睦月6
「ほい、次。祢子ちゃんか」
本家の伯父さんが手招きする。
祢子は意を決して立ち上がり、そっちに行った。
みんなの目に見つめられて、ひどく不安になる。
知っている顔ばかりだが、緊張する。
「はい、祢子ちゃん。お年玉」
祢子は、賞状を受け取るようにして受け取った。
「ほう、やっぱり六年生は違うのう」
叔父さんの声がする。祢子の頬は、かっと熱くなる。
いちいち批評しなくてもいいのに。
前を向いて、「お年玉、ありがとうございます」と、できるだけ大きな声で言った。
「ほう。それで、今年の抱負は?」
「えっと、今年は中学生になるので、思春期を楽しみたいと思います!」
ちょっとの間、全き沈黙が落ちた。
「えーと、青春だな、祢子ちゃん」
叔父さんが、素早く言葉をかぶせてきた。
「はい?」
なにか変なことを言った?
だって、思春期って、青春と同じ意味だよね。
「そう、青春だもんね。いいなあ、青春」
本家の伯父さんも、笑いをこらえている顔で、つけ加えた。
父さんは、あさっての方を見ている。
母さんを見ると、おばさんたちになにやら言い訳をしている。
みんなの笑顔に、なにか妙なものを感じたが、祢子はさっさと伯父さんと握手をして、カメラの方を向いた。
カメラの向こうにも不穏な雰囲気を感じたが、意味がわからない。
席に戻ると、母さんが笑うべきか怒るべきか呆れるべきかわからないといった、みょうちきりんな顔で祢子を見た。
いよいよわからない。
健太にもわからないのだろう。キツネにつままれたような顔をしている。
本家の従兄たちが立ってあいさつし始めたので、祢子はすぐに自分のことを忘れた。
本家の従兄たちは、上がかずお兄ちゃん、下がしげお兄ちゃん。高校三年生と一年生だ。
かずお兄ちゃんはテニス、しげお兄ちゃんは野球をしていて、二人とも真っ黒に日焼けしたスポーツマンだ。
どっちも臆することなく、なめらかに愛想よくあいさつをして、笑いも取りながらちょっとした話もしていた。
いいなあ。どうしたらあんな風にできるんだろう。
次は、さえこ姉ちゃんだが、短大に行っていて、アルバイトで帰れないそうで、伯母さんが代わりに受け取っていた。
道理で、さえこ姉ちゃんの姿が見えないと思った。
本家の伯母さんが、小声で祢子を呼んだ。
「祢子ちゃん、ぜんざいを手伝って」
祢子はうなずいて、伯母さんについて台所に行った。
伯母さんは、まな板の上で丸もちを四つに切って、火にかけたぜんざいの大鍋に次々に放り込んでいく。
「切った方が、もちが速く煮えるからね。一人四つずつね」
「はあい」
おばさんは、たくあんや漬物も切って、二つの皿に盛った。
「漬物は、上座と下座に一つずつ置いてね」
黒塗りの椀がたくさん出してある。
祢子は、もちが柔らかくなったのを見計らって、椀にぜんざいをよそった。
漬物の皿を置いた盆の、空いたところにぜんざいの椀を載せて、座敷に運ぶ。
上座から配り始める。
あっという間に盆は空になった。
台所に引き返して、またぜんざいを配る。
おとなたちの目がやけに温かい気がするのは、気のせいだろうか。