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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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睦月5

 しんたろう兄ちゃんって、こんな顔だったっけ?


 小さいころはよく遊んでくれた、あこがれのお兄ちゃんだったけど。


 まるで、見知らぬ男の人みたいだ。

 しばらく会っていなかったからだろうか?



 このほほ笑み。


 値踏みされているような。



 祢子の胸はざわざわしてくる。





 さっさとお酌を終えて、祢子は母さんのところに行くことにした。


 座敷のふすまを閉めると、こっちは暖房が効いていないので寒いが、今の祢子には気持ちがいい。

 とっくりの首元をくつろげて、汗を乾かす。やっぱり、ちょっとかゆい。



 母さんとおばさんたちは車座に座って、なにやら小さい袋のやり取りをしている。

 祢子が近づくと、「あっちに行ってなさい」と追い払われた。



 仕方なく、小さいいとこたちの遊んでいるところに行ってみる。



 いくこちゃんが使っているお絵描きボードに、祢子は目を奪われた。


 「せんせい」という名のついたボードは、専用のペンで書いたら黒く書けて、レバーを左右に動かしたら書いたのが消える。

 いくこちゃんが波線やばってんをたくさん書いては消しているのをしばらくほめてから、ちょっと貸してもらった。



 たぶん磁石や砂鉄を使っているのだろう。

 砂場で、磁石で砂鉄を集めた時の感触と似ている。


 へたくそなちょうちょや花をかいてみたら、いくこちゃんは喜んで、もっともっとと言う。

 これは面倒くさいことになったと、健太を呼んで、「せんせい」を渡した。

 図画工作が得意な人が適任だ。


 健太は、いくこちゃんの注文通りに、スズメやカラスやへびや鯉など描いてみせた。



 祢子は、健太が絵を描くのを見たことがあまりなかったので、驚いた。



 「せんせい」の太い描線ではもったいないくらい、上手だと感じた。


 健太の描くものは、どれも型にはまらない。

 ひらがな表や積み木に描いてあるような、ありきたりのポーズの動物たちではない。

 それはたぶん、健太の見たままの生き物なのだった。



 紙の上で、鉛筆や筆で描いたなら、もっと生き生きとしているだろう。見てみたい。





 おばさんたちが、子どもたちを座敷に呼び戻した。


 みんなが座敷にそろうと、本家の伯父さんが宣言した。



「えー、それでは、今から、お年玉贈呈式を行います」



 毎年恒例のお年玉贈呈式だ。


 小さい子から順番に、上座に行って、おじさんからお年玉を受け取って、お礼と今年の抱負を述べて、写真を撮ってもらって、自分の席に戻るのだ。

 



 トップバッターは、一番小さい三歳のゆきひろくんだ。


 ゆきひろくんは、いやいやと駄々をこね始めたので、叔母さんに抱っこされて受け取りに行った。

 お菓子やヤクルトの入った袋を差し出されると、抱っこされながら手を伸ばし、袋をもぎ取って、みんなの笑いをとった。


 その後、おじさんにちょっと手を握られて、顔をしかめたところを写真に撮られた。


 写真を撮っているのは、しんたろう兄ちゃんだ。




 次はいくこちゃん。

「あけましておめでとうございます。お年玉、ありがとうございました」

 いくこちゃんは大声であいさつして、大きな拍手をもらった。


 堂々とおじさんと握手して写真撮影。みんな感心している。




 いくこちゃんの次が健太。

 健太はもじもじと上座に行って、お年玉をもらうと、ぼそぼそといくこちゃんと同じことを言った。


「小学生はそれだけじゃ足りないぞう」「はい、今年はどんな年にしたいですか」

 おじさんたちからヤジられて、健太は棒立ちになった。


 何も考えていなかったのだろう。頭が真っ白になった顔だ。


 えーと、えーと、と何度も言ってから、

「楽しい年にしたいです!」

 なんとか言った。


 それでも、みんな拍手してくれた。

 健太はおじさんと握手して写真を撮ってもらってから、逃げるように席に戻って来た。




 次は祢子だ。

 健太のふがいない様子を見て、自分はしっかりしなければ、といろいろ急いで考えた。





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