第二章:はじまりのオーディション
未来翔は龍雷神株式会社のオフィスに立っていた。初めての大きな仕事、それは新人アイドル育成プロジェクトの担当だった。
デスクに置かれた厚い候補者リストを開くと、その中にひときわ目を引く名前があった。
《朝比奈 美咲》
彼の妹、美咲――かつて母・紗奈が築いた伝説の系譜を継ぐ、次世代の星。すでにファンの間ではSIRIUSのセンター候補として期待されていた。
未来翔はため息をつく。
「兄妹だと知られれば、話題になる。でも、プロデューサーとしては彼女の実力だけを見なきゃ」
覚悟を決め、彼は最初のオーディション会場に足を踏み入れた。
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オーディションの控室。美咲は緊張した面持ちで準備をしていた。
「兄さん……」
彼女の瞳は、期待と不安が入り混じっていた。
未来翔は静かに頷く。
「俺は、君を“妹”としてじゃなく、ひとりの才能として見る。だから、君も俺を“兄”じゃなく、“プロデューサー”として見てくれ」
美咲は深く息を吐き、小さく笑った。
「うん、わかった」
彼らの新たな関係の幕が、静かに上がった。
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オーディションの場に響く歌声は、確かな輝きを放っていた。未来翔の胸に、母の歌声の残響がまた蘇る。
だが、それは母の影ではなく、美咲自身の光だった。
「この子の夢を、俺が守る――」
未来翔は、心に強く誓った。