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お:おばけ ②

というわけで、二話完結です。

 

「あなた、だれ?」


 とりあえず、相手の正体を見極めよう、と声をかけてみる。

「オルガ・フェウスだけど?」

 どうやら、人間らしい。

 お父さんよりも背が高くて、全身真っ黒で髪の毛ぼさぼさでほとんど顔が見えないけれど、生身の人間だと分かって、少しほっとする。


「どうしてここで寝てるの?」

 ここは空き家のはずなのに。不法侵入だろうか? それともフィーリたちと同じように肝試しをしているとか。

 ……大人なのに?

「引っ越してきたばかりで疲れてたからだけど?」

 それがどうしたの? といわんばかりの言葉を受けて、周りを良く見回せば、色々詰め手あるらしい箱がいくつも並んでいる。

 フィーリは内心、この肝試しを企画した隣の家の男の子を罵りまくった。


 廃屋どころか、普通の人がお引越ししてきてるじゃないか!


 それにフィーリたちの前のペアも、人が寝ているのを分かっていながら、その部屋の中にボールを投げておくなんて、ルール違反もいいところだ。せめて人がいたことくらいは報告するべきだろう。


 怒られる。

 これは怒られる。

 下手したら、親に報告されて、二重三重に怒られてしまうコースだ。何の肝試しだ。これはもう肝試しというか、私に仕掛けられた巧妙なトラップとしか考えられない。

 

 思わず遠い目をしたフィーリを見て、なにを思ったのか、オルガ・フェウスはああ、と小さくつぶやいた。

「そういえば、前に住んでいた人がこの家お化けが出るとか言っていたっけ。きみ、もしかしてお化けさん?」

 そんなわけないだろう、とか、お化けをさん付けで呼ぶ意味がわからない、とか、今現在私を持ち上げているその腕にかかる負担は間違いなく生身でしょう、とか、色々言いたいことはあったけど、大人たちから怒られずにすませるには、ここはお化けになっていたほうがよさそうだ、ととっさに考えたフィーリは大きくうなづいて見せた。


「ああ、なるほどね。だからか」

 なにがどう“なるほど”で“だからか”なのかは全然分からなかったけど、どうやらそれで納得してくれているようなので、そのままお化けで通すことに決めた。


 今から私はお化けだ。

 そうえば、お化けって、なにを話すんだろう?

「えっと、ようこそ、この家に?」

 この場合、この人が越してきたばかりだから、お化けのほうが先に住んでるんだよね?

 だから、新しく来た人にはようこそ、でいいはず、だよね?


 どきどきしながら言うと、髪の毛で隠れた目を大きく開いていた。


 あ、失敗したかも知れない。

 ようこそじゃなくて、これから一緒に住むことになるわけだから。

「これからよろしくね? オルガ?」

 思わず名前まで疑問系になってしまったけど、これなら問題ないはず! とえへっ、と愛想笑いをつけてみると、真っ黒けの相手はどこか呆けたようにフィーリを見つめていた。


 しばらく愛想笑いと呆けた顔が対決していたけど、先に表情を変えたのはオルガのほうだった。


「よろしく、お化けさん」

 それはそれは、うれしそうな笑顔で。こっちまでうれしくなってくるようなその笑顔にフィーリはこの人とお友達になりたいな、と思った。

「お化けさんの名前は?」

 だから、名前を聞かれたとき、本当に困った。


 今のフィーリはお化けだから、フィーリの名前を教えてあげられない。小さなこの街に、フィーリという名前はフィーリしかいないから、すぐにばれてしまうかもしれない。この人はお化けとお友達になれたと思って、喜んでいるのだから、いまさら生身の人間です、とはいえない。

 ちくり、とフィーリの小さな心の良心が痛んだけど、このままお化けで通すことにした。

「内緒」

 お化けなんだから、内緒の一つや二つくらいあったほうが不思議な感じがしていいだろう。そう思って答えたんだけど、オルガはそうは思わなかったらしい。


 不機嫌そうな顔になって、ずるい、といった。

「私は名乗ったのに。真実の名を君に教えたのに、君は名前を教えてくれないのか?」


 言われてみれば、オルガは苗字まで全部教えてきた。それなのに相手の名前を内緒にされるのは嫌かもしれない。

 でも、今フィーリはお化けなわけで。困った。どう答えればいいだろう?

 それに、そろそろいつまでも戻ってこないフィーリたちのことを心配して、次のペアが来てしまうかも知れない。そうなったら、お化けじゃなくて近所のいわゆる悪がきどもだって一発でばれちゃうに違いない。そうしたら、オルガはお化けのお友達がいなくなってがっかりしてしまうだろう。せっかく、お友達になれたのに。

 それは嫌。

「離して、おろして、オルガ」

 あわてて、腕を叩いて降ろしてもらおうとすると、オルガは不思議そうな顔になる。

「君の名前は?」

 それを聞くまで離さない、という意思を感じて、フィーリは心底困った。


 本当にすぐ近くまで次のペアが来ているかも知れない。彼らがここまで来てしまったら、終わりだ。

 なにが終わりなのか良く分からないけど、そんな気がして、フィーリはどうやって地面に降ろさせようか、焦った頭では考えがまとまらず、とりあえず手を伸ばしてオルガの頭を撫でてみた。

 ふかふかで柔らかな髪は撫で心地もとても良かった。

「オルガ、いい子だから降ろして、ね?」

 よしよし、と近所の子供をなだめる気持ちで撫でていると、どこかギクシャクとした動きで床に降ろしてもらえた。

 なにに驚いているのか、呆然とした表情のオルガがなんとなくかわいそうになって、フィーリは力ないオルガの手からボールを取って、代わりにフィーリの髪留めを外してオルガに渡した。

 

「これ、私のお気に入りなの。オルガに貸してあげる。次にあったら、ちゃんと返してね」

 じゃあね、またね、と手を振ってそのまま外へ駆け出した。


 一瞬で消えるとか、ものすごく速く走れるとかそういう特技があったら、もっとお化けらしく見えたかも。それに、次に会うときは、夜に来なくちゃお化けっぽくないかもしれない。

 そうしていつか、本当はお化けじゃなくてフィーリだよって言えたらいいな。

 


 フィーリはオルガにまた会うのがとても楽しみになっていた。

 


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