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悪妃カリーナ

悪妃カリーナは生まれ変わっても悪女のまま。2 〜 前日譚 〜

作者: しぃ太郎
掲載日:2025/10/22

よくあるゆるふわ設定です。

ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。


『悪妃カリーナは生まれ変わっても悪女のまま。』の前日譚になります。主人公の二人がまだ幼い頃の話です。

基本的にはどちらから読んでも大丈夫です。


 私は、公爵家に生まれてすぐに第一王子の婚約者になった。

 十歳の時だった。


「ルイさま、先生が探していたわ。一緒に戻りましょう?」

「うるさい!カリーナもみんなと同じ事ばかり言う!」

 一歳上のルイ様は、周りからの圧力も強いのだろう。偶にこうやって、一人で泣いていることがあった。

「じゃあ、私も一緒に先生に怒られますから。ここでサボってしまいましょうか」

「お前なんか嫌いだ。みんな嫌いだ。私が一番えらいんだ」 


 

 ――私が十六歳、彼が十七歳の時に結婚式を挙げた。

 この時は、まだ未来が輝いて見えていた。

 国民からの祝福、愛情のこもった瞳で私を見てくれる夫。

 青い空の下、私達は夫婦になった。



 この状況が変わったのはいつからだったか。


 彼が狩りの途中で怪我をして、平民の美しい女に助けられた事が切っ掛けだったのか。

 それとも、私が結婚後三年経っても子供が出来なかったことか。


 側妃になったその女は、一言で例えるなら俗物だった。綺麗な顔の下に、その本性が隠れていると気付いていた人は多かったかもしれない。


 だが、王の寵愛の前には誰もがその口を閉ざすしかなかった。


 


「お兄様、エイダは国を傾けます。彼女は、税の原理も知らずに更に重税を課そうとしています……」

「カリーナ、私達もそれは解っているが。今はどんな発言も命取りになる」

「でも、このままでは国が大変な事に……」

 

 王に睨まれたら、次の日には非ぬ罪を着せられて処刑されるのが日常になってしまった。


 そう。『明日は我が身』。


 それが今の風潮だ。エイダの散財に苦言を呈した忠臣を処刑した王。

 ――ルイはどうしてこうなってしまった?

 私にはどうする事も出来ないのか。

 無力な王妃。それだけでも罪だわ……。


 その年。


 帝国の支配下にあった公国が独立を図り蜂起した。

 この流れは危険だった。

 小さな国が蜂起し、それが引き金になってしまった。


 帝国はそれを鎮圧出来たが、度重なる重税に属国や農民の不満が目に見えて溜まっている。

 農民や属国の反乱が数回続いたある日。


 ――カリーナは散財し国を傾けた王妃として、処刑されることになった。

 ()()()()()()()()()()()。私に全部押し付けても事実は変わらない。


 でも今の世では王の発言が全て正しいのだ。


 実家の公爵家も手出しが出来ない決定だった。


 ある意味、私が子供を産めず側妃に力を与えすぎたが為に起きた政争だった。

「すまない、カリーナ。公爵家からはこれ以上抗議は出来ない。下手を打ったらお前と共に反逆罪で取り潰される」


 わざわざ会いに来てくれた兄に首を振る。

 (喉を潰されて、声も出なくなった……)

 冷たい牢の中、兄が私に謝りに来たがお互いにわかっていた。これはもうどうしょうもない事だと。


「せめて毒杯を、と頼んだが……、王が認めなかった。中央広場で処刑される事が決まった」


 今の世の中、貴族は富の象徴で。

 その貴族の処刑は民のいい娯楽と化している。

 (王妃の処刑など、最大に盛り上がるでしょう)


 幼い時の小さな彼は何処へ行ったのだろう。

 結婚式で見せてくれた優しさは消えてしまったのか。


 もう、疲れてしまった。

 早くこの舞台から降りてしまいたい。

(きっと、とっくの昔に私の心は壊れてしまっているんだわ)


 ◇◇◇



 ある晴天、雲一つない青い空が美しい日だった。


「悪妃カリーナ!民に税を課してまでも贅沢を続け、国をここまで傾けた罪は重い。斬首の刑に処す」

 広場に特設で作られた処刑台。

 集まった民からは多くの罵声が飛び交う。


『お前の贅沢のせいで子供が死んだ』

『お前のせいで生活が苦しい』

『早く死んでしまえ』


 石が飛び交い、それが頭に当たった。

 それが肩に、腹に当たった。


 ――ええ、皆の憎しみを背負って死にましょう。

 でも、たかが私の死だけでは終わらないでしょう。


 ルイ。……陛下。

 いずれ貴方がここに立つ事になるか、エイダが立つことになるか。


 (あぁ、久し振りに見た空が綺麗だわ)


 膝をつかされ、首を固定され、それでも私は無理やり頭を上げて前を向いた。その視線の先。


 その先には――結婚式に見た時と同じく。

 広場に集まる人々、そして街並みから覗く美しい青空が見えた。



 ◇◇◇



「……リナ!リナ!大丈夫か!?」

「ん。……マシュー?」

「お前、凄い魘うなされてたぞ。水を取ってくるから起き上がってろよ。汗も拭いとけよ」


 幼い少年が、私に手拭いを投げて寄越す。


 (そっか。今日は、マシューの家に泊まりに来ていたんだった)


 また、あの夢を見た。

 もう何十回と見た夢なのに、苦しくてどうしょうもない。何度こうやって夜中に目覚めた事か。


 マシューにも迷惑かけちゃったわ。

 慌てて水を運び私に手渡してくれる、リナの幼馴染み。


「ありがとう。マシューって優しいよね」

「そ…!そんなにお礼を言われる事はしてないだろ。良いから、ゆっくり飲めよ」


 照れ屋で世話焼き、少し怒りっぽいが、でも優しい。リナの――いいえ、私の幼馴染み。

「明日は早朝から訓練させられるのかな?マシューのおじさん、本当に厳しいわよね」

「お前にはまだマシだろ……。俺は吐くまで走らされるぞ。俺ももっと剣の練習がしたいっての」


「ふふ。私はマシューほど体力無いからね。剣よりナイフの方が使い勝手いいんだけどな」

「嫌味な奴だな〜!大人達がみんな、リナはセンスが良いって褒めてるじゃん」


「マシューだって瞬発力が凄いわ。村の子供たちの中ではトップじゃない」

「そのトップのお前に言われてもな……。でも、リナは無茶はするなよ。危ない仕事には俺達が付くから。護衛とか、比較的安全なのも色々あるし、お前はそれを専門にしろ」


「何よ?生意気にも私を心配しちゃってるって?」

「そりゃするだろ。幼馴染みで、しかも女のお前を心配して何が悪いっていうんだ」


 ――拗ねちゃったかな。でもマシューの優しさが嬉しい。そう。今の私の感情は『嬉しい』だ。


 そして、生来の性格で無茶をしそうなマシューが私は『心配』だ。彼がもし怪我でもしたら『悲しい』。

 そして、私は今のこの村を『大切』に思っている。


 偶に、自分が出来損ないに感じるの。

 あまりにも、感情の起伏が少なくて。

 

 ――でも、マシューが色々教えてくれる。

 ここの人達も色々と教えてくれる。

 きっと、私の心は壊れているんだろうけれど、治そうとしてくれる人達がいるから、ほら。

 こんなにも色々な感情が芽生える。

 

 ねぇ、今なんてね。理由も無く『泣きたい』。


 小さな村の小さな私たち。


「マシュー。明日晴れるといいね」

「それ暑いだけだろ。俺は暑い中走りたくないって」


「だって綺麗な青い空の下で、頑張って走ってるマシューが見たいんだもの」


 それは想像するだけでも『楽しく』て……美しい光景に思えた。



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