アネモネ
鏡に映る自分は、本来より7倍良く見えると言う。
無意識に表情を作ったり、美化してみたり。
だというのに、今、電車の窓に映る自分の顔のなんという頼りなさ。
眉が下がり、口角は下がり、そんな風に美化してしまっている。
三兄弟の末っ子に産まれ、年の離れた兄2人に苛まされて過ごした子供時代に、自信などどこかへ置いてきた。争奪戦には全て負け、見かねた母からお情けで与えられて過ごした。
就職活動のときでさえ、アピールポイントなんて何一つ思い当たらず、他己分析では通り一遍「優しいところ」を長所に挙げられる始末。
なぜ他人は、あんなに自分の発言に自信を持てるのだろうか。
映りが悪いのも、卑屈になるのも、理由なんて取るに足らないただ一つ。
昨夜から、メッセージアプリに既読がつかない、ただそれだけ。
なんて、なんて、しょうもない。我ながら呆れる位。
だとしても、そう思ってしまうのは性格なのだろう。
もっと前向きに生きるとか、できたらきっと世界の見えかたは変わっていたのだろうか。
引きこもっていると後ろ向きになる自分と決別したく、目的もなく街をぶらつく。
見慣れた場所のはずなのに、なんだかすごくどんより見えるのは気のせいなのだろう。
関わりだして早5年。
2人きりで出掛けることはあるし、知人を紹介されたこともある。
けれども脈なしに感じるのは、きっと、、
気のせいではないのだろう。
マイナスな気持ちを心に秘め、ふと視界に入ったお店に目をむける。
本来なら、無縁なはずのお店。
カランコロン
「いらっしゃいませー!」
外観とは裏腹に、明るすぎる青年の声に面食らう。
もっと、物静かな店内と思ったものの。
それはそれとして、外から見て心を惹かれたものを見やるとする。
「そちらのアネモネ、興味がおありですか?」
ざ・接客業といったような、表面的な笑顔に少しだけほっとする。
この人は、客としての自分しか見ていない。それのなんと安心することか。
「外から見て、目が惹かれたので…」
目を合わせることもできずに、そう返す。
コミュ障とはそういうもの。
「その子って、色んな顔を持つ子なんです。どちらかというと、ネガティブなはかない恋とかに所以するものが多くて。」
そこで彼は一息を吐く。
「ただ、見ようによってはポジティブになると思いませんか?
過去の恋に決別して、新たな恋を始めることは、結果としては良い未来に繋がると思うんです。」
なんにも知らないはずなのに、目の前の彼の言葉に胸を打たれる。
未来のない関係に見切りをつけることは、何一つ悪いことではない。
そして、関係性は崩さずに、次に進むのだって。
それはそれで、一つの答えだ。
「自分のために、その子をお迎えしたいです。」
今度は正面から相手の顔を見て、目を見て、そう伝えた。
「かしこまりました。お兄さんの門出をお祝いするように包ませていただきますね。」
さっきより急激に近づいた距離感で、とはいえまったく不快ではなく。
いつの間にか差し出された、白を基調とした色とりどりの花束。
持ち帰って、花瓶に飾ろう。
メッセージアプリはいつしか気にならなくなっていた。
~アネモネ~
はかない恋




