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19、屋上で

 裕の背負っていたものは僕が思っていたモノ以上だった。その夜、僕はよく眠る事ができないまま朝を迎えた。

 家庭事情っていろいろあると思う。僕の場合、それは一際なかったけど、僕自身にとって家は苦痛だった時期もあった。家族って友達以上の気持ちがあると思う。兄弟なんかは、友達以上につき合いやすい。それは心を許しあってるからだし、それを徹みたいに利用するのは間違ってる。そんなことぐらい、裕だって、誰だって分かるコトだけど。

 日曜になると、裕の熱も下がってその日のうちに、裕はマスターの家に向かった。僕は裕の背中を見送りながら、夏を感じさせるはずの風が冷たく感じられた。


 月曜日、裕は学校に来なかった。

 裕子を呼び出して、僕はあまり使われていない、音楽室の奥にある屋上に行った。

「そっか、裕はそんなコトを考えてたの・・・」

 夏スカートが風にゆれて今にも捲れ上がりそうになるのを、僕はハラハラしながら見てしまっていた。男としての欲望がぼくにそうさせていた。だが、彼女にそれを悟られたくないので、僕はすぐに彼女の顔を見て笑った。

「何笑ってるの? 変ね」

 彼女がいうのに僕は笑って答えた。裕の事は、言いにくいコトの他は話した。裕子に相談しておくのが、いいと思ったからだ。

「あたしは、徹に利用されてるのかな? わかんないわ。でも、徹はいろんなものを抱えているの。それを分かってあげるコトって、近い場所にいるあたし達にしかできないことだもの。あたしと裕はずっと、徹を守ってきたの。だから、利用されてるんじゃないお思うわ、ただ、側にいるだけ」

 裕子の目がまっすぐと、空を見ていた。風は吹いていた、どこまでも、ずっと。

 裕子は裕が言っていた徹の本性というものを本当に知らないのだろう。だけど、どうしてここまで信用してるのか。僕の心がまたズキズキとした。これはあまり気づきたくない。

「裕と話をしてよ。裕子も裕も、我をはらないで。裕はただ寂しいだけだもん、両親から見放されて、徹のコトも信用できなくて、裕子のこともまっすぐ見れなくなってる。ただそれだけ。話をしてみれば、裕は心を開くはずだもん。だから、話をして。まずは、裕子が、そして、徹とも」

 そうね。と裕子は口もとだけで笑った。気が進まない、そう言われてる気がして僕はまた溜め息をはいた。

「ねぇ、裕子は裕のコト良く知ってるんでしょ? 頼むから、裕と話をしてよ。そうじゃないと、壊れるよ」

 僕は必死だった。口から出る言葉のひとつひとつを覚えてはおらず、訳の分からないまま口に出していた。どうしても、分かって欲しかった。裕子に裕の気持ちを。

「そんなのいわれても、あたしだって困る。裕はあたしを見ようとしてくれない。そんなんじゃ、いつまでたっても話なんかできないでしょう! あたしだって、本気で裕のコト心配してるのよ、ずっと一緒にいたんだんもん。当たり前でしょ? 急に、どうにかしろっていわれても、どうにもできないわよ」

 裕子の目から大粒の涙がボロボロ出て来た。それをみて、痛む心が音をたてる。僕は胸に手を当てて、カッターシャツを握りしめた。心が苦しくて、悲鳴をあげる。裕子の泣く顔をみることがこんなに苦しい、これが恋なんだと思わせる。

 裕子は両手で顔を隠して、声をあげて泣き出した。僕は突っ立てる事ばかりは嫌だったから、裕子の肩に触れた。顔は見られたくないだろうと思ったから、見ない様に何度も背中をさすった。

「ごめん、裕子のコトまで考えてなかったね。一緒に行くよ。裕が話してくれるように、僕も一緒に行くから。ね」

 泣き出す裕子の肩にふれながら、震える姿を愛しいとおもった。しばらくの間、僕にとって幸せな時間が流れた。


 その日の帰りだ、裕子を誘って裕が暮らしているバーまで行った。裕と裕子はそっくりさんだから、バーに入るとマスターは驚声をあげた。そして、マスターの隣にいる裕と裕子を何度も交互に見た。その姿がおかしくて、僕は声をあげて笑ったけど、裕は僕の姿は映らず、裕子を見ていた。

 驚き、いらだち、寂しさ。いろんなものがそこにはあった。瞳から映る裕子も、同じようなものを輝かしていたかもしれない。

 マスターはただならぬ雰囲気の二人から少しずつ距離をとっていった。裕の友人たちも、野次根性で見に来ていたけど、一歩ずつ後ずさって行った。僕も今にも逃げ出したかった。



うーん、一番短い話になったかも。

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