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16、裕の行方

 カズトは驚いた。そこまで驚かなくてもいいんじゃないの、ってぐらい。ある程度の反応は期待してたけど、それ以上だった。

「えぇ、マジで言っちゃったの! うっわぁ、どうだったんだよ? 反応は・・・」

「泣かれました。でも、すっきりしたよ」

「すっきり? そりゃそうか、あれは重荷だもんな」

 重荷か、その言葉は合うかも。でも、そんなことばで片付けられる感情ではない。

「でも・・・」

 僕の心にはポッカリ穴があいてしまった。頬に触れると、その穴を強く感じるけど、もう一つ別の強い気持ちを感じれる。僕はその温かいものを胸の奥の方で大切に守っている。その殻を破る日はまだだけど、僕はただその存在を強く感じてしまった。

「でも。なに?」

 カズトの声に反応して僕は飛んでしまいそうになった。胸を撫で下ろしながら僕は、なんでもない。とだけ言った。

 人に言えるほどの度胸はない。いまはまだ。


 一週間は早かった、あっという間に通り過ぎて僕は、まだ裕とは話をしていない。それも、7月にはいってから一度も裕が学校にこないのが原因だけど、しょうがない。僕が折れるか、裕が折れるかしなければ、ずっとこのままなんだから。

 ケンちゃんが言うに、裕にはその気はないそうだ。それどころか、心にできていた穴が広がって、そうとう荒んで来ているらしい。別に僕のせいだって事はないと言うけど、僕と喧嘩してから荒れているとなれば僕は関わっていないと言いきれるもんじゃないと思う。やっぱり、僕から裕に話しかけるべきかな。そうなると話題が必要となる、それは、それとなくあるんだけど、恥ずかしいな。

「悩まず、進め! 言ってしまえばいいんだ、あいつはそれを待ってるから」

 ケンちゃんは直進形かな。そう思いながら僕は頷いた。

 

 裕がいる所は知ってる。前に謝りに行ったときに行った喫茶店だろう。そのときに僕は裕の抱えているものが、大きなものだって気づき初めていた。僕が踏み込めるようなでかさじゃないって事を、気づかされたのは喧嘩したとき。それで、今は僕には何の力にもなれない事に気づかされてしまった。

 ケンちゃんが言った事を信じるのなら、僕は裕を待ってみてもいいのかもしれない。けど、それほどに僕に価値があるように思えない。僕は、裕と同じように抱えてるものがある。それを思うとよけいにそう思ってしまう。

 一人でいろいろと考え込んでいるうちに僕は裕のいる、喫茶店へと来ていた。

 喫茶店の中に入ると、前のときとは違って若い女の人が僕を席の方に案内した。素早く、テキパキとした対応に僕は裕の事を言えないまま座った。しばらく、店の中を見回して、窓の外を見た。以前のときとは席は別の場所で、入口近い場所だった。客は数人。店は小さいので、多いようにも見える。

「ご注文の方はお決まりでしょうか?」

 また若い人が現れた。僕は慌てず言った。

「裕は、いますか?」

「裕? あぁ、畑山くんね。あの子ならやめたわよ」

 女性はあっさりとそう言った。僕は口を開けたまま目を見ひらいた。

「えっ、いつ?」

「三日前よ。今はどこにいるのかわからないけどね」

 僕は口を開けたまま立ち上がり、店を出た。裕がここにいない以上、ここに用はない。女の人が何かを僕に言ったけど、耳には入ってこなかった。

 裕は、裕はどうしたんだろう。そればかりが僕の頭を埋める。

 考えているばかりじゃ、どうしようもない事は分かってる。僕は行動しなければならない、まずすることは裕を探す事。裕がいきそうな場所は知らないけど、それを知ってる人の集まる場所は知ってる。

 

「おお、水戸っちじゃないか」

 すぐに気がついたマスターに片手であいさつしてから、僕は席に座った。

 座ってすぐに僕の回りに何人かが集まってくる。僕に声をかける彼等を覚えていることに感謝しながら、僕もあいさつをした。

「一人でくるなんて、なんか嬉しいなぁ」

 マスターが言うと、他も一緒になって頷いた。僕は赤くなりながら、頭の後ろの方をかいた。

「裕を探してるんだけど・・・しらないかな?」

「裕? 裕なら来てるよ。ていうか、ここで働いてるし」

 マスターはまた僕に水をだした。

「働いてる? 住んでる所とか知ってるの?」

「ここ、ここ。マスターんとこに住んでる。オレ等もよく遊びいくし」

「いつから?」

「五日前ぐらいだっけ」

 マスターに聞くように一人が言った。

「そうだよ、なんか急に来たんだ。酔っぱらってたし、何か恐かった」

「様子が変って事? えっと、じゃぁ、僕とのことは聞いた?」

 マスターはしばらく考えてから言った。僕を指差しながら、微妙に笑っている。

「聞いたよ、めちゃ笑った。お前等ばかだよなぁ。そんな事ぐらいで喧嘩するなんて。あーうけた」

「それオレ等も笑った」

 いや、笑うとこじゃないし。僕は結構悩んでたりとか、怒ったりとかもして、しんどかったりもしたのに、笑われるって、つらいかも。ギスギスする心を抑えながら、僕も一緒に笑った。

「裕には、会えるかな?」

「どうだろ、裕は今たぶんあそこにいる」

 あそこ?僕は首を傾げながら聞いてみるが、マスターも他も笑ってるだけだった。僕が膨れっ面になると、笑いが止まらないのか僕は結局、数分黙っているしかなかった。


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