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ふ:ブラウニー

 

 ある小さな家に、ブラウニーという種族の妖精が住み着いた。

 ブラウニーは人の腰ほどの背丈で、その家の主人に非常に忠実に仕えてくれる家に宿る働き者の妖精だった。

 

 そのブラウニーは本当によく家のことを手伝ってくれる。あるとき家の女主人であるミールはブラウニーに話かけてみた。

「あなたに何かお礼がしたいのだけど、どうすればいいかしら」

 と、尋ねると、ブラウニーは鼻に皺を寄せて、

「礼が欲しくてやっているわけじゃありません」

 と返事をした。

 ミールは少し考えて、

「あなたにお礼をしたり、何かを贈ることはとても失礼なことなのかしら?」

 と尋ねてみた。

「その通りです」

 不機嫌そうにそっぽを向きながら、言葉は丁寧に返してくるブラウニーをみて、彼らには彼らの文化と誇りがあるのだな、と考えたミールはさらに質問を重ねてみた。

「あなたの名前を尋ねたり、あなたの名前を呼んだりするのも、失礼かしら?」

「いいえ」

「では、あなたに言葉でありがとうとか、ご苦労様、と労うことは失礼なことかしら?」

「いいえ」

 そこで、ミールはブラウニーの名前を尋ねると、ソル、と答えた。

「ソル、私はミールよ。いつも手伝ってくれて、ありがとう」

 心を込めてお礼を言うと、ソルはチョコン、とお辞儀をして見せた。


 ブラウニーと人間のちょっと変わった共同生活が始まった。

 ソルが掃除をしている間、ミールは畑仕事に精を出し、ソルが洗濯をしている間、ミールが料理を二人分作る。

 ミールはソルに一緒に食べるようにお願いして、最初は渋っていたソルだったが、ミールが一生懸命お願いすると、二人で食事を取るようになった。

 そのうちに、ソルの昔なじみだというカパというブラウニーが住み着くようになり、カパの友人のヤパとアンも住み着くようになった。

 5人で食卓を囲むことは、ミールにとって、とても楽しいひと時だった。

「私があなたたちに丁度いい椅子を作って欲しいと、あなたたちにお願いするのは失礼なことかしら?」

 と、尋ねると、4人のブラウニーはこそこそと相談すると、

「いいえ」

 とソルが代表として答えた。

 そこでミールは4人にぴったりな椅子を作ってもらって、食卓で使うようにお願いした。

 次第にミールの元に住み着くブラウニーの数がどんどん増えて、ミールは家を大きく改築してブラウニーたちが住みやすい離れをいくつも作り、ソルを指揮者として分業させることにした。

 というのも、ブラウニーにとって仕事がないことほど屈辱なことはなく、何がしかの仕事を女主人であるミールから命じられなければ、逆恨みをするものが出てくる、とソルに忠告されたからだった。

 畑を耕すもの、糸を染めるもの、布を織るもの、家具を作るもの、絵を描くもの、ブラウニー同士の子供を預かる保育園も作った。

 ミールの家はいつしか、数百人のブラウニーが暮らす、ブラウニー屋敷になっていた。

 ブラウニー同士で物々交換をしたり、物を作りあったりしながら、ミールのための服を作ったり、世話をしたりする。

 ミールはブラウニー達に好かれ、楽しみながら生活していった。


 その一方で、森の外れで暮らしていたミールは、近隣の村人からはブラウニーを操る魔女だと噂されていた。ミールは気にしないようにしていたが、周囲はやっかみ半分でミールを貶めようとしていた。

 ブラウニーたちが住み着くようになってから、ミールの家は豊かになっていたし、ミール自身も輝くように美しくなっていることに、村人たちは羨ましくて仕方がなかった。

 ミールはいろいろな人から、ブラウニーを譲って欲しいといわれたが、 ブラウニーたちはミールのものではない、と断ると、ミールを強欲と攻め立てた。

 近隣の村の中で一番の欲深な男が、ブラウニーを譲るようにしつこく言って来た。

「彼らは私の持ち物ではありません。彼らは好意で私を手伝ってくれているのです」

 毅然として断ると、あろうことか男はミールの家に火をかけた。

 ブラウニーたちは突然の炎にパニックを起こして逃げ惑う。

「落ち着いて!」

 ミールはそんなブラウニー達を落ち着かせて、かねてから練習していたように皆で協力して避難、消火に当たらせた。ミールも避難しようとしたとき、逃げ遅れた子供のブラウニーを見つけ、とっさに駆け寄って抱き上げ、焼け落ちる寸前にソルとカパ、ヤパ、アンに助け出された。

 ミールは全身に火傷を負い、煤と水で汚れながら、ただ一言、「みんな、無事?」とだけ尋ねた。

 ブラウニーたちは泣きそうになりながら頷くと、ミールは微笑んで「良かった」とつぶやいて意識を失った。

 ソルの指揮の下、消化するとミールの家もブラウニーたちの離れも半焼してしまっていた。原因を調べていると、ミールに助け出された子供のブラウニー、ピヒが「変な黒いものをみた、それがつぼを投げて割り、赤いものを投げてきた」といった。ブラウニーには特別な力が備わっているが、成人前の子供のブラウニーにはそれがない。だからミールは身体を張って、ピヒを守った。調べていくうちに欲張りな男がやったということが証明され、ブラウニーたちは怒った。

「奴は我々のご主人様を傷つけた!奴の手に呪いを!」

「奴はご主人様の家を焼いた!奴の足に呪いを!」

「奴は我々の住処を焼いた!奴の身体に呪いを!」

「呪いを!呪いを!」

 それから強欲な男の手は主人の命令を無視して動き、足は動くことを拒否し、体は像よりも大きく重たくなった。

 何日かの眠りについていたミールは、ブラウニーたちの治療と看病によって程なく全快した。数百人のブラウニーたちは協力して一日のうちに家を建て直し、家具をそろえ、元通りの生活を始めていた。ミールは怖い夢を見てしまったのだと思い込み、ブラウニーたちもそれを訂正しない。

 このときからミールを傷つけるものはブラウニーたちの呪いを受ける、とささやかれ、ミールに手出ししようとするものはいなくなった。


 ミールとブラウニーたちの楽しい生活は、ミールが亡くなるまでずっと続いていったという。



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