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公爵令嬢のとある一日

作者: 雪村みか

初投稿です。

物語の序章のようなものになり説明が多いですが、楽しんでいただけると幸いです。

 王立学園には平民から貴族まで多くの子息子女らが籍を置いている。子ども達が学び育つことは国の発展に繋がるとして、最低限度の知識をもつ人材は二十年ほど前から身分関係なく入学し必要なことを学べる場所となった。

 しかし、彼らがこの国で今後生きていくために必要な勉学の分野や内容には差がある。貴族は人の上に立ち国を運営するための知識が、平民は会社を運営したり仕事に関する専門的な知識が求められる。

 学園内では身分平等と謳われていても、その差によって貴族と平民に隔たりがあることは事実としてあった。学園を卒業したら身分をないことにはできないのだ。壁があることを理解しつつ互いに互いのことを慮り、近い未来のことを考えた行動を取ることが求められていた。

 多くの生徒はそのことを理解していたが、身分平等を文字通り受け取り行動する人もいるのであった。身分関係なく誰とでも仲良くする女子生徒が年に一人二人現れるのだ。


「……あら。」


 ローザリアが目を向けた窓の向こうには、中庭にある東屋があった。東屋自体が美しい美術品のようで、さらにその周りは季節の草花で彩られているため生徒からの人気は高い。

 人気なため常に人目があるので悪さをすることはできず、婚約者や恋人、好きな人がいる人が、それ以外の人物とどうしても好意を向ける人に聞かれなくない話__主に好意を向ける人の好みをその周囲の人間に探る場所として有名である。またこの東屋で会話するカップルは様々な理由から別れを決断させられると噂の場所でもある。そういったことから想い人に関して話を聞けつつ、一緒にいる人とは恋愛関係にないと身の潔白を示すことができる場所としても一部に人気があるらしい。

 そういう噂があったとしても、婚約者等と知らない人間が一緒にいる姿を見ることは気分のいいものではない。思い合っている二人であると、東屋で異性と合うのは避けてほしいと約束する人もいる。


 ローザリアは自分の婚約者である王国の第二王子殿下がその場にいることを見かけ、眉をひそめた。


「……まあ、あれは殿下と子爵令嬢でしょうか」


 ローザリアの視線に気が付いた、ローザリアの隣を歩いていた令嬢が視線を辿った先を見てつぶやく。それにならい、他の令嬢も目を向けた。

 令嬢のいう二人が東屋にいる。男子生徒は王国の第二王子殿下であるため、学園に通う人間であれば、国民であれば誰でも顔を知っている。薄い茶髪で容姿もそれほど目立つ訳ではないが、ひとの良さそうな相貌で国民から慕われている。その隣に立つ令嬢は次期聖女という立場とフェーブの艶やかな黒髪と豊かな身体を持ち、隣にいる第二王子殿下とは異なり目立つ容姿をしている。学園内には彼女に関わる幾つもの噂が流れていることもあり、こちらも学園内で知らない人はいないだろう。

 向かい合って立つ二人の姿は、友人というにはあまりにも近い。令嬢が第二王子殿下の頬に手を伸ばすと、彼は避けることをせず受け入れている。


「あら本当。ねぇ、あのご令嬢、いろんな平民の男の方と仲良くされているんですって。どの家の出身か知りませんけれど、養子になる前は平民だったのかしら」

「殿下はお優しいから子爵令嬢のことをぞんざいに扱えないだけで、きっと拒みたいのよ。あんなに眉を顰めていらっしゃるのに気が付かないのかしら」


 そうであれば最低限のマナーもなっていないのもわかるわ、なんて言葉は誰も口には出さなかったが、ローザリアの周囲にいる令嬢たちは皆思ったことである。

 ねぇ、と同意見であることを確認するため令嬢たちが顔を合わせようとしたとき、窓の向こうに見える東屋では令嬢の豊満な胸にぽふん、と顔を埋める第二王子殿下の姿が見えた。

 彼は腕こそ令嬢の身体にまわしていないが、頭を彼女に預けて抱きしめられている。令嬢のものが大きいので第二王子殿下の表情をうかがい知ることはできないが、柔らかなそれを羨ましいと思う男子生徒はたくさんいるだろう。

 実際に彼らの側にいる第二王子殿下の従者は羨ましげな、けれど苦々しそうな複雑な表情をしていることが伺える。


「あらいやだわ!次期聖女様だかなんだか分からないですが、何をしたいのでしょう。ローザリア様がいらっしゃるのに殿下を抱きしめるなど!王族に対して不敬ではなくて?いえ、身分や婚約者の有無にかかわらず、まず男性にあの様なことをすること自体何を考えてるのかしら!従者も不貞行為になることはとめるべきでしょう!」

「ローザリア様、あの娘に警告してきましょうか。あまりにも目に余る行為ですわ」


 令嬢たちの言うことはもっともである。常識ある貴族令嬢のすることではないことを行う彼女に興奮する令嬢たちへ、ローザリアは感情を抑えた目を向ける。

 それでもにじみ出る妬み嫉みといったものが隠しきれていない。

 パキッとローザリアが手に持っていた扇子から嫌な音がした。


「気にしていないから放っておきなさい。不相応な振舞いには罰が下るものです」


 周囲の令嬢たちはローザリアの言葉が本心ではないと思いながらも、己より身分が上である公爵令嬢の、次期王子妃となる人の言葉に従うほかなかった。



 ❉⊱••┈┈┈••⊰❉



「いったいどういうことですの……!」


 オフィーリアは王城にある応接室のひとつを借りて、昂る感情を前面に押し出すローザリアをなだめていた。

 ローザリアが応接室へ入室するやいなや、ソファーに座っていたオフィーリアを押し倒す勢いで抱きついてきた。そんな彼女の頭をオフィーリアは優しく撫でる。上手くまとめられた髪型を崩さないよう、ぽんぽんとそっと触れるだけであるが。ときおり癖のあるウェーブの毛先を遊ぶようにすくい取る。

 ローザリアは遊ばれている髪に気が付くが、手を払うことをせず、何も言わず、オフィーリアにされるがまま頬を赤く染めている。そしてローザリアもオフィーリアのふわふわと緩くウェーブした髪を指先で弄んでいる。

 オフィーリアが優しい瞳をして見ていることは見なくても雰囲気で分かる。その雰囲気はとても心地よいもので、うっとりとしてしまうことは誰でも逃れられないことだとローザリアは思う。オフィーリアをきつく抱きしめる彼女の腕から次第に力が抜けていく。

 それでも放さない、という意思が伝わってくるそれに、オフィーリアは小さく息を吐いた。


「こうされているのも辛いですわよね、面倒な性格で申し訳ありません……」


 オフィーリアの胸に顔を埋めたままのローザリアが言う。くぐもった声は少し震えているようにも聞こえる。


「構わないよ。好きなだけこうしていて大丈夫だから」


 半分寝そべったような姿勢のオフィーリアにローザリアの身体の大半が乗っかっている。ローザリアがいくら小柄で平均よりも細身であると言っても、負担がかかっていることは事実だ。

 そんな言葉を聞いたローザリアは腕に少し力を込めるが、身を捩りソファーの空いている場所に身体を動かす。その様子にオフィーリアは小さく笑う声が漏れるが、問題ないよと伝えるように彼女の背中をゆっくりとしたリズムで優しく叩きはじめた。おねむの赤ちゃんをあやすように。

 応接室には音がない。しかしその無音の空間に気まずさ等なく、二人の間には穏やかな時間が流れる。オフィーリアはローザリアを本当に赤子だと思っているのではないだろうか。小さくローザリアの耳にはいる子守唄は上手とは言えないが、穏やかで優しい感情に溢れている。


 オフィーリアから一定のリズムで聞こえてくる心音と子守唄によって、ローザリアの荒れていた心は落ち着きを取り戻した。


「ふふ……」

「……なに?」

「いいえ、なんでもないのよ」


 静まったことを見通したようにノックの音が部屋に響くと、ローザリアの侍女がサービングカートとともに入室してきた。

 侍女は三十代で、オフィーリアたちよりも十歳以上も年上だ。「困ったさんね」とローザリアを近くで見てきた彼女の口癖が聞こえてきそうな表情をしている。オフィーリアは侍女と目が合うと、胸元に張り付いているローザリアに触れている手をとめる。そしてできる限り首を傾げて彼女の顔をのぞき込んで言った。


「ローザリア、お茶にしよう。美味しい焼き菓子が手に入ってね、君の侍女に用意してきてもらったよ」


 わかりましたわ、というローザリアの小さな返事を聞いたオフィーリアは、優しく彼女を抱き起こしてソファーへと座らせた。その間に侍女がテーブルにお茶の準備を進めていく。


「さあ、今日はフィナンシェだよ。ナッツも入っていて、最近私のお気に入りなんだ。紅茶はミルクティーで、砂糖は二つでいい?」

「ええ。たくさん持ってこられたのですね」

「甘いものはいくらあっても嬉しいからね」


 ではいただこうか、というオフィーリアの言葉を遮るように再びノックの音が部屋に響いた。

 オフィーリアはきょとんとした表情で扉を見て、それから隣に座っていたローザリアに顔を向ける。オフィーリアと目の合った彼女は、訝しげな顔で自分の侍女の名前を呼んだ。そんなローザリアの意図を察して、扉の側に控えていた侍女はさっと扉を開けてその向こうへ消えていった。


「誰だろうね」

「きっと馬鹿ですわ」

「こら、そんな可愛くない言葉は使わないで」


 短いやりとりをしていると、侍女が申し訳なさそうな表情をして扉から顔を覗かせながら、ローザリアに第二王子殿下がお越しになりました、と言った。

 入っていただいて、というぶっきらぼうなローザリアの返事に侍女が扉を開けて、室内へ第二王子殿下と従者を招き入れた。

 王族への挨拶としてソファーから腰を上げようとするオフィーリアとローザリアに、そのままで、と手で制してから、彼は二人の座る向かいのソファーに腰を下ろした。


「それでぇ?殿下が何の御用でしょうか。せっかく今から楽しいティータイムでしたのに」

「婚約者に向かって冷たいな。もう少しお会い出来て嬉しいですぅみたいなこと言えないの?」

「そんなこと望んでもないくせによく言えますこと」


 ふん、と顔を背けるローザリアを無視して、第二王子殿下は従者を経由してローザリアの侍女に紅茶を準備してもらう。サービングカートには元から余分にカップ等が用意されていたため、侍女によりすぐに場が整えられる。そして従者による毒見がされてから三人でのティータイムが始まった。

 二人で分けると多く感じたフィナンシェも、三人で分けるとそこまで多いようには見えない。

 口先だけの言い争いを続ける二人の様子を見て、オフィーリアは困ったと肩をすくめて従者らに助けを求めるが、残念なことに目を逸らされ見ていないふりをされた。そんな軽い態度のやり取りはいつもの事である。オフィーリアは何も言わずミルクティーの入ったカップを口元へと運んだ。


「それで?毒を飲んでしまってお姉様に助けられた殿下が何用なのですか」

「そのお礼と結果を伝えに来たんだよ。学園では声をかけ辛いからね」


 ローザリアの問いかけにさらっと答えた第二王子殿下に、彼女は涙を浮かべて立ち上がり、彼に向かってビシッと指を指した。


「何なのですか……!!学園で!お姉様と!ハグを!したの!ほんっっっとうに羨ましいです!!毒を飲んでしまうとか馬鹿でマヌケなことをした上にお姉様の胸を満喫するとかなんですか!どれだけ私が学園でお姉様とお話するのを、姉妹の触れ合いを我慢していると思って!?」


 わあああ、と声を荒らげるローザリアをオフィーリアは抱き寄せて座らせた。マナーとしてよろしくはないが彼女の口元にフィナンシェを運ぶと、ずるいですわ、等と小さく文句を呟きながらも雛鳥のように目の前に差し出されたものをローザリアは咀嚼して胃の中へおさめていく。


「ローザリアごめんね。私が聖女としての力が強いばかりに、いろいろ我慢してもらうことになって」

「お姉様のせいではありません!素敵な力をもってたくさんの方を救えるお姉様のことが大好きです!それにお姉様も我慢を強いられる立場じゃありませんか!王家の指示で養子にでて、これからの未来も幼い頃から定められてしまっていて!」

「外で言えないことを口に出すのは関心しないよ。けどローザリアのその気持ちはありがたいし、私もローザリアのことが好きだから思い合えて嬉しいよ」


 オフィーリアとローザリアのそんな様子に、第二王子殿下はああいつものだね、と関心薄く一人で紅茶とフィナンシェを味わっている。そんな様子を気付いているのかいないのか、ローザリアはオフィーリアの腕にぎゅっと抱き着いていた。



 ❉⊱••┈┈┈••⊰❉



 ここまでの一連の流れは、彼ら三人と従者・侍女たちにとっては日常といってもいいほど何度も繰り返されているものだ。


 まず、オフィーリアとローザリアはふたつ歳の離れた実の姉妹である。

 公爵家にうまれた二人は外見も中身も似ていなかったがとても仲がよく、いつも一緒に過ごしていた。朝食、淑女に必要なことを家庭教師から学ぶとき、昼食、遊ぶとき、ティータイムや夕食、はたまたお風呂の時間まで一緒に。

 それもこれもローザリアがオフィーリアに執着し、離れることを拒むからだ。オフィーリアを探しにまわるだけであればよく、ときには公爵家の屋敷中に響き渡るほど大きな声で泣きわめく。はいはいもできないころからそんな様子のローザリアの執着心を両親は心配したが、同時に赤子でもオフィーリアの意思を無視して付き纏い彼女の時間を奪うことは許容しなかった。母や乳母が付き添ってローザリアの心を埋めようとしたが効果はなく、オフィーリアからいつも一緒でいいよ、といわれ、それに甘える形で二人はお目付け役であるメイドをそばに置くことで一緒に過ごす時間が多くなった。

 オフィーリアの調子が良くない場合やひとりで過ごしたい、と希望を言った際にしっかりとその時間を作り出したメイドは、今ローザリアのそばで侍女として仕えている。


 それから彼女たちは姉妹であるためいつまでもそんな関係で過ごせると思っていたが、そんな時間を過ごすことができるのはほんの一瞬のことだとすぐに知ることとなった。


 オフィーリアが五歳、ローザリアが三歳のときのこと。オフィーリアが強い治癒魔法を使用できると判明した。


「……ローズのけが、なおった?」

「ねえさま、いたいのなくなった」


 ローザリアがした怪我を一瞬にして綺麗に治した。そのように治癒魔法を使うことができるのは稀なことである。しかし治癒魔法使いはそれなりの人数がいるので、怪我を少し治すくらいの魔法を使えるくらいであれば二人は姉妹のまま歳を重ねていくことができたであろう。しかし、魔力検査をするとオフィーリアには現聖女と変わらぬほどの力があるという結果がでた。

 聖女というのは王家の抱える専属医師のようなもの。王族やそれに準ずる人、政治的に重要な立場で秘かに命を狙われる人の側に侍り、その命を失わせないよう守る役割を担っている。

 王家はオフィーリアを幼いながらも次期聖女として、代々聖女が当主として受け継いでいる子爵家の養子とすることを決めた。その子爵家は歴代の当主である聖女らにより、治癒魔法を専門に多くの研究してきた。その研究から蓄積された知識を利用し魔法を極めてもらい、聖女という役割を全うしてもらうにはその家で育つことが最も効率的である。

 幼いといっても、養子をとって繋いでいる子爵家の歴史を見るにオフィーリアの五歳というのは平均的で、幼すぎるというものではなかった。彼女の両親である公爵夫妻もそのことを知っていたため、不安や悲しみを抱きながらも長女であるオフィーリアを送り出した。彼女に執着するローザリアから遠ざけて互いに依存心がこれ以上強くならないよう育ちますようにという願いもこめて。

 ただ幼いローザリアにとって、それは酷く辛い出来事であった。


 養子の子爵家令嬢と公爵家の令嬢。ただの養子であれば本当は姉妹であると明かして仲良くするのは構わないのだが、聖女は政治等で利用されないよう本当の出身を隠すのが常であった。平民や下位貴族の出身であると、上の立場にある人間が実の家族を人質として聖女をいのままに操るといったことが歴史的にあったからだ。出自が高位貴族である公爵家であるので隠さなくてもいいかもしれないという意見もあったが、何があるか分らないため隠されることとなった。

 そんなことからオフィーリアは本来の身分を明かせないため、貴族の中でも上位と下位貴族という爵位の関係で気軽に離せない間柄となり、二人は、特にローザリアは悲しみに暮れた。


「お姉様……」


 幾日経っても立ち直ることのできない姿をみて、王家は申し訳なさと彼女たちの心身の衰弱を心配した。

 王族は聖女や次期聖女を側に置いても可笑しくない立場である。それから、婚約者であれば王族と一緒にいても可笑しくない立場である。そんな考えから、ローザリアに王族の婚約者の立場を与えることで、二人が会うことができるようにしたのだ。

 もちろんそれは政治的な事情や情勢を踏まえており、第二王子殿下と公爵令嬢が婚約することに問題はないと承認され、婚約を結ぶ二人も了承した結果である。

 そうして二年という歳月を経て、姉妹は王家(第二王子殿下)同席のもと会うことができるようになった。

 それは基本的に王宮でのことで、多数の目がある学園では学園の暗黙の了解でなかなか会うことも難しく、抱き着く等といった親密に見える言動はローザリアはひとつも出来ていない。


「ねえお姉様、もう殿下とハグはしないでくださいませ。お姉様に甘えて素晴らしい胸部を満喫できるのは妹である私と、嫌だけど嫌だけど嫌だけど将来の義兄になるあの伯爵家の次男野郎だけですわ」

「だから言葉遣い。……それからごめんね、どういうわけか治癒魔法を流すことができるのが私の心臓からだから、それは出来ない相談ね」


 人によって魔法を使いやすい方法は異なっている。基本は指先から魔法を出力して使う。それが難しければ魔法をコントロールしやすいように作られた杖等を媒介にすることが多い。

 オフィーリアは、そのどちらの方法でも治癒魔法を発現させることが出来なかった。多少であれば使用できるのだが、実力を発揮しようとしたら大切なものを治すように、胸にぎゅっと抱いて心臓の辺りから魔法を放つ方法でしか上手く発動できないのだ。

 そのような理由があるため、オフィーリアは人前では魔法を発動することが憚られる。

 もし次期聖女である少女に父ほどの歳の陛下が治癒魔法のためとはいえ抱きかかえられるところを見られてしまったら、陛下はロリコン扱いされるだろうし、それを容認している周囲も冷たい目で見られることは必須。それ故、オフィーリアは国のトップから歳上への使用をとりあえず禁止された。その方法も王妃等の同性、異性でも同い年かそれ以下であればまだ問題が少ないとして、オフィーリアは第二王子殿下の専属のようなものになっている。ちなみに第一王子である王太子殿下はオフィーリアよりも五つ上であるため、王太子本人の希望もあり治癒対象からは外された。


 王太子曰く、「婚約者に勘違いされたくないから……」とのこと。


 第二王子殿下は姉妹が会う理由になっているため治癒魔法を受けないという選択肢は残されておらず、何かあればオフィーリアに頼ること他ない。しかしローザリアがそれにいい顔をしないので、こうして口論がなくならないのだ。

 人前で魔法を使う機会がないため、発動方法を現在知ることが出来ているのは王族と、オフィーリアの家族。それから治癒魔法の研究とした治療も行っているため、協力者である平民。一部の将来的には聖女による治癒魔法が必要とされる政治の中心に見を置く人も知ることになるだろうが、それはもうしばらく後の話だ。

 そのため次期聖女の魔法の発動方法は大多数の人には知られていない。今回の中庭での出来事も毒を受けたための治癒魔法であったのだが、そのようなものが見られた際に「次期聖女が〇〇を身体で惑わしてー…」なんて噂が流れてしまっている。ローザリアがそんな噂を原因でもある身近な王族の第二王子殿下になんとかしろ、と言うが解決しないため口論が終わることはないのだ。


「治癒魔法の使い方が特殊なので仕方のないことだと言うことはわかってます!今の聖女様が引退されたらお姉様が王家や高位貴族の治癒や解毒等行うのは理解しているのです!…だけど治癒解毒されるたびに鼻の下を伸ばす人がいると思うと、私の大切なお姉様が減った気がするので嫌なんです!」


 ローザリアは中庭の出来事は治療行為だと分かって二人を見ていたが、緊急事態とはいえ家族である自分を押しのけ、学園でオフィーリアと仲良くした第二王子殿下に嫉妬していた。さらに彼が十歳頃のオフィーリアに治癒された際、顔を真っ赤にして崩れた顔を見ているし、それが原因で喧嘩もした。私のお姉様をとるな、と。

 第二王子殿下は男ならだれでもこうなってしまうのは仕方のないことだ、と述べ、周囲の人間も控えめに同意していたがローザリアは聞き入れることはなかった。


「ローザリア、オフィーリアは減らないし、仕事であるのだから諦めろ。ああ、お前にはない場所の豊かさに嫉妬しているのか?それとも僕がお前以外の人に」

「お姉様の一部に嫉妬なんてするはずがないでしょう!小さなものもお姉様は私の一部として好きでいてくれるから構いませんし!殿下とは政略なのですから恋愛感情がないので嫉妬するとかもないですし!」


 なかなかお茶が進まないので、オフィーリアはほら冷めるよ、とローザリアにすすめながら己も紅茶を楽しむ。

 子どもの頃から決め固められた人生で今後も自由に何かを決めることができない生涯である。そんな己を心配してくれて、無自覚な恋をしている相手にはツンとしている実妹と、天邪鬼っぽいが初恋相手である実妹を見守って何だかんだ大切にしてくれそうな第二王子殿下に囲まれて、多少自由に過ごすことを許されたモラトリアム期間を楽しもうと思うオフィーリアなのであった。

20250815

乱文失礼しました。



オフィーリア

 次期聖女。ローザリアとは実の姉妹。軽いシスコン。

ローザリア

 第二王子殿下の婚約者。姉に対し大きな執着を見せる。

第二王子殿下

 幼いローザリアに一目惚れ。色々と苦労している。

ローザリアの侍女

 姉妹のお目付役。婚期を逃した。

殿下の従者

 最近殿下に侍るようになった。次期聖女の治癒方法に多大なる憧れを持つ一般男子。

公爵夫妻

 姉妹の実親。姉妹が元気に育ってくれて嬉しいがローザリアの執着心を失くせなかったことを悔やむ。

伯爵家の次男野郎

 オフィーリアの婚約者。ローザリアも一応認めている。続きがあれば出てくるかも。

その他王族

 オフィーリアの扱いに悩む。

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