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第三章:孤独なセンター



SIRIUSの新メンバー発表と同時に、各メディアがその名を取り上げた。


「朝比奈紗奈の娘、デビュー!」

「二世の星、次世代センターへ」


美咲の名は瞬く間に拡散された。

だがその注目は、彼女の実力以上に、“血筋”と“肩書き”に集中していた。


デビュー曲『星彩ステラ』は、エレクトロ調のエモーショナルな一曲。

センターに立つ美咲の姿は鮮烈で、観客の目を奪った。

だが、ステージの後――SNSは、冷たく刺すような言葉で溢れていた。


「親の七光りでしょ?」

「どうせコネで選ばれた」

「紗奈の方が良かったな」


誰にも見えない控室の片隅で、美咲はスマートフォンを伏せ、両手で顔を覆った。


悔しさ、虚しさ、寂しさ。

夢に手を伸ばしたはずなのに、届いたのは“孤独”ばかりだった。


そんなとき、母・紗奈が差し入れとともに控室を訪れた。

二人きりになると、美咲は思わず口にしてしまった。


「ねえ……ママ、どうしてあのとき、SIRIUSに入ったの?」


紗奈は少しだけ目を細めて笑った。


「“歌うこと”が、私のすべてだったから。誰が何を言おうと、それだけは譲れなかったの」


そう言って、そっと娘の頭に手を置く。


「比べられるのは、しょうがないわ。でもね、美咲。輝くって、“比べられない何か”を持つことなのよ」


美咲は、はっとした。


“比べられない何か”――それは、自分だけの言葉、自分だけの想い、自分だけの歌。


母ではなく、美咲として、誰かの心に届く何か。


それを持てるのなら、今の苦しさも意味を持つ。

そんな気がした。


――それから数週間、美咲は誰よりも早くスタジオに入り、誰よりも遅くまで残った。

発声、表現、身体作り、ダンス、そしてMCの言葉まで。


すべてを、誰かに言われる前に自分から掘り下げていった。


やがて、彼女の姿勢は、SIRIUSの仲間たちにも伝わっていく。


「……センターって、やっぱ、そういうことなんだな」

「うん。あの子見てると、背筋が伸びるよね」


最初は距離のあったメンバーたちの輪の中に、美咲の席が自然に生まれていった。


ひとりきりだったセンターに、少しずつ仲間の声が加わっていく。


――それは、美咲にとって、なによりの支えだった。


孤独を越えた先に、彼女は確かに「仲間と創るステージ」を手に入れ始めていた。


そして、美咲は次のチャンスを待っていた。


それは――センターとして、初のソロ曲。


彼女の“声”が、世界に響く日が近づいていた。


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