せ:世界をかけた探しもの ①
※この物語は、童謡「とおりゃんせ」の歌詞を載せています。
検索したら、50年以上昔の童謡なので、セーフだと思うのですが、何か問題があった、もしくは好ましくない、という方がいましたら、削除します。
通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの 細通じゃ
天神さまの 細道じゃ
ちょっと通して 下しゃんせ
御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つの お祝いに
お札を納めに まいります
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも
通りゃんせ 通りゃんせ
古くから伝わるこの童歌が、まさか自分の運命を予言したものになるなんて、一体だれが思うだろう。
ヴェナが目覚めたとき、その場にいたのは、奇妙な男だった。
まだ若い、おそらく8つ離れた弟のニッサよりも少し年下だろうか。立ったまま腕を組んで眠ったように目を閉じている。これまで見たこともないような衣装を身にまとっているのだが、真冬の寒さの厳しいこの時期に、見ているこちらが寒くなってきそうな薄ものだ。
寒くないのだろうか?
予備の防寒具を持ってきていたはず、と背負った荷物を出そうとして、腰から下がピクリとも動かないことに気づいた。驚いて視線を男から自分の足元に移すと、腰から下が岩の中に埋まっていて、足の指一本動かすことができない。
ヴェナは、戸惑いを隠せずに改めて辺りを見回した。
これまで、一度だって見たことのない場所。
地面も、空も。
奥行すら、無い。
まるで、神話に聞く「始まりの場所」のよう。
天神が世界を作るために、最初に作った場所だといわれているが、そこも何もない空間だけがあったという。
でもここには、目を閉じて立つ男と、自分と同じように大きな円形の岩から上半身だけを出している男女が6人、見えた。
ヴェナはその6人の人々を見回した。
身に着けているものを見る限り、男性4人と女性2人だろうか。ヴェナと同じように季節に合った厚着をしていて、特に奇妙なところはない。
まだ目覚めているのはヴェナ一人だけのようで、これから何が始まるのかわからないが、ろくでも無い事というのは間違いなさそうだ。
上半身を起こしただけの体勢で、ヴェナはふむ、と考えこむ。
一人娘が数えで7つになったお祝いに、天神様のお社にお札を収めにやってきたのだが、何がどうなってか、気が付いたら下半身が石に埋まっている。本当に腰から下が全く動かないのだから、シャレにならない。
こんなことなら、心配性のお隣さん、フェルデナンテの言うことをちゃんと聞いて春になるのをまってお参りに行けばよかったと思うが、後の祭りだ。
自分を除いた6人が埋められた状態で、死んでいるかのようにぴくりとも動かずに倒れている。目を凝らしてよく見れば、胸が上下しているものもいるから、死んでいるわけではないと思うけど。
ヴェナはもう一度、奇妙な男を見た。
ただ一人、石に埋まらず普通に立っているところを見ると、自分や周りの人々を埋めたのはこの男なのだろう。
でも、何のために?
理由もわからず、ヴェナは何となく思いついた言葉を口に乗せてみた。
「お札を受け取ってもらえるかな?」
目を閉じて、眠ったように立っていた男の目が開かれる。
黒、それとも茶色だろうか。
濃い灰色にもみえる。
色の表現に困る瞳は、まっすぐにヴェナを見ていた。
どうやら、殺気の独り言で、起こしてしまったらしい。
「お札を受け取ってもらえるかな?」
今度はひとりごとではなく、はっきりと男に聞こえるように言う。
背中の半ばぐらいに背負っていたから、かろうじて石に埋められずに済んだ荷物の中から、大切に布にくるんだお札を男に差出した。
男はしばらく、何色とも取れるくらい瞳をヒタリ、とヴェナに据えて何かを考えこんでいるようだった。
静かに口を開く。
「なぜ、それを俺に?」
「だって、天神様だろ」
だって、自分は天神様のお社にいた。お参りに行って、お社についたところまでは覚えているけど、そこから先の記憶がない。
なら、こんな不可思議な場所に連れてきたのは天神様のはず。
そして自分はこのお札を収めるためだけに、雪をかき分けはるばるやってきたのだ。
ここで追い返されても困る。
「娘が7つになったんだ。これまで、ありがとうございました。これからも、よろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げてお礼を言い、お札をぐいっ、と男の方へ差し出すと、なぜか深いため息をつかれた。
それでもヴェナのそばに寄ってきてお札を受け取ってもらえ、ほっと息をついて顔をあげた。
「で。なんで私たちは埋められているのかな?」
「・・・著しく、質問の順番が間違っている気がするぞ」
天神様は二度目の深いため息をついて、あらぬ方向を見つめ、「いや、こういう奴だからこそ、可能性は高いのか・・・」とかなんとか一人でつぶやいている。
そうこうしているうちに、眠っていた6人がそれぞれ目を覚ましたようだ。