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10、突然の告白

 次に井上に会ったのは、あれから三日後の事だった。僕はいつも通り、ファーストフード店で試験勉強をしている所だった。正直なところ、彼女が僕の所に来る事はないだろうと、思っていた。

 小学校の時から中学まで、井上と話をしたのは数えるほどで、ほとんど会話というものをした事がなかった。だから、あの日もたまたま、声をかけてみただけというもので、僕にもう一度会おうとしていなかった気がした。

 なのに現れるから、僕は惑った。

「ここ、座ってもいい?」

 彼女はこの前に会った時よりも、化粧が濃くなってる気がした。そして鼻がかゆくなるような香水をつけていた。

「いいよ。なんか頼んだら?」

「ううん、何もいらない」

 そう。一言そういって僕は頼んだコーラを口に含んだ。

「前に言ってた事なんだけど・・・」

「相談ごとだっけ? 何かあった?」

 彼女はイスに座って、ルーズソックスを少しあげた。妙にその仕草にいろっぽさがあったのは、彼女が僕が覚えている記憶の中の彼女より、女らしくなったからだろう。

「えーっと、水戸くんって、どんな友達と仲いいの?」

 突然だ。彼女は相談したい事があるんじゃないのか?まぁ、いいけど。

「ヤンキーだよ。不良高校生男子四人組」

 彼女は表情を強張らせた。珍しい反応に僕は新鮮さを覚えた。だいたい、あの四人と仲のいい奴は同類ばかりで、たとえ僕があの四人といても特に驚きはしなかった。ただ一言、「それっぽくないよね」というだけだ。

 でも、彼女の場合僕がそんな人達といることに驚いてる。というか、ありえないと思っているのだろう。

「本当のことだよ。僕がいままでと何も変わってないから不思議なのかもしれないけど、僕は僕だから染まるつもりはないし、僕の友達もそれでも僕と一緒にいるから、それはそれでいいと思ってる。まぁ、僕もどうして一緒にいるのか考えることはあるけどね」

「そうよね・・・。水戸くんってはっきりしてるんだね」

 はっきりしてる?そうかな、僕はそんなにはっきりしてるわけじゃ無いけど、やっぱり嫌だと思うことはしたくない。ただ、それだけのはなし。

「あたし、昨日の子たちと合わないのよ。だけど、地味にはなりたくないし、かと言って派手になりたいわけじゃないの。だから、無理に合わせてる。それって、駄目なことだよね。もっと、しっかりしなきゃダメよね」

 彼女の口からでた言葉のひとつひとつに、後ろめたさが感じられた。そんなつもりじゃなかったのに、とか、私はそんなんじゃないのにとか。僕にはそれしか聞こえて来なかった。

「井上がそれでいいと思ってるなら、それでいいと思うよ。僕の中では、自分で考えた瞬間からそれは自分の考え。あたりまえのことだけど、井上がその子たちといたいと思ったのは、自分の考えでしょ? それって合わせてるんじゃなくて、自分からしようとしてることじゃない? 僕はそう思うけど。まぁ、僕の持論って当てにならないけど」

 彼女は少しだけ考えた。その時間、僕はもう一度コーラを飲んだ。少し長く話すだけで喉が渇くもんだと、初めて知った。なんだか、喉がすっきりする。

 彼女は急に首を縦に振って、うん、そうだよね。と納得していた。

「そうよ、そうなのよね。水戸くんの言う事が正いわ。ありがとう、なんだかすっとした」

 ならよかった。僕はそう言った。

「でも、あの子たちとこれからずっとつき合っていけるのか、分からない。水戸くんは不安にならない? 自分の正い道に進んで、ハブにされたらどうしようって」

 彼女は真剣だった。僕はここまで真剣な目をして相談をされたことがなかったから、やっぱりと惑う。僕の考えだけをぶつけていいものなのか、困ってしまう。でもそれを出来るだけ顔に出さない様に、僕は慎重に言葉を選んだ。

「それは、いつも感じてる。でもね、今はまだまだ出会ったばかりだし、知りあっていけるのはこれからでしょ? もし、これから先もずっとそんなことを考えていたら、それは友達じゃないと思う。まだ、始まったばかりだし焦らなくていいよ。そうじゃない?」

「それはそうね、まだまだわかんないわよね」

 僕は強く頷いた。

 彼女は大きく溜め息をついて、今までに見たことのない微笑みをみせた。緊張がほぐれてほっとしたと言ってるように見える。

「ありがと。それと、ごめんね」

「なにが?」

 彼女に謝られるような事は何もないはずだけど。

「試験前なのに無理言って聞いてもらって」

 あぁ、そういうことか。僕は少しだけ笑うと、いいえと返事をした。

 僕が彼女の次の言葉を待つ為に教科書を開きはじめると、彼女はしばらく携帯をいじっていた。しばらくの沈黙。僕はたいして気にならなかったけど、彼女は携帯にかじりついて僕の様子を探っているように見えた。

 そして時々、僕に何かを話しかけようとするのに、結局口をつぐんでしまっていた。

「・・・井上」

 彼女はイスから飛び上がりそうなほど、僕の声に反応した。

「な、なに? もしかして、邪魔?」

「いや、別にいてくれるのはいいけど。僕帰るんだけど? 井上はどうするの?」

「わ、私も帰る」

 彼女は立ち上がった瞬間に、どこかのコントみたいに転んでしまうのではと心配になるほど、慌てて立った。僕は机の上の教材を鞄にしまいながら、彼女のあわってぷりを見て笑っていた。彼女は気づいていなかったけど。

 一緒に店を出たあと、僕は寒いねとか、どうでもいい事を彼女に話していた。彼女はうつむきながら、僕の後ろをあるいていた。並んで歩けばいいのにと、思いながら僕はちらちら彼女の方を見た。

 外はすでに夕焼け空が広がっていた。だんだん暗くなるのが遅くなっていることが、夏を予感させていた。

 僕がまた彼女の方を見ると、少し後ろの所で彼女は立ち止まっていた。

「どうしたの?」

 僕が近寄って、声をかけると彼女は両手を頬に当てて僕の方を見上げた。真っ赤になった顔のまま、潤んだ瞳がすこしカワイかった。急になんだか化粧も似合うんじゃないかな?なんて思っていたりした。彼女が大きく溜め息をつくと、ゆっくり頬に当てた手を下ろした。

「水戸くんって、鈍感」

「は?」

 僕は間抜けな顔をしていたと思う。彼女の頬が少しづつふくらんで、そして笑った。

「いいかげん、気づいてよ。私、これでも四年も恋してるんだけど」

 僕は頭を傾けた。何をいってるんだ?僕はそう示したつもり。

「何よその顔。まだ、わかんないの?」

 僕は更に頭を傾けた。彼女はもう一度頬を膨らまし、真っ赤にした顔で僕に言った。


「水戸くんが好きです」




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