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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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睦月3

 家に帰ると、父さんは「手洗いとうがい!」と怒鳴る。

 子どもたちと母さんが手洗いとうがいをするのを見届けてから、自分も念入りにする。


 

 そんなに外が汚いのなら、外に出なければいいのに。

 


 お昼の時間を大幅に過ぎていたので、母さんがきな粉もちを作ってくれた。

 きな粉もちも大好きだ。

 おじいちゃんも一緒に食べた。


 父さんは、新しいお札と破魔矢をあちこちに置き、いちいち深々とお辞儀をしていた。

 それが済んでから、きな粉もちを食べた。





 夜は、ご飯とおせち料理。ブリの刺身も、クルマエビの塩焼きもついた。大ごちそうだ。





 初夢は、元日の夜に見る夢なのだそうだ。

 一富士、二鷹、三なすび、というが、そのどこがいいのか、ピンとこない。


 祢子も健太も、どんな初夢が見られるかなと楽しみにして寝た。


 二日の朝、目が覚めてから、祢子は夢を思い出そうとした。

 見たような気がするが、見なかったのかもしれない。

 覚えていないのなら、あまり大した夢ではなかったのだろう。


 健太は、「ランボルギーニカウンタックに乗った夢を見た」と言い張っていた。






 二日の日は、毎年親戚の宴会がある。


 お盆のように本家に集まって、お昼から夜までみんなで飲み食いするのだ。


 おじいちゃんはやはり、留守番すると言った。

 おじいちゃんが行っても、居心地が悪いのだろう。



 母さんは、お雑煮とおせち料理の朝ご飯が済んでから、おじいちゃんのお昼ご飯にと、ご飯をたいて、おにぎりを作った。

 おせち料理も少しずつ盛って、おかずにした。




 「祢子、健太、これを着てごらん」

 母さんが出してきたよそ行きに、祢子は目をみはった。


 いつの間に買ったのだろう。お古ではない、買ったばかりの服だ。


 祢子にはとっくりのセーターとウールのチェック柄のジャンパースカート。

 健太には柄シャツとチョッキと暖かそうな生地の半ズボン。


 父さんにも新しいブレザーとズボンが出してある。



 祢子はおそるおそる着てみた。

 とっくりのセーターの首のところがチクチクするような気がしたが、とてもかわいくて気に入ったので、我慢する。


 母さんに見せに行くと、「ああよかった。とてもよく似合っているよ」と嬉しそうに言った。


 健太もよく似合っていた。

 健太は母さんにほめられて照れて、カーテンに巻き付いてぶら下がって、父さんと母さんに怒られた。



「祢子も健太も、ちょっと、おじいちゃんに見せておいで」

 母さんが言った。


 二人で書斎に行って、おじいちゃんに見せると、おじいちゃんはにこにこして「二人ともよく似あっているよ」と言った。


 その笑顔で、祢子はわかった。

 これも、おじいちゃんがお金を出してくれたのだ。


「ありがとう、おじいちゃん。この服、とってもかわいい。お気に入り」

「そうか。楽しんでおいで」

「うん、ありがとう」




 父さんは、新しい服をなかなか着ようとしない。

 母さんはあきらめて、さっさと自分の準備を始めた。



 母さんの服はすてきなピンクのセーターと、花柄のスカートだ。


 母さんはきれいにお化粧をする。

 パフで顔をたたいて、眉を描き、赤い口紅を引いたくちびるを吸い込むようにしてすり合わせてから、「ん、ぱっ」と、じっと見ていた祢子と健太におどけてみせた。


 それから、髪をゆるくバレッタで留めてスプレーをかけ、胸元にブローチをつけた。



 母さんはおしゃれをしなくてもきれいだけど、おしゃれをすると、誰よりもきれいだ。

 近所の人たちよりも、親戚のおばさんたちよりも。


 女優さんみたいだ。


 祢子ちゃんのお母さんって、美人だよね、とよく言われるけど、やっぱり美人だ。


 わたしも将来、母さんみたいにきれいになれるのかな。


 

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