表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あをノもり  作者: 小野島ごろう
99/125

睦月6

「ほい、次。祢子ちゃんか」

 本家の伯父さんが手招きする。


 祢子は意を決して立ち上がり、そっちに行った。

 みんなの目に見つめられて、ひどく不安になる。

 知っている顔ばかりだが、緊張する。


「はい、祢子ちゃん。お年玉」

 祢子は、賞状を受け取るようにして受け取った。


「ほう、やっぱり六年生は違うのう」

 叔父さんの声がする。祢子の頬は、かっと熱くなる。

 いちいち批評しなくてもいいのに。


 前を向いて、「お年玉、ありがとうございます」と、できるだけ大きな声で言った。

「ほう。それで、今年の抱負は?」


「えっと、今年は中学生になるので、思春期を楽しみたいと思います!」



 ちょっとの間、全き沈黙が落ちた。



「えーと、青春だな、祢子ちゃん」

 叔父さんが、素早く言葉をかぶせてきた。


「はい?」

 なにか変なことを言った?


 だって、思春期って、青春と同じ意味だよね。


「そう、青春だもんね。いいなあ、青春」

 本家の伯父さんも、笑いをこらえている顔で、つけ加えた。



 父さんは、あさっての方を見ている。

 母さんを見ると、おばさんたちになにやら言い訳をしている。


 みんなの笑顔に、なにか妙なものを感じたが、祢子はさっさと伯父さんと握手をして、カメラの方を向いた。


 カメラの向こうにも不穏な雰囲気を感じたが、意味がわからない。


 


 席に戻ると、母さんが笑うべきか怒るべきか呆れるべきかわからないといった、みょうちきりんな顔で祢子を見た。


 いよいよわからない。


 健太にもわからないのだろう。キツネにつままれたような顔をしている。




 本家の従兄たちが立ってあいさつし始めたので、祢子はすぐに自分のことを忘れた。


 本家の従兄たちは、上がかずお兄ちゃん、下がしげお兄ちゃん。高校三年生と一年生だ。


 かずお兄ちゃんはテニス、しげお兄ちゃんは野球をしていて、二人とも真っ黒に日焼けしたスポーツマンだ。


 どっちも臆することなく、なめらかに愛想よくあいさつをして、笑いも取りながらちょっとした話もしていた。


 いいなあ。どうしたらあんな風にできるんだろう。




 次は、さえこ姉ちゃんだが、短大に行っていて、アルバイトで帰れないそうで、伯母さんが代わりに受け取っていた。

 道理で、さえこ姉ちゃんの姿が見えないと思った。






 本家の伯母さんが、小声で祢子を呼んだ。

「祢子ちゃん、ぜんざいを手伝って」


 祢子はうなずいて、伯母さんについて台所に行った。



 伯母さんは、まな板の上で丸もちを四つに切って、火にかけたぜんざいの大鍋に次々に放り込んでいく。

「切った方が、もちが速く煮えるからね。一人四つずつね」

「はあい」


 おばさんは、たくあんや漬物も切って、二つの皿に盛った。

「漬物は、上座と下座に一つずつ置いてね」



 黒塗りの椀がたくさん出してある。

 祢子は、もちが柔らかくなったのを見計らって、椀にぜんざいをよそった。


 漬物の皿を置いた盆の、空いたところにぜんざいの椀を載せて、座敷に運ぶ。


 上座から配り始める。

 あっという間に盆は空になった。

 台所に引き返して、またぜんざいを配る。



 おとなたちの目がやけに温かい気がするのは、気のせいだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ