へ:変人奇人超人どもに囲まれて
人には、限界ってものが存在する。
それは物理的なものであったり、精神的なものであったりと様々だと思うけど、どんなことであれ、普通に限界がある。
その限界を、いろんな意味で突破しちゃっている連中が、何故か私の周りには多い。
「ゆあっち~、みてみて、面白いもん作ってみた」
「・・・繁殖させないでね、頼むから」
「えー、かわいいのにー」
どうみても中華式の龍にしか見えない生き物を嬉しそうに腕に巻きつけたこいつも、その一人。ちゃんと注意しておかないと、部屋中をなんか不思議な生き物たちでいっぱいにされてしまう。
さらにその後ろから、中性的な美人さんが優雅に小瓶を振っているけど、奴も軽々と限界を突破する。
「あー、ユアちゃーん。頼まれてた例の薬、作っておいたからぁ」
「・・・さすがです」
「ふふふっ、当然でしょ」
マジか、マジでか。冗談で言った性転換薬、マジで作ったのか。
とは、言わずに出来た薬を受け取っておく。
今度背が伸びる薬、頼んじゃおうかな、と考えていると、一階の窓から老人が手を振っている。老人だけど、この人も限界? 何それ? を地で行く人だ。
「おお、ゆぅちゃん、後でちょっとワシの部屋の片付け、手伝ってくれんかな?」
「・・・今度はなんですか?」
「いやいや、この前開けた扉から、ちーとばかり厄介なのが出てきてな。叩き返したんだが、散らかってしもうてなぁ」
どこに何の扉を開けたんだ、とか、何を呼び出したんだ、とか突っ込んじゃいけない。ここはスルーするのが正解だ。
外の掃き掃除が終わったら、手伝うことを約束して外に出ようとすると、ちょうど階段からひとり降りてきた。
「ユアさん、これから少し出て来ます」
「・・・毎度のことですが、スーツ、脱いで行った方がいいですよ」
「ああっ! つい、うっかり」
ちょっと疲れたサラリーマン風だが、実は超マッチョなこの人に至っては。
「すぐに戻ります。では」
「・・・いってらっしゃい、気をつけて」
スーツの上着を預けて玄関から出るなり、とん、と軽く地面を蹴って空高く舞い上がる。って、これ、人間に使う表現じゃないだろう。
げんなりしつつも視線を感じて振り向くと柱の陰からじっとりこちらを見つめる変質者。直射日光バリバリ当たってるが、暑くないのだろうか。
「・・・あー。暑いなぁ。暑いから水飲みたいなぁ」
わざと大きな声で言えば、柱の影から変質者の姿がさっと消えて、何時の間にか目の前にペットボトルが。
相変わらず、どうやってるのか、全く見えなかったぞ、と思いつつ口を付けないように一口飲んで手に持っていた麦わら帽子と一緒に地面に置いておく。
箒を取りに家に入ろうと背を向けた瞬間、風がふいて首だけ振り向くと、柱の陰で麦わら帽子を被ってペットボトルの水を飲む変質者。やっぱり暑かったのか。
他にも色々と多種多様な変人奇人が集うこの不思議なアパートで唯一の凡人である私は、今日も変わらず、庭掃除に精を出すのだった。
・・・まぁ、時には変人住人をフォローしたり、うっかり超人の尻ぬぐいをしたり、変質者のくせに巻き込まれ体質な人を拾ったりもするけど。
・・・それもまた、平凡な私の日常だ。