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20、話し合い

 裕は裕子を瞳に映してから数秒、目を見張ったまま固まっていた。動いたと思った時には、僕がそこに映っていた。見上げて来る瞳には布団に潜ってこっちを見た時と同じ、目に涙の膜がはられていた。僕はいけないコトをしたのだろうか、でも、裕はこのままだと壊れてしまう。だから、助けたいとおもった。それだけ。

「マスター・・・ちょっと出てもいい?」

 裕はマスターを見ずに言った。見てる方向は僕。そして、僕の隣に立つ裕子も捕らえる。

「あぁ、今日はもういいよ。いつもオレ一人だしな」

「ありがと」

 裕はそれだけ言うと、妙な雰囲気に包まれたバーを出た。マスターはもちろん、客である裕の友人たちもその姿が見えなくなるまでずっと呆然と見つめていた。


 外に出てから、まず僕と裕が並んだ。裕は僕の肩に腕を回して、睨みのきいた眼で僕を見た。逃げ出したい衝動を押さえながら、僕もその目を見る。

「どういうこと?」

 怒ってる、怒ってる。

「ほら、話をした方がいいとおもってさ」

 というと、裕は僕の頬をつかんだ。力が強いし、つねる部分が薄くてイタイ。

「それが、お節介だっていうの! あぁ、もう、やだよオレ。話せねぇもん」

「僕がいるから。僕がちゃんと、話せるようにするから」

 裕はつねる手を止めた。そして、後ろでいずらそうに突っ立っている裕子に目を向けた。裕子はにこりともせず、その目をみる。僕は笑ってやった。どうにかこの場の雰囲気が和らげばいいと思ってしたのだが、二人の視界には入っていなかったように思える。

「どっか行こう、こんなとこじゃ話できないでしょ?」

 僕の言葉に従って二人は頷きもせず、歩きはじめた。僕と裕、その後ろに裕子が並び、微妙な間隔がそこにはあった。沈黙しか流れない空間に僕がいていいのかと、不安はあったが裕の姿を見て、少し震えた手を見ると、これで良かったんだと言い聞かせるしかなかった。裕子のしょげた顔は、見たいものではなかったけど、それもこれでいいんだと、思うしかない。

 僕らはカフェに入った。いたって普通の店で、僕がレモンティーを頼むと、裕子と裕はカフェオレを頼んでいた。こういう所が双児って感じ。

「話、あんだろ?」

 裕は僕の方を向いていったけど、言ってるのは裕子に対してだ。裕子も僕を見て、なるべく裕を見ない様にしている。

「帰ってきなさいよ、いいかげんに。みんな心配してる」

「馬鹿にしてんのか? 誰も心配なんかしてねぇだろ。いい加減なこと言ってんじゃねぇよ」

 裕子はついに僕から視線を外して、裕を見た。睨む眼は鋭く、裕を見てるようだった。二人から挟まれる僕は、目をそらしながらレモンティーを少しづつ飲んだ。

「何それ、あたしずっと本当に心配してたのよ。裕になにかあったらって。勝手に出て行くなんてひどいじゃない、自分勝手すぎるのよ。あんたもあたしも、親からは見放されてるけど、あたし達はいつまでも二人なんだから! 勝手に一人にしないでよ!」

 裕子の叫びに、裕も裕子の方を見た。驚いている。そう言ってる。

「なんだよ、それ。一人にしたのはお前が先じゃないか、お前がオレより徹といるコトを選んだんだろ? オレよりいい兄弟になるんじゃないか。それでいいだろ、オレのコトなんか放っとけばいいじゃん」

「放っとけないって言ってるじゃない! ほんとやな子。頼むから、戻って来てよ。親なんか、ほっとけばいいじゃない。放っとけないなら、あたしと一緒に話しにいこう。話したら分かる親よ。裕もそれぐらい分かるでしょ?」

 裕は再び僕を見た。僕の目に映る裕子を見た。

「わかるかよ、そんな親だって知ってたら、もっと早くそうしてる。あきらめてるんじゃない、あきれてるんだあの親たちに。それに、オレは徹に会いたくない」

「会いたくない? どうして?」

「もう、うんざりだ。あいつに使われんのは。だからに決まってんだろ」

 裕子の目に涙が浮かんだ時、裕の目にも似たものが浮かんだ。僕は何もいえないまま黙って、成り行きを見守っていたけど、いてもたってもいられない衝動に駆られていた。

「裕、はどうしたいの? 帰りたくないの? このままじゃ、裕は壊れるから、話をしてほしかった。でも、裕の気持ちが見えないよ」

 僕の言葉に、今ははっきりと僕の目を見た。裕子も僕を見る。

「お、オレは・・・家に帰りたいわけじゃない。唯、寂しい・・・だけ」

 寂しい。裕の心がはっきりと現れた。僕の目を見て言うときに裕は別の場所に行っていた。うつろな瞳が、本当に何かを伝えようと必死になっていた。僕は裕を捕まえなければと、ついつい手をつかんでしまった。

 驚いて見る裕の目が笑顔に変わる前に、誰かが大声を上げた。聞き覚えのある声の方に三人とも目を向けると、そこには徹がいた。

 もはや偶然ではなく、必然な感じ。


これで二十回目です。

前作にあたる『コイバナ』の2倍ですね。

一応、ここからが話の上では折り返し地点です。というのも、裕の話がおわったら恋愛話をかいていこうとおもってます。

主人公の恋も発展させていきます。


感想、批評などありましたらご遠慮なくいってください。

それでは、読んで下さってありがとうございました

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