第五章:未来への約束
それから数年が経った。
音楽業界は激動の時代を経て、再び“夢”を信じられる場所へと変わり始めていた。
その変革の象徴とまで言われたのが――新鋭プロデューサーユニット《NextNote》。
その中心人物こそ、未来翔だった。
「今度の新企画、また“次世代”を育てる気か?」
打ち合わせ室で笑うスタッフに、翔はいつものように真剣な目で応えた。
「俺は、いつだって“誰かの初めて”を支えるためにここにいる。そうだろ?」
その背中には、数々のアーティストを育てた実績。そして、最初に手がけた“伝説”――SIRIUSのセンター、朝比奈美咲の存在がある。
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その日の夜。大型音楽フェスの会場――
煌びやかなステージの中心で、観客のすべてのペンライトが“あの色”に染まる。
「行ってきます」
舞台袖で一言だけ言い、美咲はステージへと歩いていく。その姿はもう、かつて兄に震える声で支えられていた少女ではなかった。
立ち上がったスポットライトの中、SIRIUSの最新楽曲『Eternal Nova』のイントロが始まる。
そして、彼女は歌う。
これまでのすべてを、言葉にして、音にして、光に変えて――
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観客席の一角には、両親の姿もあった。
紗奈は小さく笑い、翔太が頷く。
「……すっかり大人になったな、ふたりとも」
「うん。でも、きっとまだここからだよ」
夫婦がそう話す隣で、未来翔もまた、ステージを見つめていた。
その視線は、あの卒業の日に見上げた空と同じように、遠くを見ていた。
「美咲……あの日、君が“夢を見られる場所”を選んだから、俺も“夢を支える意味”を信じられたんだよ」
目の前のステージは、かつての“家族の物語”の延長であり、未来翔がプロデューサーとして選び続けた軌跡でもあった。
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ステージが終わる。
観客が総立ちで拍手を送り、熱狂が会場を包む中、美咲はマイクを持って言った。
「皆さんの前で、ずっと歌い続けられること……それは私だけの力じゃありません。支えてくれた全ての人に、ありがとう。そして――私をプロデュースしてくれた、最高の兄に、ありがとう」
未来翔は観客席の奥で、照れくさそうに笑った。
その瞬間、誰もが理解していた。
――この兄妹がいたから、音楽はまた“夢”になれたんだと。
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それはただの“成功”ではなく、“約束”の結晶だった。
そして、未来翔の物語もまた、ここで一区切りを迎え――
新たな“誰かの夢”のはじまりへと続いていく。
『プロデューサーの約束』――完。