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夏の終わり

作者: 紡里

平和な日常を書きたくなりました。

 今年も実家に帰らなかった。


 特にお盆休みというものはなかったから。

 事前に申請すれば休めるけれど、混雑の中、そこまでして帰省しようとは思わない。



「夏は水田から蛙の声がするものだった。

 夕立が降る前にピタリと声が止むんだ。

 それが、また、正確でね」

 お客さんが懐かしそうに話す。


「夕立って言葉は知っていますけど……ゲリラ豪雨とは違うんですよね?」


 あはは、と笑われた。


「あんな危険なものじゃないよ。

 入道雲が沸き立つような暑い日の午後に、ざぁっと一雨くる。その後は涼しい風が吹いてさ。

 しっとりと、日本の情緒を感じさせる……夕立に降られた女性は色っぽくて絵になるけど、ゲリラ豪雨に襲われた女性はみすぼらしくて可哀想って感じかなぁ」


 ブルーマウンテンを飲みながら、目を細める。



 昭和から続いているこの喫茶店は、どっしりと重たいコーヒーがウリだ。


 今日は「レトロ可愛い」とはしゃぐお客さんがいないので、穏やかだ。



 新規のお客様はもちろんありがたいのだけれど、もう少し、周りに気を配ってほしいというか。

 目の前にいる私たちを無視して、写真を賞賛してくれるネット上の不特定多数の匿名さんしか意識していないのが悲しいというか。


 お一人お一人に淹れているコーヒーを味わっていただきたいというか。

「苦すぎる」という感想はご自由だが、それを好む人を「信じられない」と攻撃しないでいただきたいというか。



 ああ、忙しくないと、埒もないことが頭の中をループしてしまう。



「さて、また一歩きしてくるか」


 宅地にするために田んぼを売ったというご老人が、立ち上がった。


 カランと入り口のカウベルが音を立てる。


「またお待ちしています」

 と後ろ姿に声をかけた。



 日が傾く中、おそらくパチンコかスナックに行くのだろう。


 実りの喜びや台風の心配などを手放して、遊べる時間を手に入れたと話してくれたことがある。

 そのときの、なんとなく「よかったですね」とは言いづらい雰囲気を思い出していた。


やっと、猛暑日が終わりますかねぇ。

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