を連れ出した。
場所は、桜の散った場所。丁度そこには弁当を食べる人のためのベンチが置かれている。夏だし、ここで食べて行く人は多いんだろうなぁ。僕と裕はそこに腰を下ろした。裕はジャラジャラしたアクセ類をいじりながら、手にはここに来る前に買った珈琲牛乳がある。
真っ青な空を見上げながら、真っ白に光を放つ太陽もみた。
「まずは、そうだなぁ。家帰ったら、親父に殴られた。めっちゃいたかったけど、親父が泣く顔みたら目が覚めてきて、義母にも殴られたときには、オレって馬鹿だったなぁって気づかされた。まぁ、それから徹と裕子と家族で話して、オレは家に戻るコトにしたけど。やっぱこれは水戸っちのおかげだし。サンキューな」
いえいえ。照れながら返事をする。
「それで・・・昨日のコトなんだけど」
急に話を昨夜のコトにもっていかれて、僕は心臓が口から出るんじゃないかと思うぐらいに、驚いた。
「あの、あれは、まぁ」
裕が必死に何か伝えようとしてるのは、分かるけど僕は僕で何かの言葉を探していた。沈黙というか、裕のいつまでも言葉のでない必死さが僕らの中に流れた。
「裕」
体を振るわせて僕を見る。
「僕、裕子が好きなんだ」
裕は空を見上げて、ため息をはいた。そして、僕を見ると「しってる」と言った。
「わかってた。水戸っちは気づいてなかったけど、オレの目からはすぐに分かった」
それは、恋をしてるからこそだと、裕は付け足した。僕は少しずつ赤くなる頬を押さえながら、裕の言葉に耳を傾けていた。
「あれだな、えっと、オレは別に水戸っちの恋路を邪魔しようなんか思ってないから、それにオレは水戸っちといれれば・・・何も望む気はないし。っていい訳かな」
僕は首を振って、裕の気持ちを拒んだ。僕にはとても答えられないし、恋という気持ちを持つ裕といるのは、なんだか悪い気がした。裕は僕を想ってくれても、僕は裕子しか想えない。僕には複雑な恋ができないし、男とはとてもとても、恋愛するコトなど、できやしない。
臆病な僕は、唯裕の笑顔を信じた。裕が笑っているときは、友達でいるときだと思ったからだ。
期末テストが終わって、裕子の姿をまた廊下で見るコトが増えた。ただ、その姿は決して背中の丸まった彼女の姿ではなく、ピンと背中を張って、堂堂と歩く彼女の姿だった。その傍らにはいつも友達がいる。それを見ると僕の目がついつい細くなる。それは嬉しいからだ。
僕はその頃、もうすぐにくる高校最初の夏休みに心踊らされていた。カズト、ケンちゃん、薫、裕といっぱい遊びに行く計画をたてたし、夏は楽しいコトで一杯だ。そんなうきうきした僕を、テスト明けの休みの日に、裕とバーに行くコトになった。というのも、裕の給料を取りに行くだけだけで、僕はただの付きそいだ。
いつものようでいつもと同じメンバーじゃないバーに入ると、すぐにいくつもの声が聞こえる。それは全部裕に向けられたものだったけど、僕にも少しは向けられていた。
裕がマスターと話している間に、僕はカウンターに座って、マスターがいつもの様に僕に出す、味のしない飲み物を少しづつ口に入れていた。僕の所に、何人かやって来ては、離れ、やって来ては、離れてを繰り返し、ついに一人の女の子が僕に近付いて来た。見た目から、派手だ。
それでもって、すこし肌が黒い所が昔のコギャルを思い出させる。でも、メイクはそれほどきつくなく、僕はには素の顔に見えるぐらいナチュラルだった。でも、服装は短いスカートにたっかいヒールの靴。それでもってアクセ類をジャラジャラつけている。それにセミロングのまっすぐの髪は茶色だ。僕はある人物を思い浮かべていた。
「水戸っちだっけ? あたしナミっていうんだけど、あんたと一緒に来た奴なんていうの?」
彼女はどかどかと僕の隣に座り込み、僕の顔を覗き込むように見る。
「裕のこと?」
「裕って言んだ。ね、彼女とかいないの?」
「いないよ」
だって、僕のコトが好きといってるんだから。口には出さずにつぶやいた。彼女はしばらく口のはしを釣り上げて、何度も頷いた。この顔はどこかで見たコトがある気がする。
「ねぇ、好きな人とかはいないかな?」
心がすこし跳ね上がった。僕はなるべく悟られない様に顔を作って、彼女に言った。
「い、いるみたいだよ。ぼ、僕もその話はきいてないからよくしらないけど」
あ、そう。彼女の反応は急に静かになった。そのときになって、僕は彼女の見る目がどういったものか気がついた。
「ナミだっけ? 君もしかして、裕のコト気になるの?」
ナミは顔を少し赤らめて、僕から視線を外すとゆっくり頷いた。
「わかっちゃったか。ねぇ、水戸っち!」
彼女は僕の手をつかんだ。その力の入れ方に、僕は少し身を引いた。
「裕と仲いいんでしょ? どうにかとりもってくれないかな? あたし、マジだから」
あぁ、その強引さは誰よりも、裕に似てる感じ。僕は彼女の必死の瞳に自分を重ねていた。恋をする彼女の目と、僕の目はきっと似てる。それは誰もが持つ瞳で、その目は好きな人を狙って離しはしない。
僕は握られた手に手を重ねた。初めて会う女の子でこんなに楽に話せる子は初めてかもしれない。
「いいよ、僕に出来るコトがあればするよ」
僕は裕の気持ちを踏みにじっているかもしれないけど、ある意味では裕の為だとおもう。彼女とお互いに手を握りあうと、裕が帰って来た。一体何が起きてるんだか、という不思議そうな顔で僕らを見てたけど、彼女は嬉しそうだった。僕も何故か嬉しかった。




