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ブックシェルフ

ボクと猫。



「…猫、いい加減無駄な努力は止めたら?猫には、それ向いてないと思うよ」

「そんな事ないよ。だって猫天才だもん」

「…残念な天才、だよね」

「別に残念じゃないし」


猫はぷくりと頬を膨らませる。猫は確かに天才だ。でも、"何でもできる"天才じゃなくて、ある一定方向につきぬけているタイプの天才だから、その一定方向じゃないものは普通の人よりダメダメだ。例えば、今彼女が描いている…何だろう、箒?も幼稚園児の方がもっと上手く描けるだろう、というレベルで怪物染みている。…いや、もしかしたらそういう才能という可能性もあるかもしれないが。


「…ていうかさ、本当、何を描いてるの、それ。箒の怪物?」

「キリンさんだよ。ジラフじゃなくて、中国から渡ってきた方の」

「…何だっけ、黄色い一角獣だっけ。聖獣で、ビールのパッケージとかにもいる」

「うん。それ」


自分の力量をきちんと考えてほしいものである。


「麒麟はね、仁愛の聖獣で――」


猫の蘊蓄を適当に聞き流す。大きな目を瞬かせて、楽しそうに語る猫。

彼女は面倒くさい(興味がない)から、と必要最低限しか身なりに気を使わないが、ちゃんとおしゃれに気を使えば美少女なんじゃないか、と僕は思っている。何しろ、彼女と似た顔をしている年子の妹は、普通の美少女である。普通の、そこそこ頭がよくて、活発で人懐こくて愛嬌のある美少女である。ちなみに、猫とはそれなりに仲がいいらしい。ボクはあまり交流がないからよくは知らない。

閑話休題。

小さな桜色の唇、長いまつ毛、細い指、白い肌…其々のパーツ自体は整っているのだが、猫はいつも適当に括っただけの髪型だの、子供っぽいTシャツにズボンだの、美少女に相応しくない身なりをしているので、美少女とはみなされない。まあ、彼女自身も自分を美少女だとは思っていないし、美少女になりたいとも思っていないみたいだが。


「…ねえ、聞いてる?」

「聞いてない」

「もう!」


猫はまた頬を膨らませる。ボクはそれを適当に宥めて、視線を時計に移す。もうすぐ放課の終わる時間だ。確か、次は古文の授業だったはずだ。古文の担当の義家先生は時間に厳しいから、さっさと教室に戻らなきゃいけない。

ボクは立ちあがって猫に呼び掛ける。


「猫、授業始まっちゃうよ」

「ふーん。がんばってね」

「猫も来るんだよ」

「やだ、行かない」


猫はぷい、とそっぽを向いた。子供っぽい、拗ねた態度。


「授業、ついていけなくなっちゃうよ」

「天才だから平気だもん」

「猫…」


ボクがため息をつくと、猫はこちらをちらりと見て罪悪感を感じた様な顔をしたが、すぐまたそっぽを向いた。猫を教室まで引っ張っていく事も出来るが、それをしても意味がない事はわかっている。彼女が自分の足で教室に来なければダメなのだ。

猫は、所謂不登校児の亜種の、保健室登校児である。


「クラスが変わったんだから、猫の悪口を言う奴は教室にはいないよ」


猫は答えない。ただ、そっぽを向いている。ボクはまた時計を見る。そろそろ行かないと、遅刻する。


「教室へ行こう、猫」

「…やだ」


今回も失敗らしい、とボクは次の授業に猫を連れていく事を諦める。


「…じゃあ、また次の放課に来るから」


ボクは保健室の扉へ向かって歩きだす。ちらりと猫を見ると、心なしか、寂しそうな顔でボクを見ている。そんな顔をするなら、猫も教室へ来て、授業を受ければいいのに。

ボクは猫と違って平均的な頭脳しか持っていないので、ちゃんと授業を受けないと勉強ができなくてテストで赤点を取りかねない。教科書さえ読めば8割取れる猫とは違うのだ。


「…天才って不公平だ」


ボクは保健室の扉を閉めてぽつりと呟いた。



設定はブックシェルフの同名の奴を参照。

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