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け:決闘

 


『果たし状。銀星のライル殿。

本日、月の刻。大樹の広場へ来られたし。星見のエイル』


 夕方、夕食の用意をしていたライルの元に、見知った子供が訪ねてきたかと思うと、きらきらと輝く瞳でライルを見上げ、この手紙を渡してきた。

 

「らいるさま、きょうも、よろしくおねがいします!」

 にっこりと笑って、子供はそのまま主の下へと帰っていってしまう。

 

 ライルは盛大なため息をつくと、早々に夕食を食べることにした。

 


――――

 

 空に浮かぶ二つの月がその姿を重ね合わせる、月の刻。

 ライルは指定された大樹の広場へ向かうと、木刀を二本持った黒髪の少女が立っていた。

「遅いぞ、ライル! 月はとっくに重なっているというのに!」

 毛を逆立てた猫のように食って掛かってくる少女の出で立ちにざっと目を通す。長い髪をひとつに結び、動きやすい衣装に、胸あてと篭手を身につけているその姿を見て、ライルは大きくため息をついた。

「何度も言うが、いい加減、諦めたらどうだ? お前が、俺に勝てるわけがないのはわかっているだろう。それから、星の子を使いに寄越すのはやめろ」

「だまれっ! とりあえず、遅刻を謝れ! この私を待たせたことを誠心誠意謝り倒すのだ!」

 憤然と突っかかってくる少女に、ライルはこれ見よがしの盛大なため息をついてみせる。

「月の刻というのは、月が重なっている間の時間全てを指すんだ。俺は月の刻に来た。謝る道理がない」

 うっ、と少女はひるむと、ふんっ、とそっぽを向く。

「ま、まぁ、今回は遅刻を許してやろう! 私は心が広いからな」


 人の話をきけ。

 ライルは頭が痛くなってきて、額に手を当てる。


「銀星のライル! 星見のエイルの名において、貴様に決闘を申し込む!」

「何度も言うが、お前に決闘を申し込まれる覚えがない」

「貴様になくても、私にはある!」 

 もう何度目になるのかも忘れてしまったやり取り。

 それでも、銀星の名で決闘を申し込まれたからには、受けるより他ない。

「で? 今回は木刀か?」

 毎回毎回、違う得物を指定してくる少女に先んじて尋ねれば、にやり、と不遜な笑みを浮かべて見せる。

「愚か者め! これは単なる護身用だ!」

「だろうな」

 真剣、木刀、槍、棍棒などの類は、全て過去において完膚なきまでに叩きのめしている。

 最近では、武力、体力によらないもので勝負を挑んでくるようになっていて、前回は確か、なぞなぞ対決だった。

 決闘の形をとっている以上、本気で相手をしなくてはならないのだから、ライルの頭痛は止まない。


「今回は、暴露対決だ!」

 その頭痛の種は、びしっ、と人差し指を突きつけて、勝負の内容を宣言する。

「暴露対決?」

 きいたことのない勝負の形に、思わず聞き返すと、少女はにんまりと笑ってみせる。

「そうだ!お互いに自分のはずかし~い過去を暴露しあい、耐え切れなくなったり、ネタがなくなったほうが負けという、勝っても負けても痛々しい勝負だ!」

 確かに、それはいろんな意味で痛そうだ。

「お前、捨て身だな」

「何とでも言うがいい! 最後に笑うのは私だ!」


 ある意味、笑うのは俺のほうになりそうだが。

 ライルはちょっと考えると、おもむろに頷いた。


「断る」

「えっ?」

「決闘を挑んできたのはお前だろう。今まではお前に決めさせてきたが、そもそも、決闘を申し込まれた者に勝負の内容を決める権利がある」

 驚いて目を丸くする少女をよそに、ライルは口元に笑みを浮かべる。

「決闘は受けよう。勝負の内容は、そうだな。聖典の暗唱としようか」

「ひ、卑怯だぞ!」

「なんなら木刀でも俺はかまわないが?」


 そのほうが早く勝負がつくしな?


 言外に込めて出方を伺うと、目に涙を浮かべてライルを睨みつけた少女は、悔しそうに唇を噛むが、決闘を申し込んだときと同じように人差し指を突きつけて、宣言する。

「う、受けてやる! 星見のエイルの名において、その勝負受けてやろう! 私が勝ったら、私の言うことをきいてもらうからな!」

「成立だな。銀星のライルの名において、星見のエイルの決闘を受けよう」


 正式な作法に則って、決闘が行われた。


 ・・・・・・あっさりと、ライルの勝利が決まった。



――――


「いい加減、諦めないか?」

「今日こそは私が勝ぁつっ!!」


 現在の勝敗。

 ライル36勝、エイル36敗。



――――


 昼間、ライルは神星神殿に「銀星」として詰めている。

 銀星とは、昼の月、昼の星を指し、その勤めは日中、神殿と、神殿の最上階に座す、「星の神子」を守ること。


 現在、神星神殿に星の神子は三人。

 星聴きのシャイン、星解きのシェリル、そして、星見のエイル。


 それぞれの神子には、星の子と呼ばれる、幼い見習い神官が数名つく。そのうちの一人、レイルが夕方に手紙(果たし状)を持ってくるのが日課となっていた。


「らいるさま」

「お前も毎日毎日、大変だな」

「おやくめですから」


 そんなことまで役目になっている星の子がほんの少し哀れだった。



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