「第0話(プロローグ)」
通りの奥、ひっそりと佇むその店には、名前がある。
『百彩堂』——百の彩りと、百の願いが宿る場所。
色とりどりの瓶が棚に並び、光に照らされてきらきらと輝いている。
赤、青、紫、琥珀、白金——すべてがただ美しいだけでなく、それぞれに不思議な力を秘めていた。
飲めば記憶を呼び戻すものもあれば、痛みを和らげるもの、心を晴れやかにするもの、一度きりの願いを叶えるものさえある。
店の奥のカウンターには、この店の店主がいる。
異形の化け物——人の姿をしていながら、どこか歪で、声も抑揚も妙に奇妙。
だが、どんな傷でも、どんな痛みでも、静かに見つめ、聞き、そして手を差し伸べる。
もうひとり、この店には少女がいる。
名はキュア。明るく元気な売り子で、誰とでも親しくなってしまうような天真爛漫な子だ。
けれど、どこか彼女の笑顔には“裏側”がある。優しさと、強がりと、胸の奥にしまった涙の色が混ざり合っている。
『百彩堂』はただのポーション屋ではない。
この店には、記憶を失くした人、未来に怯える人、大切なものを取り戻したい人が、ふと足を踏み入れる。
店に入るたび、語り手は変わる。
けれどその誰もが、ポーションと向き合うことで、自分自身と向き合っていくことになる。
この物語は、そんな来訪者たちの小さな断片たち。
そしてその断片を繋いでいく先に、
店主と少女が抱える、ひとつの大きな“秘密”と“願い”が浮かび上がっていく。
たったひとつの願いを込めて。
百の彩りのその向こうに、
誰かが、本当の“自分”を見つけるまで——