1、ヤンキー四人衆
その受験は最悪だった。
どう最悪かというと、僕は高熱を出していたにも関わらず、地元高校一本だけを受けてしまった為に、インフルエンザとも知らずその受験に挑んだのだ。終わった頃には、自分によくやったといい聞かせていたのを覚えている。熱のおかげで暖房のきかない教室ではなく、暖かいスト−ブの近くで試験を受けれたコトは他よりラッキーではあったと思う。
結果は見事に合格。とはいっても、一般だから普通にやりゃ落ちる方が珍しい気もするが。とにかく、その瞬間から僕は高校生になったわけだ。
そして春、暖かな風のふく季節。僕の側にもその風はきていた。
憧れていた、というか早く楽になりたいがために、入学式の風景を何度もえがいたことがあった。入学式は中学校の時と似ていて、特に校長の話の長さはいい勝負だと思う。周りの奴の反応も似ているし、先生の顔も年齢層も似たようなもんだ。ただ、生徒数が倍になったぐらいだろうか。もうひとつ、髪の色もカラフルだ。服装もばらつきあるし。
ふと自分のクラスメイトを見た。
根暗そうな奴もいれば、中学の時から知ってる奴もいる。僕が苦手とするだろう、派手な奴らだっているし、服装をピシッと決めてる奴もいる。女の子も同じようなもんだ、派手な奴も、暗い奴も、男子と同じ数だけ同じようにいる。僕はいったいどのグループに組み分けされるコトになるんだろう。できれば、どちらにもはいりたくない。
教壇の下に生徒指導の先生がマイクを片手に学校における注意事項を述べていた。ざわつく体育館の中でどれだけの人間がその声を真剣に聞いてるのだろう。まっすぐに前を見ている生徒も、ほとんど耳から耳へと聞き流していると思う。僕がそうだから自信持ってそうだといえる。他の奴はしゃべってるか、携帯電話をいじるか、器用な奴は立ったまま寝ているし、見ているこっちが笑ってしまいそうなことをしてる奴もいる。
「ははっ・・・」
堪えきれず、ざわめきの中に僕の笑い声が混じった。すぐに恥ずかしくなって口もとを押さえて咳をしたふりをしながら周りの様子をうかがう。だが、誰も僕に気を止めることはなかった。当たり前だ。僕は何者でもなく、ただの一生徒であって、ここにいる誰とも変わらない存在だからだ。特に目立つわけでもなく、特に僕だけが出来るものがあるわけでもなく、平凡で何にも面白くないやつだ。
そう思うとさっきまで笑っていたことが恥ずかしいと思う自分の方がおかしく思えた。
そう、僕は何者でもない。誰の目にとまることなく、ただ時間に流されていきていくだけの人間。
ポンと軽く肩を叩く音が聞こえた。振り向くとやたら嬉しそうにニタニタ笑う顔があった。男子である事は一目瞭然だが、茶色の髪に両耳合わせて5個はあいてるピアスが僕の心を凍らせた。イジメか?いきまり目を付けられるなんてついていない。先生の話はつづいているのに、そいつは話を聞く気のない側の人間なのか、僕の方をつかんでこっち来いよとジェスチャーした。
「まだ話続いてるけど?」
僕はリンチがイヤで抵抗したが怯む様子はない。
「そんなの誰も聞いてないだろ?もっち、お前も」
僕は前を向いて、先生に注意されるのがいやだったから誰とも話さない気でいた。そりゃ、話は全く耳にはいってなかってけど、人に言われるとなんかなぁ。
「こっち来いよ。そんなとこ突っ立てるより楽しいぞ」
それは君たちだけね。リンチがそんなにしたいなら、こんな公衆の面前じゃなくてもいいのに。強引に腕を引っ張られ、非力な僕はそのまま彼の立っている場所まで連れ去られた。
彼が立っていた場所はずいぶん後ろの方で、そこには立っている女子生徒数名の陰に隠れるように三人の男子生徒がヤンキー座りをしてガン垂れていた。僕はリンチされるのは初めだし、ここは助けを呼んだ方がいいのかとかいろんなことを考えたが、とりあえず黙っていると、茶色の髪のやつが僕の背を押して三人の中央に立たせた。
すると、反射的なのか座っていたはずの三人が立ち上がり、僕の顔をじろじろ見始めた。その頃には僕の心はずいぶん落ちついて、来るならこいとか思っていたが、同時に痛いのはやだなぁと、呑気な事も考えていた。
「なぁお前、名前なんて言うんだ?」
三人のうちの一人、金髪野郎が急に聞いた。僕は声がうわずらない様に気をつけながら。
「水戸敦だけど」
「水戸? 水戸って水戸黄門と同じ水戸?」
今度は僕の後ろにいる茶髪が言った。変に驚いててなんか変な感じ。
「そうだけど」
「へぇ、おもろい名字。水戸っちどこ中?」
み、みとっち?なんだそれ、女の子じゃないんだから変なあだ名はつけないでほしい。が、そんなこと口から出せない。だって、狐みたいな目で頭はげてて一番目つき悪い奴だし。
「東中だけど」
「あ、まじでぇ! オレその隣町の南中の畑山裕でーす。裕って呼べよ」
テンション高いなぁと思いつつ、引きつった笑顔をその茶髪に向けた。
「オレ同じ南中の盛岡健司、ケンちゃんでいいよ。オレは水戸っちってよぶからさ」
狐目は更に目を細めて、すでに目玉が見えない状態で笑っていた。僕は気のない返事だけを返して少し笑った。
「はいはい! オレはぁ、天山カズトでっす。好きに呼んでくれていいからね。ま、オレは水戸っちって呼ぶけどさ」
といって金髪野郎は手を差し出してきた。金出せってコトかと一瞬思ったが、こんなに笑顔でいるのにそんなコトいわれるわけないか。と、手を差し出して握手した。僕はともかく、金髪野郎の手にはめられた指輪がいたい。
「最後はオレかぁ、オレは美山薫。女っぽい名前だけど、オレは気に入ってるからそこんとこよろしく」
はははっと笑うと同じように長身男は笑った。髪は黒いのにピアスの数が半端ない。軟骨の所まであいていて痛そうだ。
ようやく気がついたが、僕はリンチされる為に連れて来られたようではなかった。ではなんで僕を?
「一番、あん中で目立つぐらい背ちっこいからさ、目についたというか。しかも、やたら顔キレイじゃん。珍しい奴もいるもんだなぁって話してたら、声聞きたくなったし。ま、これも何かの縁だろ。クラスも一緒だし仲良くしてくれよ、みとっち」
茶髪がいうと、周りから背中を強く叩かれた。それにしても、僕の顔がキレイってなんだよ、自分たちはどこかのテレビに出てくるアイドルみたいに女受けのいい顔してるくせに。と、いう言葉はのどの奥の方にとどめておいた。
やたらテンションが高くて、僕とは違う場所にいる四人が僕を呼んだことがなんだか気が抜ける程おかしなコトに思えて、ついに今まで堪えてきた笑いと一緒に吐き出してしまった。いきなり笑った僕に、たぶん引いたにちがいなかったけど、いつの間にか大爆笑になっていた。
僕の高校生活第一日目は、こんな大変なやつらと友情を育む所から始まった。
もうひとつ作品を書いているのですが、いましばらくはこっちの方を進めていくつもりです。
もちろん、書ける限り両方進めていこうと思っていますが、どうぞ最後まで呼んでください。