あ:あの世から
作者初投稿です。
お時間のあるときにどうぞ。
朝目が覚めたら枕元に白い手紙と贈り物がおいてある。
そんな経験は、誰しも一度や二度は体験済みだろう。特に、このフェイデル村の住人ならなおさらだ。
レイが目を覚ますと自分の枕元に真っ白な封筒と、小さな小包が枕元に置かれていた。宛名がなくとも、それがそこにおいてあるということは、レイ宛に来たものだと判断できる。
「あら、今日はあんたのところに届いたのね」
枕元にあった手紙と小包をもって食堂に下りると、姉のウィーナが顔を出した。
「面倒くさがらずにちゃんと返事をだすのよ?最低限のマナーですからね」
そういってまた台所に引っ込んだ。朝のウィーナは忙しい。たぶん、この家で一番の働き者は、一番の元気ものでもあり、一番の権力者だったりする。
「あー、いいなぁー。まだ僕の番じゃないの」
「今日がレイなら、後もう少しよ!」
足元に何かが張り付いてきた、と思ったら反対の足にも張り付かれ、するすると器用によじ登ってくる。むりやり肩車をさせたフィナは満足そうに頭になついてきた。足元のティオはしたから不思議そうに白い小包を触っている。
「何が入ってるのかなぁ。レイ、開けてみて」
「だめよ、ティオ!これはレイのなんだから。自分に来るまで待たなきゃだめでしょ」
手を伸ばす弟を小さな姉が叱りつける。未来のウィーナだな。それでも気になるらしく、何度も手紙と小包に視線を送る。
「後で教えるよ。ほら、手を洗っておいで。もうすぐ食事だからね」
頭の上に乗ったフィナを床に降ろして二つの小さな背中を押す。
二人は手をつないで元気に外に駆け出していった。
もともと病弱だったあの二人の元気な様子に思わず目を細める。
手の中の手紙と小包が誰から送られてきたものか、兄弟たちはみんな知っている。あて先も送り主の名前が無くても、知っている。
レイは食卓に活けられていた水色の花を一輪と、ウィーナが返信用に集めている白い封筒と便箋を取って自分の部屋に戻った。
手紙の内容は、ありきたりなものだった。
それでも、見慣れた文字は懐かしく、送られた小包はレイのお気に入りのお菓子だった。
それを一つ口に運ぶと、レイは早速返事を書いた。こちらもありきたりなものになってしまったけど、花を添えることで許してもらおう。
「レイ?」
遠慮がちに開いた扉の影に小さな弟が顔を出した。
「どうした?」
声をかけられたことに勇気を得て、ティオは扉から三本の花を差し出した。
白い花、黄色い花、赤い花。
「ああ、きれいだね」
「フィナとウィーナも持って行ってって」
弟の差し出した花を受け取って、青い花を添える。ティオは小さな花束をうれしそうにみて、階段を下りていった。
きっと下では二人の姉に任務完了の報告をしていることだろう。
レイは手紙を封筒に入れて、花束と一緒に枕元へ置いた。
お気に入りのお菓子を兄弟にお裾分けするために、レイも階段を下りていった。
マリアは枕もとの白い封筒を開き、隣に寝る夫と幼い娘を起こして三人一緒に庭へ出た。
小さな花壇には、昨日まではなかった色とりどりの花が咲いていた。
「ままー、きれいね」
「お前の兄さんや姉さんたちからの贈り物だよ」
マリアの瞳には涙が浮かんでいた。
「ミィナもお手紙したら、お返事もらえる?」
「ええ、きっとね」
花壇の奥には小さな墓標が四つ。
色とりどりの花は、優しい風を受けてうなづくように揺れていた。