第四章:覚悟の歌声
初ステージ当日――
ステージ裏の空気は、異様なまでに張り詰めていた。
美咲は袖で深呼吸を繰り返しながら、鏡の前で衣装を整えていた。SIRIUSの正式な一員としての初披露、しかも“センター”のポジション。注目度も、プレッシャーも、常軌を逸していた。
彼女の手は、かすかに震えていた。
そんな彼女を、未来翔はモニターの裏から見守っていた。目は真剣で、唇は固く結ばれている。
「ここで輝けなきゃ、あいつはただの“二世”で終わる。けど、違う。美咲は――自分の光を持ってる」
控室でのレッスン、深夜まで続いた練習、そして泣きながら歌った日々。すべてが今日のステージに繋がっている。
未来翔は手を組み、祈るように呟いた。
「行け、美咲……お前なら、できる」
⸻
ステージが暗転し、会場の観客たちの歓声が地響きのように広がる。
そして、スポットライトが中央に落ちる。
美咲が一歩、舞台に足を踏み出す――その瞬間、彼女の中で何かが“決まった”。
「もう逃げない。私の歌で、ここに立つって決めたんだ」
イントロが流れ、リズムが走る。歌い出しの瞬間、美咲の声がホール全体を包み込んだ。
その歌声は、どこか母・紗奈を思わせた。凛としていて、繊細で、けれど誰よりも芯があった。
しかし、それだけではない。
そこには“朝比奈美咲”という、たった一人の少女の、痛みと願いと希望が込められていた。
⸻
ステージを終えた美咲は、控室に戻ってきた瞬間、足を止めた。顔は汗と涙でぐしゃぐしゃになっていた。
未来翔が近づくと、彼女は震える声で言った。
「……私、まだまだだけど、夢を見られる場所に、ちゃんと立てたよね?」
未来翔は何も言わず、代わりにその手を強く握った。
「その夢、叶うまで、俺が全部プロデュースしてやるよ」
それは約束だった。
兄としてではなく、プロデューサーとして。
そして何より――家族として。
その日、美咲の“伝説”は幕を開けた。