12、喧嘩によって気づくコト
僕はずいぶん、裕に甘えていた。なんだか裕に相談した事が、今までにない事だったから、優しく受け止めてくれた友人にすこし、心を開いていた。僕にとって、本当の意味での友人はいままでいなかったけど、裕はいままでの友人たちと違っていた。それはでも、裕に限った話じゃなくて、カズトも薫もケンちゃんも、僕には初めての事を与えてくれる不思議な存在だった。
それが、また僕を落ち込ませるものになるとは思ってもいなかった。力になりたい、そう思った自分もどうかしてるのかもしれない。
いつもの教室で、いつもより騒がしい声がしただろう。カズトは僕をケンちゃんと薫が裕を必死に押さえつけて、ぐちゃぐちゃになった机やイスはもう、ボクらの周りには存在しなかった。
怒りをあらわにする僕らは、何度も怒鳴って、おたがいをけなしてる。
もともと、僕のせいだったのか、僕の場合は裕があんまりにも井上の事をしつこく聞くのでむかついて、ついつい裕子や、徹って奴の事を口にしてた。それからもう、殴り掛かって来て、僕もそれに対応した。それですぐに僕らはとらえられたが、この通り。
「だから、いい加減うざいっての!もう、水戸っちと顔あわせたくない」
「裕はいっつもそれじゃない、僕はただ、ただ、話をしたいだけだよ!」
裕は必死にもがいた、僕に殴り掛かろうとしてるのか、もう何を言っても無駄だとそこから出ていこうとしてるのか。
僕はじっと裕を睨んだ。
「オレの事、そうやってかき回すの・・・やめろよ!言いたくない事なんか、人間いっぱいあるじゃねぇか!水戸っちだってあるだろ!」
裕のはもはや叫びみたいだった。身をよじらせて、僕に訴えてる。
そう、訴えられてる。僕は黙るしかなかった、井上のことだけじゃなくて、いろんなことが僕の脳裏に蘇る。これは遠い記憶だ。
「ほら、やっぱり。いい返せないって事は、自分だってなんかしょうい込んでるんだろ!」
そうだ、その通りだ。僕は僕で、抱えてるものがある。
僕が黙ってると、裕は二人をふりほどいて教室を出て行った。出る前に机を強くけった裕は、なんだか寂しそうだった。その裕の後を追って、ケンちゃんも薫も行った。また残された、僕とカズト。カズトは僕を自由にしてから、僕の正面にまわって僕を睨んできた。
怒ってる。でも、握りしめられたこぶしは痛そうだ。
「水戸っち。今回のはちょっと言いすぎ。裕には裕の事情があるって言ったじゃん。友達って、何でも知ってなきゃならないの?」
僕は首を振った。
「じゃあ、しつこくしないほうがいい。それに、本当に話がしたいときは、自分から言うよ。友達なんだから」
ゆっくり降り注ぐ雨みたいに言葉が、僕の心に注がれた。
気づかなかった、今まで僕は僕しか見えてなかった。僕は誰かの気持ちを考える事を、忘れていた。甘えてるんじゃなくて、もはやそれはただの自己中。自分の気持ちだけぶつけて、傷つけて、自分を正しく見ようとしてた。
馬鹿だ、大馬鹿者だ。
いつのまにか、僕は教室に独りだった。
一番短いです。
って、それだけです。