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ち:地図②


 歩を進めるごとに、ソウナムの不安は大きくなってきた。

 確かに地下に広い秘密基地だけど、いつまでたっても行き止まりにならない。普通廊下や通路はいつか必ず行き止まりになるものじゃないだろうか。道は一本しかないから、迷っているわけではない。円形でもないのに、いくらなんでも広すぎる。

 もうずっと前から手書きの地図は子供たちの間で受け継がれてきたのに、地図はいまだに完成していない。ソウナムたちも何度も探検したのに、それでも完成できないほど広い遺跡。

 そんな広いところに迷い込んだ子供二人を誰が見つけてくれるのだろうか。

 もしこのままだったら・・・二人とも、水も食料も持ってきてはいないのに。

「・・・ユン疲れたよ。少し、休もうよ」

「・・・ソウナムも疲れた」

 装飾の壁に寄りかかって床に腰を下ろす。もうどのくらい歩いたのかわからないけど、くたくただった。

「ここって、すごく広かったんだね」

「うん・・・」

 ランプの燃料もあと少ししか残っていない。

「ねぇ、ユンたちのほかにここで迷子になった子供っていないのかな」

「いるかもしれないし、いないかもしれない。でも、いたら噂になったり、もっとここに子供がこれないようになってるんじゃないかな」

「ユンも、もうここで遊べなくなる?」

「ここにずっといるよりはいいんじゃないかな」

「・・・お腹空いたね」

「うん・・・」

 もう歩く元気も無い。でもこのままじっとしていても、外に出られるわけじゃない。

「ユン、行こう。とにかく少しでも歩かなくちゃ」

 ユンは首を振って立ち上がることを嫌がった。ソウナムは手に持っていた地図をユンに広げて見せた。

「ユン、いいか。ここから出られたら、この地図に書き足すんだ。それから、もう一枚、別の地図を作ろう。ソウナムとユンだけの特別な地図をね」

 言い聞かせるようにゆっくりというと、その考えはユンに立ち上がる元気を与えてくれたみたいだった。勢いよく立ち上がると、嬉しそうな笑顔を見せた。

「秘密の地図だね」

「そうだよ、二人だけの秘密の地図だ」

 ここから出る。必ず二人で帰ってもう一枚の地図を作るんだ。二人で手をつないで、もう一度歩き出す。お腹も空いているし、かなり疲れてもいる。だけど、新しい地図のことを考えると、どこからか、元気がわいてくるようだった。

「ねぇ、ソウ・・・」

「しっ」

 話しかけてきたユンに、人差し指を立てて黙らせる。


“・・・-ン・・・リーン・・・リーン・・・”


 微かだけど、確かに聞こえた。

「響きの鈴・・・ソウナム!」

 ユンにも聞こえているのなら幻聴じゃない。

「どうしよう、ユン返しの鈴持ってないよ」

 音は近くにも、遠くにも聞こえる。多分、大声で二人を探すことが出来ないから、響きの鈴を鳴らしているに違いない。本当なら、返しの鈴を鳴らすところだけど、ソウナムも鈴をもっていない。

「ユン、口笛!二人で吹けば、聞こえるかも!」

 遠ざかりかけた鈴の音に慌てて、口笛を吹くと、鈴の音の間隔が短くなった。それにあわせて、遠くに小さな明かりが見えた。二人は駆け出した。つないだ手はそのままに、小さな明かりに向かって。

「ソウナム、ユン!? 無事だったんだね!」

 聞き覚えのある声めがけて勢いよく抱きついた。二人分の体重と勢いを支えきれなかったその人は、二人を抱きとめたまま倒れた。

「いたたた・・・・ちょっ、二人、おもっ・・・」

 慌てて離れると、倒れても手放さなかったランプが、独特の赤い髪を照らしだしていた。

「エタンナ!帰ってきたの!?」

 鈴の人が誰かわかって、ユンはもう一度エタンナに抱きついた。ソウナムよりほんの少し背が高いエタンナは、ユンとソウナムの頭を交互に撫でた。

「うん、さっき村に着いたばかりだよ」

「レモルスは?レモルスはきてないの?」

「レモルスも“町”へ帰ったよ。けど、今度ここへ来てくれるって約束してあるからね。近いうちに会えると思うよ」

 いないと聞いてがっかりしたソウナムに、エタンナは付け足すようにいった。ユンとソウナムは文字通り飛び跳ねて喜んだ。二人とも、エタンナとその友人であるレモルスが大好きだった。

「でも、どうしてここがわかったの?」

「村の中も外も探したっていうから。それなら、ここだと思ったんだ」

 エタンナはユンと手をつないで歩き出した。

「二人とも覚悟しておくんだよ。村長と神官長、かなり心配しておられたから」

 怒られるだろう、ということは覚悟していたけど、心配させてしまったと聞くと、気分が沈んだ。

「エタンナ、ユンたちがここに居たって内緒にして。じゃないと、もうここで遊べなくなっちゃう」

「それは、難しいな」

「どうして。エタンナ一人で来たんでしょう?」

「ソウナム、よく考えてごらん。ここは君の持っている地図にも載っていない場所のはずだよ」

 そういえば、エタンナは地図も持ってないのに、どうやってこの秘密基地の中を来たのだろう。ソウナムはちょっと考えて、いやな予感がした。

「ああ、そこを左だよ。小さな階段だけど、君たちなら大丈夫だね」

 エタンナが案内するまま、後をついていく。階段を登りきると、急に明るくなって何も見えなくなった。そばにいたエタンナが呼び笛を強く吹いた。高いが、大きくはない音が辺りに響き渡る。ようやく目が慣れてくると、そこはソウナムたちが広場と呼んでいる秘密基地に入ってすぐの部屋だった。

 エタンナが笛をしまうと、いろいろな場所から次々と大人たちが出てきた。

「エタンナ・・・これ・・・」

「地下道に自信のある大人は集まれって言ったんだけど。自分だけの地図を持っているのは、私だけじゃないってことだね」

 集まってきた大人たちに怒られたり、撫でられたりしながら、ソウナムたちはようやくほっとすることが出来た。

「ここだけの話だけど、大人の中にもいまだに地図を広げることに熱中している人もいるみたいだね」

 だから、君たちも負けないように頑張るんだよ、とエタンナは笑った。 



 ソウナムたちが遭難しかけてから二日。二人は大人たちにひどく叱られたけど、秘密基地への立ち入りを禁止されることは無かった。エタンナがあとから教えてくれたことには、村長も神官長も子供のころはここで遊んでいたのだという。

 二人は大人たちに負けないように、二人だけの特別な地図に新しい場所を書き込むことに熱中した。

 もちろん、遭難しかけてからは、充実した装備を持っていくようになり、それらの装備はユンよりも年下の子供たちへと受け継がれていくことになるのだった。

 


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