21、解決
僕は席を外すべきか、そのままいるか迷った。っていうか、なんでいるんだ徹。
ちゃっかり、僕の隣に座った徹を僕は少し見上げてみた。裕と裕子は、今度は徹を睨みながら話を進めようとしている。これも、少し前に徹が女の子と一緒にここに入って来たのがはじまりだ。裕か裕子を見つけて、大声で名前を呼んだ徹から逃げ出したいと顔に描かれていた裕を僕が押さえ込み、裕子が徹を呼んだ。一緒に来ていた女の子はすぐに帰ったようだ。
それで、裕子が事情を説明しいまにいたる。もう、これは僕はいなくても大丈夫じゃないかな?
「水戸っち、逃げんなよ」
僕の心理を読んだ裕が鋭い目つきで僕に言った。小さく返事をすると、またレモンティーを飲みはじめた。
「裕、帰ってきなさい。帰ってくれば、寂しくなんかないわ」
「そうだ、寂しいなんて、オレらがいるだろ」
裕はうっとうしそうに舌打ちした。
「うっさいなぁ。だいたい・・・オレは徹に話したいコトがあんだよ」
「言えよ。なに?」
徹が真剣なまなざしを向けた。どこか作った顔をしているが、裕のコトを心配してるのは本当だろう。でも裕は視線を外して、ぼそりとつぶやいた。
「ここでは言えない」
「わかった、じゃぁ、家に帰ろう」
「そこでも言えるか!」
「じゃぁ、ここで言うしかないだろ。お前は何考えてんだ、親だって心配してんだから」
裕は目を見張った。
「嘘付け。あいつらがそんなコト思うか」
「本当だ。裕子も知ってるだろ? 母さんが探しに出てるところ。義父さんも、探してるよ」
「携番知ってるのに、連絡して来ないじゃん」
「してるよ、でも裕が全部拒否したんだろ」
裕は小さく、あっと声を出した。僕も前にケンちゃんから聞いたことがある。裕が家との連絡を絶つために携番とメルアドを消去したって。自分で忘れてちゃ世話ないよ。
「でも、学校から何の連絡もないし」
ここでは僕が口を挟んだ。
「学校しばらくきてないじゃん」
裕はついに言葉を詰まらせた。背中を小さくする裕をみて僕はため息をはいた。もう、僕はこの場に必要ないだろう。彼等は初めから僕がいなくても、結果を出すコトができた。僕がたまたまきっかけを作るコトになっただけだ。もう、必要はないはず。
僕は立ち上がると、お金だけを出して裕の背中をたたいた。裕の目が不安げに見て来て、裕子がどうしたの?って聞いた。
「帰るね」
それだけいうと僕は店を出た。僕を呼ぶ声が聞こえたけど、僕はそれを振払って走り出した。顔はいつも以上に笑っていた。
その夜のコトだった。
僕の部屋の窓に石があたる音が聞こえた。虫か何かがぶつかった音かと思って無視をしていたが、しつこく聞こえるので僕は窓を開けた。
「よぉ」
玄関近くに立っていたのは裕だった。僕は急いで下に降りて裕の所まで行った。裕はバイクに乗ってここまで来たようだ。あの日と同じバイクがあった。
「どしたの? こんな時間に」
「お礼言いにきただけ、ほら、水戸っちサッサと行っちゃうからオレも裕子も何も言えなかったし」
そんなにたいそうなコトはしてないんだけど、ま、いいか。
「ありがとな、おかげで親と話し合ってみるコトにしたよ。帰るかどうかはそれから決めるけど、そのつもりで荷物は用意したし。いろいろ、まだあるけどどうにかしてみる。それで」
僕は次の言葉を出すのに時間をかける裕を待った。裕はうつむいて、僕を見て、またうつむいて、を繰り返していた。そんなに言いにくいことなら僕はいわなくていいと思うけど。でも待ってみたかった。
裕が次に僕の目を見たとき、決意というものが見えた。何かを決めたときの顔。
「オレ、たぶん水戸っちスキだわ。これ一応、恋ってことで」
じゃっ、と言って、裕はバイクにまたがって帰って行った。その姿を見ながら僕は突っ立ったままの体をどうにか動かそうとしていた。でも、動かない。
裕はなんて言ったんだろう? 聞こえてるけど、聞こえてないような。いや、そうじゃなくて聞こえていて、聞きたくない言葉だった。好きって言葉にはいろんな意味がああるけど、僕は裕には友情としてはすごく好きだ。でも恋愛としては裕子が好きだ。裕は僕を恋として好きだと言った。
僕は初めて裕とであった頃と同じような恐ろしいほどのわらい声をあげていた。
こんな告白はじめてだ。




