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14、心が痛む

 僕と裕の席は、隣同士だった。だけど、いつの間にか僕と裕の席は離れていた。

 それに気づいたのは、試験が終わって、テスト返しが終わって、もう6月も半ばになっている頃だった。僕はあまりかわらず、窓際から二列目の前から二番目の席だった。裕は、廊下側で前から四番目ぐらいだ。僕とは、だいぶ離れてる。結局、僕と裕はあの喧嘩の日のとき以来話をしない。カズトや、けんちゃんや、薫は僕のところにきて話をする事があるけど、裕は僕の方を見ようとしないし、授業もよくサボる。

 裕のいない時に、ケンちゃんが僕に教えてくれた事がある。ケンちゃんとは実は上下の席なのだ。授業中やっぱりケンちゃんは寝ているが、たまに話をするときがある。

「オレ等は・・・中坊のときからずっと、なんか心に穴があいてんだよ。それを埋める為に、馬鹿やって、自分の気をはらして、すっきりして、でも本当は何にも変わんなくて。ずっと、どっかで泣いてた。オレは、彼女いるし、カズトも今好きな奴いるし、薫は音楽があるし・・・でも、裕って何もないんだよ。オレ達の中でも、裕って一番荒れてて、手がつけられない問題児のくせに、何も無くて、たぶん裕にとって水戸っちは少しだけ、穴を埋める存在だったかもしれない。オレ等は、気休めでしかないけど、水戸っちはもっと特別だと思う。だから、待ってやってよ。あいつのこと」

 僕はただ、頬を濡らすものの正体も知らずにうなずいた。


「水戸っち!」

 声の主は裕子だった。久々に見るその顔は、裕と同じものだと思うとなんだか胸がいたい。

 僕も裕子も、学校帰りだ。まだまだ、日は高く彼女も僕も、長そでのカッターシャツの袖をまくり上げて暑さをしのごうとしていた。彼女は、長い髪の毛を二つにくくっていつもと違って見えて、僕は変に胸を締め付けられた。

「なんだかひさしぶりね。かっちゃんから聞いたんだけど、裕と喧嘩したんだって?」

「うん、今回はなんか上手く謝れないんだ」

 そうなの?と彼女が聞いて、僕はそうなんだと答えた。しばらく僕はあまり見ようとしなかった外の景色に目をやった。人がいる、いろんな姿の人がいる。まだ明るいから、犬の散歩をしてる人もいる。子供が走り回るのを見ると、懐かしさを感じる。僕って、成長してるのかな?

 裕子は急に立ち止まって、ある方向を指差した。

「よってかない?」

 そこはいつものファーストフード店だった。


 僕らが中に入ってみると、いつものように多いのか席はほとんど、女の子やカップルや、男同士で座っている奴らばっかだった。知ってる奴がいるか、井上がいるか、そんなことを気にしていたが特にそういった人は見当たらなかった。

 僕はいつものようにドリンクを注文し、裕子も今日はドリンクだけを注文した。

「えっへっへ。ここの割引券友達からもらってたの」

 嬉しそうにその割引券を見せる裕子を見て、不思議な感じがした。そういえば、最近あの渡り廊下で彼女の姿を見る事がなかった。というのも、僕の席が窓から放れたというところにもあるのだが。

 友達ができたのか、友達はもとからいたのか、また別の友達か?そんなことを考えながら、僕は嬉しそうに笑う彼女と同じように、笑ってしまっていた。

「喧嘩って、殴り合ったんでしょ? 水戸っち、意外と短気?」

「短気? ・・・そうかな?」

 裕には負けるけど。という言葉は呑み込んだ。

「でも、大きな怪我とかしなくてよかったね。でも、なんで喧嘩になったの?」

 それを言うには、井上のことを言わなければならない。僕は黙ってしまった。

 彼女にそれを伝えるのをなぜか躊躇ってしまう。そんなつもりはないけど、言葉が出て来なかった。やっと言えた言葉も、僕はあまり覚えていない。でも、確かに僕は井上の事を言った。

 少しだけ驚いた顔の彼女が、すぐに僕の事を祝福していると分かると、僕は言葉に詰まりそうになった。心が、痛いって思った。

 話し終わると、僕は散歩帰りの犬みたいに注文したものを飲んだ。

「いいなぁ、告白」

 って、感想はそっちなのか。

「そんなのいっぱいあるんじゃないの?」

「あはっ。実は、あるんだけどー、今あたし恋しちゃってるからさ。水戸っちに告白した彼女がうらやましいのよ。あたしも、それを言えるぐらいの勇気があればいいのになって」

「えっ、こっい?」

 見事に裏返った僕の声を聞き流してるのか、照れくさそうに彼女は頷いた。

「水戸っちは、彼女に恋してないの?」

 その言葉は僕においうちをかけた。言葉がナイフだとはよく言ったもので、僕の胸にぐさぐさと裕子の言葉が刺さっていく気がした。どうしちゃたんだろう、僕はうまく言葉が出せないし、喉が締め付けられる気がした。胸はいつまでもナイフが刺さっている。

「あ、いや、断わろうと・・・思ってるんだ。でも、ふられるってことは傷つけるって事だから・・・ためらってたんだ。けど、今はちゃんと言ってしまおうと思ってる」

「ふーん、そっか。あたしも、断わった方がいいと思う。あたしも、ふられる時はふられたい」

 彼女は僕から視線をそらした。彼女もまた、想像してしまったんだろう。

 僕は、カズトの言葉を思い出して彼女も同じなんだと分かった。

「でも、あたしふられたら立ち直れないかも」

 だから、その言葉は僕においうちをかけているんだってば。



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