睦月2
父さんは、お札や破魔矢を、家中のあちこちから回収してくる。
おじいちゃん以外のみんなは、コートやジャンパーを羽織って、自転車に乗った。
神社の近くの空き地に自転車をとめて、そこから神社に歩いて行く。
日本古来の、独特な音楽が、もう聞こえてくる。
小高いところにある社殿までの長い石段には、すでに参拝客がびっしりと列をなしていた。
祢子たちは最後尾に並ぶ。
父さんは、古いお札なんかを納める場所に一人で向かった。
父さんが戻ってきた時には、祢子たちの後ろにも人が並んでいた。
「父さん、こっち、こっち」
祢子と健太が一所懸命に手招きするが、父さんは知らんぷりして、最後尾に並んだ。
母さんが、「ほっときなさい」と言う。
「お父さんは、なんでああなんだろうね」
祢子と健太は黙っている。
「おじいちゃんにも、もう少し優しくしてあげればいいのに」
母さんがつぶやく。
一歩一歩、順々に列を詰めて、石段を上がっていく。
鳥居をくぐると、参道の両脇に、だれだれの寄付、と彫った、小さい石塔が並んでいる。字が崩れて読みにくい。
北風が寒いが、立ち並んだ人が風よけになる。
思ったよりも早く、列は前に進んでいく。
手水舎にたどり着いたので、祢子と健太が先に手を洗いに行った。
まわりの人がするのを見て、祢子はひしゃくを取って流れ出る水をすくい、片手ずつにかけた後に、手に受けた水で口をゆすいだ。
ひしゃくを戻して母さんのところに帰り、ハンカチを借りて手や口をぬぐう。
交代で、母さんが手水舎に向かった。
ふと後ろのほうにいる父さんを見ると、顔をしかめて手を動かしながら、怒っている。
怒られるようなことをしただろうか。いくら考えてもわからない。
門をくぐって、社殿の前に来る。
母さんがお財布を出した。五円玉を二つ探して、祢子と健太に一枚ずつくれた。
祢子はさい銭箱に五円玉を投げ込んで、目の前の太い綱を引いてがらがらと鐘を鳴らした。
横で、健太も母さんも鳴らしている。
神主さんが、脇の方から白い御幣を差し伸べて、しゃらしゃらと揺すった。
柏手を打って、お辞儀をする。
今年も家族が元気でありますように。
お参りが終わると、すぐそこの、人だかりがしているところが気になった。
いろんな品物がたくさん積み上がっている。
白い着物に赤い袴の、きれいなみこさんたちが、品物を取ってお客に渡したりしている。
福引だと、近くの人が話している。
いいな、おもしろそう。やってみたいな。母さん、させてくれるかな。
福引と反対方向には、おみくじが売ってある。
あれも一つ引いてみたい。
祢子があちこち見回していると、お参りを終えた父さんが横にやってきて、小声で怒鳴った。
「あんなところで口をゆすぐんじゃない!」
何を言われたのかわからなかったのでぽかんとしていたら、「手を洗うだけにしときなさい!」とまた怒られた。
ああ。手水のことか。
祢子の気分は、一気に下がった。
健太がねだったので、母さんは子どもたちに福引をさせてくれた。
健太は三等を当てて、おもちゃの水鉄砲をもらっていた。
祢子は四等賞で、欲しいものがなかったので、母さんのためにラップをもらった。
父さんは、今年のために新しい「家内安全」のお札と破魔矢を買った。
父さんがお金を払っているのを見て、祢子は驚いた。
今まで、古いのと交換でもらえるのだろうと、祢子は思っていたのだ。
母さんにそう言ったら、「そんなわけないでしょ」と笑われた。
祢子は、なぜそんなわけがないのかと、ますますわからなくなった。
神様をまつる場所なら、お金なんてもらわないのかと、勝手に思っていた。
「じゃあ、その売ったお金は、どうなるの?」
母さんに尋ねたら、母さんは面倒くさそうに「さあねえ」と言った。
「そろそろ帰るぞ」
父さんが宣言した。